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【コミカライズ】捨てられた聖女の復讐〜みんな大っ嫌い、だからすべて壊してあげる〜  作者: やきいもほくほく
四章

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59/60

⑤⑨


「もしアシュリーをこれ以上傷つけるというのなら、僕は今この場を血で染め上げ、今度こそお前たちに地獄をみせてやる」


「……っ!」



ギルバートはサルバリー国王の陳腐な脅しにはまったく屈することはない。

まるでお前たちにはなんの権限もないとでも言うように静かに言葉を返す。



「ゴホッ!っ……ア、シュリー」



手を伸ばし続けるオースティンを見て、青褪めたサルバリー国王と王妃は震える声で叫んだ。



「頼むっ!アシュリー、オースティンをっ」


「ッ、アシュリー!今までのことはすべて私たちが悪かったわ……!だからッ、だから……!」


「許してくれ、お願いだっ!」



体を丸め涙を流し、床に頭を擦り付けて叫ぶ姿を見てもアシュリーの笑みは更に深まるだけ。



「一つ……いいことを教えてさしあげますわ」


「なんだッ!?なんでも言ってくれ!」


「オースティン殿下を見ていて、わかりませんか?」



アシュリーはゆっくりと首を傾げてから口角を上げた。

オースティンを見ながら目を細めて、残酷な真実を伝える。



「もう手遅れでしょう?」



もうアシュリーの力ではどうにかできる段階ではないほど病に蝕まれているというのに。


(……チャンスは何度もあったのに)


ユイナがいなくなり、他の国に薬がないか調べたり、新しい医師を探してオースティンを治療をすれば助かったかもしれない。

病への対策は年々進んでおり、様々な薬も出来上がっているはずだ。

サルバリー王国はアシュリーやユイナの力に完全に頼りすぎて、今までオースティンを助けるために力を入れていた医療に金を掛けることを止めてしまった。


(人の力に頼りすぎて、何もかもを疎かにした結果だわ)


自分たちだけ助かればいい、金を掛けなくて済む。

そんな思いからだろう。

そのために一カ月も引き延ばしたのに、アシュリーの力を使うことしか考えておらず、魔獣への対策もしていない。

逃げ続けながらサルバリー王国は終わりを迎えつつある。


なのにサルバリー国王たちはアシュリーの力に頼ることしか考えていなかった。

そのため、こうなるのは目に見えていた。


(お父様やお母様と同じ……わたくしたちを使って、楽することばかり考えているからこうなるのよ)


一度啜った甘い蜜を忘れられずに縋りつくしか頭になくなってしまう。

やれることはたくさんあっただろうに。



「逃げてばかりいないで、そろそろ現実を見た方がいいですよ?」



二人は信じたくないのだろうが誰がどう見てもわかることだった。

オースティンの止まり続けていた症状が、ユイナの持っていた魔力が尽きたことで進行していく。

そしてユイナがいなくなり、まったく治療を施さなくなったことで今はもう取り返しがつかないところまでいってしまう。

今、治療しようとここまで苦しい状態は変わらない。

アシュリーの魔法は万能ではない。

幼い頃、オースティンの病をアシュリーの魔法で食い止めていた。

彼の体が大きくなり、治ったように見えたが完治していたわけではなかったのだ。

治したわけではなく、食い止めるだけ。



「今のオースティン殿下に力を使ったところで何も意味はありません」


「そ、んな……」


「…………嘘だ」


「ただ壊れるのを待つだけ」

 


アシュリーの言葉に周囲は静まり返っていた。

オースティンは意識を失い、騎士たちに抱えられながら去っていく。

サルバリー国王は膝を突いたまま唖然としてピクリとも動かない。

王妃は泣き崩れて狂ったように叫んでいたが騎士たちに引き摺られるように連れて行かれてしまった。


(これで、最後の希望も断ち切ったわ)


彼らにとっては最悪の結末だろう。

今、彼らは大切な国も地位も金も立場も何もかもを失おうとしている。

これ以上の苦しみと絶望は他にないだろう。



「ウフフ……アハハッ!」



アシュリーの笑い声が広間に響き渡る。

これは欲に溺れた結果だろう。

結局は自業自得……彼らは何度も何度も選択肢を間違えた。

治療を断る前から決まっていた未来だ。

そのこと最後に明かして完全に戻れないところまで堕としていく。

あとは時間が経つだけで相手は勝手に自滅していく。



「やっと終わったね。アシュリー」


「ギルバート殿下、ありがとうございます」


「これで君の苦しみや悲しみは晴れたかな?」



ギルバートの問いかけにアシュリーはフッと息を漏らした。

復讐の終わりは随分と呆気ないものだった。

自滅していく様子を遠くから眺めていただけ。

なんともつまらない幕引きである。


アシュリーはギルバートの大きな手を握り、静かに身を預けていた。

彼の表情は穏やかでとても嬉しそうだった。

アシュリーはふと、窓の外を見た。

空虚な景色は色褪せたままだ。


(もう終わりなのね)


絶望を前に這いつくばる姿を見ることができて、心の底から嬉しいはずなのに、跳ねて喜べるような心持ちではなかった。


(でもこれでいい……これでいいの)

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