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⑤⑦ オースティンside22

両親が何を言っても予想もしていない方向に話は勝手に進んでいく。

確かにアシュリーの言う通り、無意識に無償で治療を受けられると思っていた。

何故、無償で助けてくれると思ったのか。

今までそれが当たり前で当然だったからだ。


しかしアシュリーはもうペイスリーブ王国の人間で、こちらで自由に動かせる存在ではない。

次々と冷や汗が流れていく。

アシュリーはこちらに軽蔑した眼差しを送る。



「それは、わかっておる……っ!金なら払う」


「サルバリー王国にそんなお金があるとは思えませんわ。辺境に住むサルバリー王国の国民たちは、次々とペイスリーブ王国に亡命してきています。そんな状態なのに口だけの約束をするわけありません」



アシュリーの言う通りだった。

サルバリー王国はかつてないほどに追い詰められている。

ユイナもいなくなり、魔獣に追われて貴族たちはバラバラ。

今だって現実から目を背けるようにここに来ていた。



「それに、あの時わたくしに言ったことを忘れたなんて言いませんよね?」


「……っ!」



アシュリーの言葉は核心を突くものだった。



「わたくしのことをいらないと言って捨てたのは陛下たちではありませんか。それにユイナ様がいなくなったからといって、脅して力を使わせようだなんて……烏滸がましいにもほどがありますわ」



いくら誤魔化そうとしてもアシュリーの言う通りだった。

だからこそ本人から事実を突きつけられてしまえば、何も言い返すことができないのだ。



「わたくしを利用し続けた報いを受けるがいいわ。ウフフ……誰の言葉だったかしら?」


「───ッ!」



アシュリーの固い意志と恨みを感じて焦りばかりが募っていく。



「それにわたくし謝罪も受けておりませんし、心が痛いですわ」



アシュリーのその言葉に一筋の希望を見出した瞬間、プライドなどどうでも良くなってしまった。

『謝罪をすれば治療してくれるかもしれない』

オースティンはすぐに治療して欲しいと思ったが、咳ばかりが出て言葉が紡げない。

父も母も同じ気持ちなのだろう。

その想いだけで動いていた。



「すまなかった!この通りだ……っ!」



今は見栄を張っている場合ではないと、父と一緒に深く深く頭を下げた。



「私たちはアシュリーにあんな態度を取ったことを後悔しているわ!何だってする、だからどうかオースティンを!オースティンを助けてぇ……っ」



ついには目の前で母が泣き出してしまった。

それでもアシュリーは笑みを崩さなかった。



「………」


「………」



広間には沈黙が続いていた。

何の反応も返さないアシュリーに痺れを切らして口を開く。



「しゃ、謝罪をしたぞ……!?」


「はい、そうですわね」


「だからオースティンを治療してくれるわよね?」



するとアシュリーは思い出したとでも言うように手を合わせた。



「あぁ……そうだわ!そういえばわたくし、オースティン殿下にも随分と長い間、ひどい扱いを受けておりましたわ」


「……!」


「なのでわたくしは、オースティン殿下を死ぬほど恨んでおります」


「ぁ……」


「そんな人のために治療をするなんて考えられないわ。わたくしは、わたくしの愛する方にだけ力を使うと決めているのです」


「アシュリー、あなた……」



天使のように笑顔を絶やさなかったアシュリーが、今となっては悪魔に見えた。

だが、今はアシュリーの要望とも言える発言に応えるしか道はなかった。



「……オースティン、しっかりしろ」


「ゴホッ、ゴホ……!」


「寝たままでもよい!アシュリーに謝罪をするんだ!」


「ゴホッ、ごほ……っ!」



カルゴに支えられて、苦しそうに呼吸するのが精一杯のオースティンの姿を見てアシュリーはいい気味だと笑うだろうか。

目の前にはギルバートとアシュリーが寄り添う姿。

ふと横を見ると鏡が映る。

咳で眠れていないのか、目の下には隈が目立つ。

以前より病が進行したのか痩せ細り覇気もない。

しかし生にしがみついている自分がいる。

アシュリーが聖女として再び力を使ってくれるならまだ希望はあるはずだ。


アシュリーと目が合った瞬間、希望を見出したオースティンの瞳に光が宿る。

アシュリーから笑みは消えて目を細めた。

しかし言葉を紡ごうとしてもすぐに咳き込み背中を丸めてしまう。



「……ごきげんよう、オースティン殿下」


「ア、シュリー……けほっ」


「…………」



熱が上がってしまったのだろう。

まるでアシュリーに助けを求めているようにオースティンが震える手を伸ばす。

しかしギルバートはアシュリーを守るように肩を寄せて抱き込んだ。



「陛下……!もう長い時間はっ」


「わかっておる!」



カルゴが焦ったように大きく首を振る。

大きく頷いた父はオースティンに向かって口を開いた。



「オースティン、聞こえるか……!?」


「は、い……ッごほ」


「アシュリーは今までのお前の態度に心を痛めているんだ。どうすればいいかわかるな?」


「……!ごほ、っ」



オースティンの頬からは止め処なく涙が流れていく。

深々と頭を下げているオースティンは絞り出すように声を出した。


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