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家族のかたち  作者: yoyo
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寂しい3日間⑷

 幸兄ちゃんは「すぐに良くなるから心配するな」って言った。

 広くんも戸口で目が合うと「大丈夫だよ」って言った。



 だけど、次の日もその次の日も、広くんはお部屋から出てこないで、ずっと寝てばかりいた。

 ご飯の時も幸兄ちゃんと2人だった。

 幸兄ちゃんが広くんの部屋に行くときは、そっと、ついて行ったけど「部屋に入っちゃダメ」って言われて、遠くから見るしか出来なかった。



 しばらく、ギューってしてもらってないな……





「お母さんはね、少し入院するけど、大丈夫だよ」

「元気になるから、心配しないで」


 でも、お母さんは全然元気にならなくて、たまに施設の人とお見舞いに行っても、ぼんやりと宙を見ていて、何度声をかけても何も返ってこなかった。


「お母さん!ねぇ、お母さん。ボクだよ勇だよ。ねえ!!」 

 たまにボクの方を見たけど、ボクが見えてないみたいだ。


 スーッとお母さんが遠ざかって行く。

「待ってよ。お母さん!行かないで!!どこ?」



 今度は、広くんがニコニコしながら立っている。

「広くん!!」


 広くんのところに走って行こうとしても、なかなか追いつけない。

「待って。行かないで……広くん、待ってー!!」

 ボクは大声で叫んだ。



 汗だくで目が覚めた。

「お母さん……広くん……」

 ボロボロと涙が落ちる。


「うっ……うっうっ……広くん……」

「勇?!どうした!!」

 ドアの前に幸兄ちゃんがいた。


「幸兄ちゃん……うっうっ……うわーん」









 寝ようと寝室に入ると、勇が泣いていて、声をかけると余計号泣。

 また、やっちゃったのかな……


 そっと布団に手を忍ばせてみるが、濡れている様子はない。

「どうした?どっか痛いか?怖い夢見たのか?」

「うわーん!!」

 何を聞いても泣くばかりで、何も答えない。



 どうする……こういう時、父さんどうしてたっけ……?



 オレは自分の方に勇を引き寄せて、抱きしめながら黙って何度も勇の体をさすった。



「うっ……うっ……う……」

「どうした?オレはここにいるよ」

「うっ……うっ……お母さん……広くん……いなくなっちゃう……」

「えっ?いなくなっちゃう?」

「うっ……えっく……うっ……うっ……ボクを置いてっちゃう……」


「大丈夫だよ。父さんは、勇を置いて行かないよ」

「うっ……うっ……広くんも……死んじゃう……うっうっ……うわーん」

「そっか。不安だったよな。でも、本当に大丈夫だから。父さんは死なないから。もう、熱も下がったし、明日にはまた一緒にご飯食べたり、テレビ見たり、一緒の部屋でも寝れるよ」

「ほっ……ほんと?」

「うん。だから、安心して寝よう。勇が眠るまでオレも一緒に隣で寝るから」




 勇の落ち着いた寝息を聞いて、そっと布団から起き上がる。

 水を飲もうと部屋を出ると、隣の部屋から父さんが出てきた。


「勇の泣き声聞こえたけど、大丈夫だったか?すぐに落ち着いたみたいだし、幸に任せちゃったけど……」

「うん。今はもう落ち着いて眠ってる。なんか、広くんが死んじゃうってパニックになってた」

「えっ?」

「母さんのこととかぶったみたい。それで不安になってた」

「そうか……。それは、かわいそうなことしちゃったな……」


「そうだよ。父さんが、コン詰めすぎて体調崩したせいなんだからな」

「すみません……」

「オレだって迎えに行ったり出来るんだから、1人でやろうとせず、いつでも頼ってよ」

「この3日間の様子見てて、気付かされたよ。頼りになる男に成長したなぁ……って」


「………きっ気づくの遅いし!」

「悪かったな。これからも頼りにしてます」









 眼が覚めると、すっかり体は軽くなっていて、カーテンから漏れ出す朝の日差しも気持ちいい。

 今日は祝日で、いつもよりゆっくりな朝だ。

 多分、幸司も勇もまだ寝ているだろう。

 久しぶりに3人で何を食べようかなと、キッチンに向かう。


 キッチンで、サンドイッチとスープを作っていると、リビングのドアが開き、勇が立っていた。



「おはよう。勇」

 声を掛けるが、勇は固まって動かない。

 勇に近づき、手招きして両手を広げると「うわー」と泣きながら駆け寄ってきた。

 勇の背中に手を回して抱きしめると、勇も僕の背中に腕を回してしがみついてきた。

こんなことは初めてて、返すように力を込めて抱きしめる。



「ごめんね。いっぱい心配かけて、不安にさせたね。もう大丈夫だから。元気になったから」


 大泣きする勇を抱きしめて、辛い思いをさせてしまったと、改めて気付かされる。

 こんなにしがみつくまで、不安にさせていたんだ。



「うっ……うっ……もう……大丈夫?」

「大丈夫。いっぱいギューも出来るし、お話も出来るし、ご飯も一緒に食べれるよ」

「うっ……うっ……」

「今日はお休みだし、勇のしたいこといっぱいしようね」

「うっ……うん」




 ちょうど、リビングに入ってきたニヤニヤと笑う幸司と目があった。

 なんだか、全部お見通しって顔しちゃって……何だかもう敵わないな……


 だけど、父親としての最期の強がりとして、泣きそうになるのを必死で我慢した。

閲覧ありがとうございます。

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