元魔術講師、姉妹に出会う
エリシアは宮廷のある帝都から、かなり遠くに離れた場所の空を飛んでいた。
辺りは見渡す限りの森で人工物は一つも見当たらない。
昨日の事はあまり覚えていない。
頭を強く打ちつけた後、気づいたら知らない森に放置されていたのだ。
「ここは一体何処なの? 少なくても町は近くに無さそうだけど」
半日近く飛び続けているが、森しか見当たらない。
回復魔法で頭部に受けた傷は癒したが流石に半日も空を飛んでいると疲れてくる。せめて夜になる前には身体を休められるところを見つけたい。
エリシアは更に1時間程辺りを飛び回った頃だった。
エリシアの眼下に切り開けた平地が目に映った。木造の家が立ち並ぶ田舎町といった感じで、あまり栄えてる様では無いみたいだ。
「あそこなら身体を休められそうだし、よって行くしかないか」
エリシアは町へと降っていく。
ある程度町へと近づいたエリシアはある事に気が付く。
町のあちこちから黒煙が立ち上がり、血と焦げる様な香りが漂ってくる。
町は所々が焼け焦げており、人の姿が全く見当たらない。
「盗賊かモンスターの襲撃でもあったのかな」
この世界では別に珍しいことではない。
とは言え、死体が見つからないのは疑問に思うのだが。
エリシアは辺りを組まなく散策するが、人の気配は全くしない。
家の中にでも居るのでは無いかと思ったが、どの家にも生活感だけが残り、人の姿は無かった。
付近で一番大きな家に訪れたエリシアは腰を椅子へと下ろす。
テーブルの上には冷めた料理が並べられており、ここが団欒の場であったことが分かる。
この家自体四階の大きな家で、住人はちょっとした金持ちだったのだろう。
「なんで言うか不気味、急に人が消えたみたい………」
並べられた料理を見るに、1日も経過していない様だった――――一体その期間に何があったのか。
エリシアが腰を掛け、暫く休憩していた頃。
外から、何やら物音が聞こえてくる。
ここに来てから初めての人の気配だ。
「誰かいるみたい……」
エリシアは家から飛び出し、音のする方へと向かう。
常人なら気づかない様な微かな音だが、聴力の良いエリシアだから気づくことができた。
家と家の間を抜け、音の原因の元へと辿り着く。
2人のまだ幼い2人の少女が、身長3メートル程の巨人――――オーガに襲われていた。
2人の少女は同じ栗色の髪色をしていた。
12歳と9歳ほどで、恐らく姉妹なのだろう。
オーガが飛びかかろうとした時だった。
オーガの身体が火柱に包まれ、一瞬で丸焦げにする。
「大丈夫だった? 怪我は無い?」
「お姉さんは誰……?」
2人の姉らしき人物が恐る恐るエリシアに話しかける。
どうやら相当警戒している様だ。
「私はエリシア、また分かると思うけど魔術師だよ。一体ここで何があったの?」
「わからない、急にお母さんとお父さんに隠れてろって言われて……気づいたら」
「他に人を見たりは?」
「今のところ私達しか見てないです」
「身寄りとかはあるの?」
「ありません……」
どうするか。
この子達を放って置く訳にも行かない。と言うか放っておいたら死にかねない。
助けるしか無い。
「2人の名前はなんて言うの?」
「私はリファ・アルカです、こっちは妹のリディです」
「……うっ」
エリシアが妹へと視線を向けると、リファの背後へと怯えた表情で隠れる。
いや。そんな怯えんでも……
「すみません、うちの妹は人見知りなんです」
「それは全然大丈夫なんだけど、リファ達は身寄りも無いんでしょ? 今みたいにモンスター出るかも知れないし暫くは私もここにいた方がいいと思うんだけどさ」
「良いんですか? 迷惑をかけてしまうと思うのですが」
「私帰る場所とか無いし、寧ろ此処に居たいくらいだからこっちが居させて欲しいくらいなんだよね……」
「そうですか……私達もエリシアさん見たいな魔法使いに守って貰えれば安心できます、よろしくお願いします」
リファはそう言うと深々と頭を下げた。
「リファ、近くに大きな町ってあったりする?」
「あ、はい。西に半日ほど歩いたところにタールクと言う大きな町があります」
タルーク――――聞いた事のない名前だった。
ヴァラジア帝国の都市や町には国に貢献してきた偉人達の名前がつけられており、タルークなんて名前は聞いたことがない。
きっと国外まで飛んで来たのだろう。
「ま、いいか……どうせあの国なんて気分悪くて居たくないし」
エリシアは深い溜息を吐く。
「エリシアさん、タルークなんて言ってどうするんですか?」
「生活する為にはお金があるでしょ? 此処にある食料もいつまでも持つわけでもないし……だから冒険者にでもなろうと思ってさ」
「冒険者ですか……」
冒険者は幼い頃からエリシアの憧れていた職業だ。
仲間達と依頼をこなして……時には旅もして自由に生きる。
それが夢だった……。
結局、冒険者にはなれなかったが、今なる理由ができた。
仲間達とわいわい冒険という訳にも行かないだろうが、それでもワクワクするものはワクワクするものだ。