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壁画と老人

遅くなってごめんなさい

今回、心臓疾患を抱えた人物が登場します。

地雷の方はご自衛をお願い申し上げます。




───────────────────────





クララがその街に立ち寄ったのは有名な壁画がある教会を訪れる為であった。


結婚して間もない頃、ウォレスがその壁画の事を語ってくれたのを思い出したからだ。


ウォレスは数年前、任務で訪れた街の教会でその壁画を見て「まるで自分のようだ」と思ったらしい。

太陽の下にいる天使と月の下にいる天使。

自分はそのどちらでもありどちらでもない、あの時ウォレスはそう言っていた。


夫婦の睦言の、その中のひとつとして語られたその話にクララは何故か切なさを感じた。


そこになんの感情もなく、ウォレスは淡々とした口調でつぶやいていたのだが、クララはそこに深い悲しみが宿っているような気がして仕方なかった。



大陸公路を乗り合い馬車で北上している時にその壁画がある街が近い事に気付いたクララは、どうしてもそれが見たくなって途中下車してこの街を訪れたわけなのだ。


その前に昼食を、と入った食堂で教会への行き方を聞き、クララは街の中心にほど近い古い教会へとやって来た。


そして今、ウォレスが話していた壁画の前にいる。


対になるように描かれた天使の絵。

太陽と月、それぞれの下にいる天使は二人の天使を描いているようであり、たった一人の天使を描いているようでもあった。


ウォレスはなぜ、この天使が自分だと言ったのだろう。


クララは引き込まれるように、食い入るようにその壁画を眺めていた。


その時、隣に人の気配を感じた。


クララから三メートルほど離れた位置に、ふらりふらりと覚束無い足取りで壁画へと近付いて来た老人。

老人は壁画の前で立ち止まり、なにやらブツブツと口にし出した。


「……光と闇だ。あいつらは光と闇だった。片方が光で片方は闇。闇は決して己自身の姿で光の下に出る事は叶わず、光もまた己を偽って闇の中で生きている……」


壁画の感想を述べているのだろうか?

だけどその様子に異変の予兆を感じたクララは離れたままでその老人に声をかけた。


「あの……大丈夫ですか?お顔の色が優れませんが……」


クララがそう言うと、老人はクララの方へと顔だけを向けた。

だけどその目にクララは映してはいない。

そして老人はなにやら口ごもる。


「………………ン、」


「え?」


「っぐっ!」


その瞬間、老人は胸を押さえて苦しそうに蹲った。

教会の建物内にいた人から悲鳴があがる。


クララは一目散に老人へと駆け寄り、老人が押さえる胸に手を当て検査魔法で調べ始めた。


「心疾患による発作だわっ……」


クララは直ぐに魔法を用いて応急処置を行う。


「ドリトル卿っ……!」


「ドリトル前伯爵!」


クララの治療中に教会の関係と見られる者たちが駆け寄って来た。

必要な処置をして、クララはその者たちに告げる。


「この方をご存知なのですか?ではご家族に連絡をお願いします」


「……この方はある理由から当教会でお預かりしている方です。貴方は治療魔術師ですか?」


「はい、そうですが何か……?」


「申し訳ないのですがこのドリトル卿の容態が安定するまで診て頂くわけにはいかないでしょうか?」


その突然の申し出にクララは訝しむ。


「私が治療を続ける事は構いませんがこの方の主治医にきちんと診て頂く方がいいと思いますが……」


クララがそう言うと、教会の者は逡巡してから答えた。


「それが……つい先日、このドリトル卿御自身で主治医を解雇してしまわれたのです」


「なぜですか?適切な診察を受け、治療を続けなくてはならない病を抱えているとお見受けしますが……」


「卿が……治療など必要ないと。普段はお心を病んでいる為受け応えも出来ないほど虚ろであるにも関わらず、その時に限って意識が鮮明になられて治療など無用と怒鳴られて……」


「どうして……」


クララは意識を失いぐったりとしている老人を見た。

とにかくこのままにしておくわけにもいかず、老人を…ドリトル卿とやらを部屋へと運んで貰う。


医師がいないと知り、仕方がないのでクララも同行した。

このまま安定してくれればいいが何時また先程のような発作が起こるかわからない。


治癒魔法は万能ではないのだ。


その人間がもつ生命力に魔法で働きかけ、回復や修復の手助けをするだけに過ぎない。

強い魔法で怪我や病を短期間で完治させる事は可能だが、治癒魔法には時間魔法に近い性質があり、患者の細胞分裂の時を前借りしている状態のようなものだ。

細胞分裂には限界がある。分裂過多は寿命を削る行為だ。

だから治癒魔法は必要最低限にとどめ、後は魔法薬と自然治癒力に頼るしかない。


当然、肉体が若ければ若いほど魔法の効果は高く、回復が早い。

そして治そうという精神的な気力も回復の底上げとなる。

しかし先程の話を鑑みれば、このドリトル卿にはそのどちらもない。


自ら医師を遠避け、治療を拒み、生きる事を捨てようとしている。

そんな人間が相手で、クララに何が出来るというのだろう。


だがしかしこのまま見捨てるわけにもいかず、ドリトル卿とやらの症状が安定し、意識が戻るまでクララはこの教会に留まる事になってしまったのであった。



それに………



ドリトル卿は倒れる寸前にある人物の名を呼んだのだ。



「バートン」と。








───────────────────────




しばらく少しずつの更新となります。


改稿作業のため隙間時間で書いております。


よろしくお願いします!

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