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偵察と挑戦


 翌日、俺は秘書のリリムにスライム部隊200体を連れて魔王領と人間領の境にある奈落谷に来ていた。

 

 できるだけハバニールの近くで試したかったが、人間に見つかる恐れもあるから人気がなさげな離れた場所にした。

 

 ありったけのスライムがウヨウヨと背後で揺れてるのはなんとも不気味だ。

 

 切り立った崖でちょっと身を乗り出して見れば眩暈がするほど深い谷がある。

 

 うん……深すぎる。

 

 昼でも闇が延々と広がる谷からは来るものを拒むように風が吹き上がってきていた。

 

 羽のある種族なら飛んで越えれそうだが、下に引き込む魔法がかかっているらしく飛んで渡るものもいない。

 

 重力魔法だよな。

 

 大昔、人間の大賢者が魔族の谷越えを阻むために仕掛けた大魔方陣で谷の上に帯状に長く広がっているのだ。

 

 飛んで渡ろうとすると発動するらしい。

 

 まったく迷惑なっ!!

 

 向こう側までは凡そ2000メートルくらいか……。

 

 ギリギリいけるかな?

 

「将軍。まさか谷を降りるなんていいませんよね?」

 

 スライム部隊を束ねるメルフレはまさかしないよね? と言いたげだ。

 

 顔色とかないけど、声音でわかる。

 

 さすがにしないよ――言うことを聞いてくれれば……。

 

「それは最後の手段だな。谷越えした奴がいないので、できれば避けたいところだ。なので、今回は橋を造る」

 

「造るって言われても我々、そんな人間みたいな技術はありませんよ?」

 

 丸太を渡す程度の技術しかないのは知っている。

 

 リッチー達も魔法一辺倒でその辺の技術も知識もないし、俺も前世で橋造りの技術なんかしらない。

 

 だが、問題ない。

 

 俺はニヤリと笑い、

 

「橋になるのはお前らだ」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 スライム達が驚きで泡立ちながら一斉に悲鳴をあげた。

 

「将軍!? 意味がわかりません!? 説明を要求しますっ!!」

 

「スライム達を橋にするなんて意味がまったくわかりません」

 

 メルフレとリリムも驚きで動揺が丸わかりだ。

 

「あぁ、文字通りだ。お前らのスキルに合体があるだろ? あれでまずはデカイスライムになってみてくれ」

 

 納得できてないスライム達だが、こな中で一番強い俺の言葉なので、ちゃんと従ってくれる。

 

「「「合体」」」

 

 某ゲームのスライムが合体して王様スライムになるように重なりあったスライム達はみるみる体積を増して膨れ上がっていく。

 

 うぉ、プールの水が宙で浮かんでるみたいだ。

 

「さて、それじゃ、その辺にある丸太を体内に取り込んで見てくれ。あぁ、必要なのは幹だけだから、枝葉は溶かしていいぞ」

 

 ボヨンと擬音がしそうな体躯で森にある木々を次々と体内にしまっていく。

 

 十本、二十本、三十本……と木々を取り込ませて、半透明な身体には木しかなくなっていく。

 

「んじゃ、次は木を包んだまま、あっちまで伸ばしてくれ」

 

 俺が対岸を指しながら命じる。

 

 合体スライムは風船から水が抜けていくように萎ませながら木をゆっくりと繋げ対岸に伸ばしていく。

 

 ただ、木を繋げて渡そうとすれば自重で折れてしまうので、スライムボディで補強してるのだ。

 

 スライム達を伸ばすだけだと渡ろうとした時に強度が足りないから丸太の上を歩いてあちらに渡らしたいのだが、できるかな?

 

 ズル、ズル、ズル、ズル……。

 

 いい感じに橋っぽくなっていく。

 

 真ん中を越えた辺りでもまだ合体スライムの身体には余裕があるので、このまま進めれば対岸まで届きそうだ。

 

 ……ちょっと震えだしてる。きついか?

