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来訪

その者がトビーの元を訪れたのはクララがトビーの姉であるナリィと共に暮らし出して二週間が経とうとしている時の事であった。


休日の午後、クララが使っていた部屋の片付けをしようと診療所へ来ると、玄関に佇む一人の男性の姿を見つけた。


黒髪に深緑の瞳。

長身痩躯だが鍛え上げられた肉体を持つのが服の上からでもわかる。

腰に帯剣している様からもこの男が騎士である事は明らかだ。


この辺境の長閑な町に似つかわしくないその佇まいを見て、トビーにはその男が影の仕事をしている者だとすぐにわかった。


かつて辺境騎士団の医務室勤務であったトビーはそこで、今目の前にいる男のような空気を纏う者たちを診た事が何度もある。

先日診療所(ここ)を訪れた友人もその類の人間だ。


“影”と呼ばれる者たち。


彼らは表立っては動かない。

誓約魔法に縛られた国家の為に働く者で、彼らの所属機関を“暗部”と称する国もある。


危険な任に就く事が多く、任務中に命を落とす事も珍しくは無い。

だから孤児や口減らしの為に家を追い出された末の男児や女児を引き取り、名目上は騎士として育てて国家の影として働かせるのだ。


この男は、間違いなくその世界に身を置くものだろう。


そんな人間が何故ここに?


どう見ても患者ではない。

こんな辺鄙な町をわざわざ訪れた旅行者でないだろう。


しかしトビーにはこの男が何者なのか、一つだけ心当たりがあった。


少し前までここに勤めていたクララ、彼女の夫ではないかと。


クララは自分を裏切った夫から逃げたと言っていた。

トビーとて医療魔術師。

国の政策により簡単に離縁が認められない身であった。

幸い自分たち夫婦の仲は良好で、まさしく死が二人を分かつまで共にいる事が出来たが……。



───クララを追って来たのか。


先日古い友人が言っていたのはこの男の事だろう。


やはり婚姻維持の為にクララを連れ戻しに来たのか……。


政策婚姻者との離縁となれば出世に響く、それを厭うてクララを追って来たのか。


決して今のクララの居場所を気取られぬようにしなくてはならない。トビーはそう思った。


そしてトビーは何食わぬ顔でその男に声をかけた。



「やや?診察を希望する方かな?あいにく今日は休診日なのだが」


その言葉に男はトビーの方へ向き、こう告げた。


「いえ。私は患者ではありません。ここに若い女性医師が勤めていると聞き、伺いました」


やはり。

トビーは努めて冷静に相手に向かって訊ねた。


「……貴殿は?」



トビーがそう言うと男は略式だが礼儀正しく騎士礼を執り、名乗った。



「申し遅れました。私は王国騎士団所属騎士、ウォレス=バートンと申します。こちらに勤めている女性医師は恐らく私の妻、クララ=バートンであると思われます。どうか彼女に会わせては頂けないでしょうか」



焦燥と悲愴と空虚、それら全てが綯い交ぜになった深い深い森のような色の瞳が、真っ直ぐにトビーへと向けられていた。






───────────────────────




短め更新でごめんなさい。


次回の更新は明日の夜になります。


トビーさんがウォレスという男を見極めてくれるようですよ。

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