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灼きつけられた呪印 ウォレスside③

 ウォレスとウォードはバートン孤児院から王国騎士団のとある施設へと連れて来られた。


 そこで『教育係』とかいう中年の騎士に引き渡される。


「俺はお前たちの指導を担当するロンダールだ。……どっちが兄でどっちが弟だ?」


 ロンダールと名乗った騎士が最初に発した言葉がそれであった。

 ウォレスが答える。


「……オレが兄のウォレスで、こっちが弟のウォードです」


「全く見分けがつかんな。普通はたとえ一卵性双生児であっても何らかの特徴的な差はあるものだが……それもお前たちが精霊憑きである事と何か関係しているのか?」


「そんなことわからない」


 ウォレスがそう答えるとロンダールは「まぁいい」と言い、そして「ついて来い」と歩き出した。


 双子はその後を黙ってついて行く。


 そして到着したのは浴室で、双子はまず風呂に入れられた。

 どうやらこの時から既に、もう『指導』とやらは始まっているようだ。


「影で動く者に()()があってはならない。毎日必ず、そして任務前も必ず風呂に入れ。その場合この魔法薬で作られたこの特別な石鹸しか使ってはならない、いいな」


 生きものが放つ全ての匂いを消すという石鹸で、洗い方まで指導されて双子は入浴を済ませた。


 そして次は何をさせられるんだろうと身構えていたら、なんと次は食事の時間だった。


「「………………!?」」


 この施設の限られた者しか使用しないという食堂に連れて来られ、双子の目の前には見た事もないような大きな肉がゴロゴロと入ったシチューや見た事もないようなカラフルなサラダ、そして見た事もないような大きなチキンレッグを焼いたものや見た事もないようなフワフワのパンが並べられていた。


 ロンダールは双子に言う。


「好き嫌いせずに何でも食べろ。しかし任務前は香りがする食物は口にするな」


「か、かおりをはなつしょくもつって?」


 ウォードが釘付けになっている食事から目を離さずに訊いた。


「ニンニクや生姜、香草や酒などだな」


「お酒なんてのめないよ」


「それもそうだな。まぁいいとにかく食え。食って身体を強く成長させるのもお前たちの仕事だ。お残しは許さん」


 ───こんなご馳走、誰が残すかよ!


 と思いながら双子は目の前の食事を一心不乱に食べ始める。

 そして生まれて初めて“満腹”という感覚を知ったのであった。


 食事はロンダールも共に食べた。

彼は食事中も終始無口で、必要な事しか喋らない寡黙な性質(たち)のようだ。

 そして不覚にも食べきれなかった双子の分の食事もロンダールはペロリと平らげた。


 それから食事の後はこれまた魔法薬で作られた歯磨き粉を使って、決して口臭がしない歯磨き指導までされたのであった。


 次にロンダールは双子をある部屋へと連れて行く。

 部屋に入るとそこにはなんの変哲もない二段ベッドと小さなテーブルと椅子が二脚が置かれていた。


 そして彼は双子にこう告げた。


「ここがお前たちの部屋だ。今日は移動で疲れただろうから早く寝ろ。夜更かしは許さん。子供は食って寝て身体を作っていくものだ。明日からお前たちの適性を見ながらの訓練を始める。寝不足ではもたんぞ、いいな?今すぐグッスリ寝るように。ちなみにトイレは部屋を出て突きあたりを右にだ。以上」


 とそう言って、ロンダールは部屋から出て行った。


 後にはポカンとした表情のウォレスとウォードが取り残される。


 なんだ……?

この至れり尽くせりの感じは……?


