宮廷魔術講師解雇される
「エリシア、貴方を解雇します」
宰相に呼び出されたエリシアはそう宣言され、一瞬理解が追いつかなかった。
彼女はこの国ーーーーヴァラジア帝国に使える宮廷魔術師だ。その中でも魔術師を育成する魔術講師として身を粉にしながらも今日という今日まで仕えていた。
「解雇とはどういう事でしょうか……?」
「そのままの意味です、今日中に荷物を持って早く出ていってください」
「それでは何故解雇なのでしょうか? 解雇される理由なんて無いはずですが」
エリシアは宮廷魔術師としては低すぎる賃金、それに加えて朝から夕方まで魔術を生徒達に教えて、それが終わったら夜中まで教材作りにetc……そんな生活を何年も続けてこの国に尽くしてきた。
そんな自分が解雇される理由が全く思いつかない。
「そもそも宮廷魔術講師なんて雇ってるだけ無駄金なんですよ、ただ魔法に関してダラダラ喋ってるだけじゃ無いですか。
それで給料を貰ってるのだから大した大泥棒ですよ」
「は、はぁ⁈ 私がどんな思いでやってたか分かるんですか、あんな低い給料なのに国の事を思って頑張ってきたんですよ⁈」
宰相の発言が頭に来たエリシアは声を荒げる。
エリシアは平民出身というだけで差別され、他の宮廷魔術師の十分の一未満の給料、倍の労働時間で生徒のためだと思い、今まで耐えてやってきたのだ。
それなのにこの仕打ちはいくらなんでも酷すぎる。
「うるさいですね、平民風情が……兎に角クビはクビです」
宰相はそう言い残しその場を立ち去ろうとする。
「ま、待ってください! 話はまだ……」
エリシアは宰相を呼び止めようとしたが、それに宰相が振り向く事は無かった。
エリシアは途方に暮れながらも宮廷の外れにある自身の部屋へと帰っていた。
「なんで私が……」
エリシアは大きな溜め息を吐き、何処までも続く廊下を歩いていた。
宮廷はかなり広く、外れにある自室の部屋までは30分程かかり、エリシアはその道をとぼとぼと歩いていた。
ここに来るまで、2度ほど通りかかりのメイド達に
「なんで平民上がりがここにいるの?」「魔法が使えるだけなのにね」等とこそこそと陰口を言われた。本人達は聞こえて居ないつもりなのだろうが、意外と聞こえるものだ。
どうせ、もう慣れた事だ。
「何これ?」
エリシアがもう暫く歩き、自室の前までつくと、部屋にあった家具や衣服が全て廊下に乱雑に放り出されていた。
自室のドアの鍵を開けようとしたが、鍵穴の大きさが合わなかった。恐らく鍵を変えられたのだろう。
「はぁ……もういい、こんなところ自分から出てく」
エリシアは泣き崩れそうになるが、気を強く保ち、廊下に投げ捨てられた荷物を纏める。
エリシアは魔法陣を展開させ、そこに次々に家具や衣服をしまっていく。
そこでエリシアはあることに気がつく。
「あれ? 貴重品の類が見当たらない……」
いくら探しても魔道具などの高値の付くものが何一つ無かった。
考えられるのは一つ、この部屋の荷物を廊下に出した奴が持ってたのだろう。
特に魔道具などは少ない給料で無理して買ったものだ、流石にこれを取られるのだけは許せない。
エリシアは込み上がる怒りを抑えながらも、宰相がいるだろう広間へと向かった。
「また来たんですか? いったい今度はなんなんですか?」
宰相は不機嫌そうに言った。
「私の部屋にあった魔道具はどこにやったんですか?」
「あれなら没収しました、今まで部屋を使っていた分の家賃の足しにしたんですよ」
「私はしっかり家賃を払ってましたよ? 他の魔術師達にはタダで貸し出していたみたいですけど」
「平民風情があの程度の金で宮廷に住まわして貰えると思ってるのですか? 本当に小賢しい……」
宰相はエリシアを小馬鹿にする様な笑みを浮かべる。
その発言を聞いたエリシアは今まで抑え込んでいたものが、はち切れる。
「人の事を馬鹿にするのもいい加減にしてください。平民出身だからなんですか!国に尽くしてきた事は変わらないじゃないですか!」
エリシアは七色のに光り輝く魔法陣を無数に展開させる。
「あれだけは力尽くでも返して貰いますからね!」
目の前の男は魔法も使えない、家柄がだけが取り柄の無い奴だ。
最高峰の魔導師である自分には敵うはずは無い。
エリシアが魔法を放とうとした時だったーーーー。
背後から凄まじい衝撃が走り、吹き飛ばされ柱に頭から盛大にぶつかる。
「よくやりました! 流石、名門貴族の子供達です!」
エリシアは魔法が飛んで来た方向を見ると、エリシアの教え子達の姿があった。
「別に良いんだぜ? こいつ平民のくせに偉そうにしててうざかったし」「そうよ、上から目線で本当に嫌い、少し他人より魔法が使えるだけのクセに」「まっ、貴族に逆らうからこうなんだよ」
教え子達は、エリシアへ罵倒や嘲笑を向ける。
「貴方達も結局はそう思ってたんですか……」
エリシアは責めて自分の教え子達だけはそんな階級差別的な事はしないと思ってたのだが、それも所詮は自分の希望でしか無かった様だ。
結局裏では自分の事を小馬鹿にし、妬ましく思っていたのだ。
頭を強く打ち付けたせいで、意識がぼぉーっとする。
やがてエリシアの意識は暗闇の中へと落ちて行った。
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