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 同年 5月11日 16:30 東京エリア

 

 

「狩り組ー!全員集まってくれー!会議の時間だー!」

 

 先日獲ってきた蟻の残りももう少ない。

 よって、狩り組6人全員の意見を聞くのだ。

 議題は

 

「東西南北、どこへ行くか」

「前回は西に行ったね」

「ああ。だがハル、あの蟻には縄張り争いの形跡があったろう」

「うん。確かにそうだ。触角が殆ど残っていなかったし、きっと負けて逃げてきたんだろうね」

「そういうわけだ。俺は西に行くのは危険だと思う。皆は?」

 

 俺も私もと、他4人の賛同は得られた。

 が、ただ1人、ピンク髪のポニーテール、チアだけは別の意見を出す。

 

「蟻と争ったやつも満身創痍って可能性は無いの?」

 

 確かに、彼女の言う通りであればこれ以上に嬉しいことは無い。

 しかし、あくまで予想。そうでなかった場合は、蟻より強い敵と戦わなければならない。しかも、何の情報も無いままに。

 

「ふーん。なるほどねー」

「僕は、冬まで待った方がいいんじゃないかなって思う」

「冬、か……安全策を取るならそれが一番だろうな」

 

 冬。

 それは人間にとっても、虫にとってもキツい時期。

 

 虫というのは、現在までに確認されている種は全て変温動物。つまり、体温を保つことが出来ないのだ。

 そして、西暦8000年であっても冬は寒い。それどころか、大気が破壊され、雲も殆どできないことから今にも増して寒くなっているかも知れない。

 そういうわけで、冬の間虫は巣の中から出てこないのだ。

 

 そうなってしまえば当然、虫を資源としている俺たち人間もキツくなる。

 だがそれと同時に、チャンスでもある。

 先にも言ったが虫は巣の中。地表には出てこない。

 ということは探索が捗るし、もし巣を見つけられれば火攻めで一網打尽にできる可能性まであるのだ。

 

 蟷螂や蜘蛛、百足などの通常であればほぼ勝ち目がないようなやつらに対してはそうやって戦いを進めてきた。

 それが人間の力。知恵の力だ。

 

「よし。全員の同意も得られたから西は無しだ。勿論他に強力な種がいないわけでは無いが、わざわざ飛んで火に入る必要も無いからな」

 

 さて、残された選択肢は北、東、南だ。

 

「南はすぐ海だった場所だ。海底洞窟などがあればいいが、あまり開けた場所で戦いたくは無い」

 

 と、ダエル。

 彼はあんなゴリラのような逞しさをしていながらも、頭だってしっかり働く。

 だからこそ、俺も信頼して色々と任せられるのだがな。

 

「僕も同意見かな。あとはダエルと真逆の意見だけど、北は広すぎるから冬に回した方がいいんじゃないかって思ってる」

「なるほど、つまり東か。茨城か千葉……少し遠征して房総半島の方まで行ってみるか?」

「いいんじゃないか」

「うん。僕も賛成」

 

 他3人も続いて賛同する。

 

「よし。決まりだな。今夜待機組のために近場で食料を取って、シェルター付近に燃料を集める。

 決行はそうだな……今から約2時間後、19:00とする。

 皆それまで体を休めておくように。解散!」

 

 今夜は準備。遠征の決行は明日。

 大きな危険を伴うが、それ相応の実入りにも期待できる。

 特に、どこか別のシェルターを発見出来たりすれば、有意義な情報交換もできることだろう。

 

 期待と不安。

 もうおっちゃんのときのようなヘマは絶対にしない。

 そう心に決め、皆と共に仮眠室へと向かった。

 

 

 同日 19:00

 

「皆、準備はいいか?」

 

 シェルター入口付近に、少しくぐもった声が響き渡る。

 

「ああ」

「全員マスクはしたー?したねー?よし!」

「今夜は遠征の前準備だ!獲物の目標数は無い!シェルターで待つ家族のため、狩って狩って狩りまくるぞ!」

 

 時は満ちた。いざ出撃。

 

 

 薄らと照らす月明かりの中、俺たちは虫の痕跡を探す。

 獲物を運ぶような、引き摺るような跡があったりしたら最高だが――

 

「ヴァル、こっちだ、来い」

 

 2、30メートル前方からダエルものと思しき小さな声が聞こえてくる。

 

「どうした?何を見つけた?」

 

 ダエルは無言のまま足で指し示す。そこには

 

「っ、これは、引き摺った跡だな。ハルを呼んでくる」

 

 

「どうだ、間違いないか?」

「……うん。やったね。多分巣に続いてるよ」

 

 俺たちは静かにガッツポーズを取る。

 これは本当についている。平原で1体と戦うより、巣に火を投げ入れる方が圧倒的に楽で安全、そして勿論資源も大量だ。

 

  「このまま先へ行こう。幾つか燃料も拾っていくぞ」

 

 俺たちは地面に続く後を追って、

 

 

 洞窟までやってきた。

 

「ここ、だな。なんの巣か分かるか?」

「ううん。真っ暗だし、外に出ているのも見当たらないから無理」

 

 中に何が潜むかは分からない。だが、ここまで獲物を引きずった跡が続いている。

 ならばやることはひとつ。

 

「全員、燃料を持て。テブクロは付けたな?」

 

「よし。離れて火を付けたら……投げ入れろ!」

 

 6つの火の玉が暗闇へと吸い込まれてゆく。

 しかし一瞬のうちに――

 

「ボウッ」

「いやー、いつ見ても派手だねー」

 

 空気中の大量の酸素。有り得ないほどよく燃える燃料。

 つい先程まで暗闇だった場所からは、巨大な炎が轟々と立ち上る。

 何の対策もされていない場所で火を起こせばこうなる。良い見本だ。

 

 

「全員辺りの警戒だ。どうせしばらくは消えないから、休憩しながら交代で見張ろう。火に寄ってくるバカはいないと思うが」

 

 今頃洞窟内部はおびただしいほどの煙が充満しているだろう。

 入口付近は最高火力で封じ、出てこようとすれば丸焼け。逆に中にとどまっていれば窒息。そしてそのまま燻製。

 

 最も楽かつ安全に、大量の資源を得られる最高の狩り。

 そう、狩りだ。誰に何と言われようと、これは狩りだ。

 

 

 あれからもう3時間が経過した頃か。

 ようやく下火になってきた。

 

「そろそろ行こうか。砂をかけて鎮火作業だ」

 

 世界中ほぼ砂漠と化してしまい、良いことなんて無いようなものだが、この時ばかりは感謝する。

 水が貴重なこの世界で、鎮火には砂が最適だからだ。

 

 自分に燃え移らないくらいの安全な距離をとって砂を投げまくる。

 1人では効率が良いとは言えないが、こちらは×6。

 あっという間に火は消えた。

 中に漂う煙を追い出すためにもう少々時間はかかるが、もう準備は整ったようなもの。

 

「うん。もういいんじゃないかな」

「よっし!獲物を確認するぞー!」

 

 さあ、大量の資源とご対面だ!

 

 

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