 騎士団に連れてこられ、何やら怪しい事をさせられると思っていた双子は拍子抜けして呆然とするしかなかった。


 そしてぽつりとウォードがつぶやく。


「……オレ、2だんベッドの上がいい……」


ウォレスもぽつりと返事をした。


「……あぁ、いいよ……」


 そしてそのまま「なんなんだ?」という頭に疑問符を浮かべながら眠りについたのであった。



 しかし翌朝からはまだ東向きの窓に光も差し込まないうちに叩き起され、最初の一日が夢だったのではないかと思うほど過酷な訓練の日々が始まったのであった。


 朝起きてまず水分補給をさせられた後、ストレッチから始まり地獄のロードワークを朝メシ前に。


 そして朝食を終えたら語学などの座学、そしてその後はひたすら体術や剣術の訓練だ。

 その合間に昼食や夕食を挟むといった感じである。

 それに加え、諜報活動のノウハウを徹底的に叩き込まれる。

 毎日ヘトヘトで夜は泥のように眠るウォレスとウォードであった。


楠の精霊クーは施設内に丁度よい楠を見つけ、それに棲む事になった。

施設内には魔力を持った人間もいるため、クーとの接触は人目を忍んで行われた。


 そんな日々が延々と続き、双子が騎士団に引き取られ二年が過ぎ、二人は十二歳になっていた。


 そして双子に、運命の日が訪れる。



 その日はいつになく教官であるロンダールの表情が硬かった。


 そして彼は静かな声で二人に告げる。


「お前たちはこの二年間、ホントによく励んだ。まさかたったの二年でここまで諜報員としての技能を身につけられるとは思っていなかった。そして近々、お前達は初任務に就く事になるだろう」


初任務、という言葉にウォレスもウォードも緊張しつつも気が逸る。

ロンダールの指導の下、訓練を積み重ねて来た双子はこの時まではまだ、自分たちはそれぞれ諜報員として任に就くと思っていたのだった。


ロンダールはそんな二人に言った。


「任務に就くにあたり、お前たちは王国と誓約を交わす事が決められている」


「誓約?」


「己の出自、騎士団内部や任務に関わる事全てを決して第三者に語れなくするための魔法による誓約だ」


「そんな事しなくても俺たちはしゃべりません」


「影で動く者…俺も含めて皆、この誓約魔法を交わす事を義務付けられている。無論拒否権はない、分かるな?」


「信用されてないんですか?」


「上の者にはお前たちがどんな人間であるかなど知らんからな。人は裏切る、それも簡単に。その裏切りが国の根幹を揺るがす事態に陥ることを防ぐための誓約なのだ」


感情の籠らない、冷たい声で語るロンダールの口調は、自分たちはここにただの騎士となるために連れて来られたのではなかった事を思い出させた。


しかし双子はただ、それに従うしかない。


そしてタイミングを見計らったようにその部屋に数名の騎士と魔術師らしきローブ姿の男が二名、入ってきた。


ウォレスとウォード、それぞれの前にそれぞれの魔術師が立つ。


「………始めてくれ」


ロンダールがそう告げると双子の足下に魔法陣が広がった。


「「……!?」」


ウォレスとウォードは咄嗟に離れようとするも足が縫い付けられたように陣から離れない。


魔術師は何やら独り言のように術式を口にしていた。


すると次の瞬間、全身に焼き付くような痛みが走った。

とくに舌の上がまるで焼きごてを押し付けられたような鋭い痛みを感じる。


「うっ……!」


「っく!」


ウォレスもウォードもその痛みにもがき苦しむ。

ロンダールはその様子をただ黙って拳を握りしめながら見つめていた。


あまりの激痛に耐えられず、いつの間にか二人とも気絶したようだ。

ウォレスが意識を取り戻したのは医務室のベッドの上であった。


ウォレスは慌てて身を起こし、ウォードが居るかを確認する。

ウォードは隣のベッドでまだ眠ったままであった。


とりあえずひと安心したウォレスが側に水差しとコップが置いてあるのに気付く。


喉の渇きが酷い。

とにかく水を飲みたくてコップに水を入れて飲む為に口を開くとまた、口内にピリっとした痛みが走った。


「っつ……!」


一体口の中はどうなってるんだと心配したウォレスが医務室の洗面台に設置してある鏡の前に立つ。


そして恐る恐る口を開け、舌を出して確認すると……


「なんだコレは……」


ウォレスの舌には文字のような絵のような不思議な紋様が刻まれていた。


これが誓約魔法なのだろうか。

ロンダールは私生活にはなんら支障はないと言っていた……。

機密を漏らそうとした時にのみ、効力を発動させる魔法だと。



これを刻まれた事により、双子は完全に騎士団にその身を縛られる事になる。



そして初任務を前にさらに過酷な運命を、


ウォレスとウォードは突きつけられるのであった。


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