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オースティンとアシュリーが十歳くらいまでは毎朝、アシュリーをエスコートして、共に過ごす時間を大切にしてくれたが、今はもう一緒に笑い合った日々は、いつの間にか懐かしい思い出になってしまった。

オースティンの態度はある事件を境に随分と様変わりしてしまったからだ。

病の治療が終わり、結界を張り終えると「早く帰れ」と、言いたげに黙ってむくれるようになった。

「少しお話しませんか?」そう言っても、オースティンは無視して部屋を出て行ってしまう。

アシュリーはポツンと部屋に取り残されてしまう。


こうなった原因はわかっていた。


(わたくしのせいでオースティン殿下は……)


両親は絶対にダメだと言っていたが、どうしても外で遊びたかったアシュリーは、父と母の目を盗んでオースティンや令息たちと共に庭を駆け回ったり、かくれんぼをして遊んでいた。

アシュリーは初めての経験に気分は昂っていた。


しかし、その日はとても日差しが強い日だった。

部屋にばかりいるためか、体力がなく熱い日差しに耐えられずにアシュリーは倒れてしまったのだ。

高熱に魘されている間、オースティンや他の令息たちは、アシュリーのことでひどく叱られたのだそうだ。


両親は令息たちの親に猛抗議した。

そして国王やオースティンに対しても、かなり強い態度で怒りを見せたのだそうだ。

『アシュリーがいなければ、オースティン殿下は生きられないのよ!?それなのに何を考えているのですか』

『アシュリーの力が失われたら国の損失になるのですよ!?オースティン殿下もアシュリーに救われたでしょう!』

特別な力を持つ、アシュリーの存在は何にも代えられない……そんなアシュリーをお前たちは傷つけたのだと、エルネット公爵はオースティンを容赦なく責め立てた。


その時から、アシュリーとオースティンの二人の関係に深い深い亀裂が生まれた。

カルロスから心ない言葉で責められたオースティンは自分の病が治ったことをずっとアシュリーに感謝し続けなければならないという現実や理不尽な扱いに腹が立ったのだろう。

その時、オースティンのアシュリーへの気持ちに暗い影が射した。


オースティンは王太子という立場やプライドもあり、アシュリーを敬い、感謝していかなければいけない現実を受け入れられずに、次第にアシュリーを疎ましく思っていった。

そんな彼の態度を見ていた他の令嬢や令息たちからも嫌厭されることとなる。

多感な時期ゆえに、アシュリーは周囲から爪弾きにされていく。


あの時、自分が気をつけていればオースティンや令息たちは傷付かずに済んだかもしれない。

そんな罪悪感もあったからか、どんな態度を取られてもアシュリーはオースティンに誠実に接し続けた。

唯一、関わることを許されているオースティンとまた以前のように仲良くしたい気持ちが強かったのかもしれない。

オースティンが城の中庭で楽しそうに令息や令嬢たちとお茶をする姿を羨ましく思っていた。


(わたくしも、オースティン殿下にあんな風に笑顔を向けられてみたい……)


けれどアシュリーの細やかな願いとは裏腹に、二人の関係はうまくはいかなかった。

オースティンに触れられるのは大きなパーティーや必ず出席しなければならない式典のみ。

そこでもアシュリーは孤独に苛まれることになる。

何故か針のように突き刺さる視線……こうして治療だけしかしていないアシュリーに、皆からは恨みが籠った視線を向けられることも増えた。


(どうして……?何故、皆はわたくしを睨みつけるの?)


その理由もわからないまま、あまりの居心地の悪さに会場を抜け出したこともある。

たまに他国の人と交流したり話したりすることがアシュリーの楽しみだった。

そんな時間も両親にバレてしまえばすぐに会場に連れ戻されてしまうのだが。


オースティンも貴族たちも何故かアシュリーを嫌っていく一方だ。

治療を受ける時ですら、アシュリーに冷たい態度で接してくる。

あんなにもアシュリーに感謝してくれる国民たちも同じ。

アシュリーに軽蔑した視線を送る。


(わたくしがもっとがんばれば……!)


それでもアシュリーは笑顔で対応していた。

国のために結界を張り続けて部屋に篭り、両親が言われるがまま治療を続けた。

どんなに蔑ろにされたとしても『ありがとう』と言われなくなっても、アシュリーは笑みを浮かべながら聖女として力を使い続けた。


そしてアシュリーが十六才の時だった。

王立学園にも通わせてもらえずに、相変わらず部屋の中に居た。

幸い王妃教育と家庭教師のおかけでマナーや勉強は困りはしなかったが、本当は寂しくて堪らなかった。


(でも、わたくしがわがままを言えば……すべてが壊れてしまう)


あの一件からアシュリーは他者に迷惑を掛けてはいけないとすっかり大人しくなり、エルネット公爵邸の中ならば行動が許されていた。


(わたくしのせいで誰かが傷つくくらいなら……このままでいるしかないのよ)


心を開けたのは、幼い頃から世話をしてくれていた侍女のクララと兄のロイスだけであった。


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