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「……バート様?」


「護衛として一緒に来てくれたんだ」


「アシュリー嬢、バートだ。よろしく」



ロイスがバートを紹介する言葉は何故か歯切れが悪い。

バートはアシュリーの手を取り、そっと手の甲に口付けた。

アシュリーはただならぬオーラを発しているバートに釘付けになっていた。

バートはペイスリーブ王国で魔法の力がないロイスを守ってくれてくれているのだろうか。

そこまで危険はないと聞いたが、兄に何かあったのか心配になったアシュリーだったが、そういうわけではないらしい。

兄の友人に失礼があってはいけないと改めて挨拶をしようとフラリとよろめいたアシュリーをバートが支える。



「……もっ、申し訳ございません!」


「いや……大丈夫かい?」



バートはアシュリーを支えるように腕を伸ばす。

逞しい腕に支えられたアシュリーはバートを見上げるようにしてお礼を言った。

弱々しくも微笑むアシュリーにバートは大きく目を見開いている。



「アシュリー、そんなに顔色が悪いのにどこに行こうと言うんだ?」



ロイスの言葉にアシュリーは唇を噛んで俯いた。



クララからアシュリーの詳しい状況を聞いたロイスは震える手を握った。

そして直様、抗議するために両親の元へと向かった。

アシュリーを城に向かわせるべきではない、喧嘩はやめてくれと二人に訴えかけた。

三人は激しく罵り合っていた。

自分が原因でロイスと両親の仲まで悪くなってしまう……それを心苦しく思い「わたくしが悪いのです!」と、ロイスを止めようと必死になっていた。

すべては優しい兄の未来を守るためだと思った。

両親に邪魔だと突き飛ばされたアシュリーをバートが支えた。

クララがアシュリーの元に駆け寄る。



「ありがとうございます、バート様」


「……いえ」



そこで両親を睨みつけるバートの存在に気づいたのだろう。

両親はやっと喧嘩をやめた。

しかし気持ちが収まらないのか、バートに挨拶をした後に隣の部屋へと移動する。

バートがアシュリーを抱えて部屋へと運んでくれた。

結局、両親は納得していなかったがロイスとバートの説得でアシュリーは休むことになった。

ロイスが両親と話し合っている間、アシュリーはバートと他愛のない話をしていた。

クララが紅茶と菓子を置いて後ろに待機している。



「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしてしまって」



アシュリーが謝罪するとバートは緩く首を横に振る。

そしてある言葉を口にする。



「ずっとこうなのですか?」


「……っ!」



アシュリーは自らの腕をギュッと握った。

しかし表情だけは取り繕い、ゆっくりと口端を上げてから口を開く。



「お父様とお母様はわたくしのことを一番に考えて言ってくださっているのだと思います」


「……そうですか」


「お兄様にも……心配ばかり掛けてしまい情けないですわ」


「そんなことはない。あなたは優しい人です」


「え……?」


「僕はそう思います」



バートはアシュリーのことを気遣うように聞いてくれた。

見たこともない絹糸のような白髪と優しい青い瞳があった。

ロイスとクララ以外で、こんな風に温かい気持ちになったのは初めてかもしれない。

そんな時、バートの手のひらに傷があることに気付いたアシュリーは手を伸ばす。



「アシュリー嬢?」


「バート様、怪我をしたのですか?」


「大したことではありませんよ」


「いいえ。悪化したら大変ですわ」



アシュリーがバートの手を握り、力を込めると淡い光が包み込む。

あっという間に怪我はよくなってしまう。



「ありがとうございます。アシュリー嬢」


「いえ、お役に立ててよかったですわ」


「やはり……あなたは何も変わらないのですね」


「え……?」


「なんでもありませんよ」



バートとの時間は心地よく思えた。

先ほどの出来事を忘れてしまうくらいに……。


アシュリーは温かい時間を過ごしていたが、二人は学園があるためペイスリーブ王国に帰っていった。

それが名残惜しいとすら思ってしまう。

ロイスは改めて学園に休学許可を取って戻るとアシュリーに言ってくれたのだ。


しかし両親はロイスとバートがいなくなった途端にアシュリーを無理矢理部屋から引き摺り出して、押し込むようにして馬車に乗せた。

魔獣からサルバリー王国を守らなければ、民を守れと叫ぶ声が耳に届く。

覚束ない足取りで馬車に乗り込み項垂れるアシュリーの横で、クララが涙を流しながら謝っている。

アシュリーはクララに「あなたのせいじゃないわ。巻き込んでごめんなさい」と謝罪をした。

クララは馬車の中でアシュリーをずっと抱きしめてくれていた。


城に到着して、クララは馬車で待たせることにした。

「お前のせいだ」とアシュリーを責め立てる声が響く。

石を投げられながら城の門をくぐった。

誰も味方がいない中で壁を伝いながら、いつも結界を張っている場所へと向かう。


しかしいくら力を込めたとしても、国を守るほどの結界を張ることができなかった。

恐らく体調不良が原因なのだろう。

いつもは三十分くらい祈れば張れるのに今回、結界は二時間かけたとしても国中に行き渡らせることはできなかった。


(わたくしがちゃんとしなければいけないのに……!)


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― 新着の感想 ―
一人の個人に国一つの防衛を押し付けるとか普通に頭悪いな
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