 

 ドキドキしながら眺めていると、リリムがオズオズと俺に訊ねてきた。

 

「でも将軍、向こうまで届いても、これはとても渡れないと思いますよ? スライムの身体って滑りますし、足場が不安定な丸太では余計です。たぶん、私は渡れません」

 

「あ……」

 

 ……のぉ! 向こうに届かせることしか考えてなくて、足場が不安定だと歩けるかどうか考えてなかった。

 

 俺はいざとなれば身体の形を変えられるスライムだから失念してたけど、人狼とかドッペルゲンガー、サキュバスだと無理かも……。

 

 滑って足を踏み外したら奈落一直線だし。

 

 たしかに粘液のスライムの身体って滑るんだよな。

 

 あの上を歩いて行けってのは無理か――。

 

 凍らせたりしたら、脆くなるし、余計に滑るしなぁ……。

 

 だが、このまま失敗したと思われるのも困るので、俺は咳払いをし、

 

「よし、スライムの身体の強度と橋がかけれるかの実験は成功だ。次はどうすれば向こうへいけるか考えよう」

 

 失敗してないアピールでその場を切り抜けることにした。

 

 協力してくれスライム達よ――すまん!!

 

 だが、へこたれないぞ! 失敗は成功の母なのだ!

 

 

「ん~」

 

 スライム橋はまぁ、俺だけが渡るなら可能なことがわかったので、失敗ではない。

 

 うん、失敗じゃないよ。半分くらい成功だからな!

 

 次は人狼、獣人、サキュバス、ドッペルゲンガー、さらにその他の種族でも渡れる様にしないといけない。

 

 スライム達総出になれば身体を伸ばすだけなら届くのだ。

 

 では、渡るための木々を板に加工してみてはどうだ?

 

 スライムの身体を下にして、板を上に置けば滑り安さはなくなるのでは?

 

 でも、弾むんだよ、スライムの身体って。

 

 落ちないようにそれなりに力を入れてるはずなので、弾力が増してるはずだ。

 

 丸太渡りよりは遥かにましだが、リスクは高い。

 

 しかも、最後の方はかなりスライム達もきつかったから渡る重さに耐えられるかの不安もある。

 

 いっそ、大砲みたいに一気に飛ばすとか?

 

 いや、飛行すると谷に落ちるんだっけ?

 

 そもそも、着地の衝撃で死にかねないから却下。

 

 くそっ! あの魔法を破壊する策でも考えるか?

 

 だが、それは第三軍が挑戦したはずだ。

 

 ていうか、先代も先先代も考えていたはずだ。

 

 あれがなければ、こっちはいつでも奇襲できるし、なんなら、ハバニールを無視して他の都市を落とせるからな。

 

 だが、成功してないところを見ると、よほど複雑な魔法か強固なものなのだろう。

 

 いきなりそんなのを専門外の俺達が破壊するのは無理だ。

 

 あぁ、どうしよ……。

 

 金属製の橋は物資が足りないし、たぶんスライムが重さに耐えられずに落としちまう。

 

 木製が限界だ。

 

 どうしたもんかねぇ……。

 

 あぁ、地球なら夏だよな。

 

 流し素麺、プールが懐かしい……。

 

 あぁ、またプールでもいけたらなぁ。

 

 海でもいいけど……。

 

 ……!!

 

 ぼんやりと現実逃避していた俺だが、ふと閃くものがあった。

 

 そうか……。

 

 それなら飛行せず、足場の問題も解決できる。

 

 しかも、材料もいらないので、すぐにでも仕掛けられる。

 

 ふふふふふ、これだっ!

 

 俺は一人テンションをあげながら、人狼、サキュバスに明日の夜に出撃できるよう命令を出し、メルフレにはスライム達にとある指示を出すように命令を出した。

 

 ◆

 

 時間は深夜――。

 

 星が空を埋めつくし、新月の夜は奇襲にもってこいだろう。

 

 まぁ、いきなり奇襲は無理だけどな。

 

 サキュバスはリリムを含めて4人。

 

 人狼20人。

 

 スライム200体。

 

 ドッペルゲンガーはまだ使わないので待機だ。

 

「将軍、橋をかけてもたぶん重みで崩れますよ?」

 

 メルフレの言葉に俺はニヤリと笑った。

 

「橋は作らん。今回はもっと単純な作戦で行く」

 

 合体したスライムの体積なら対岸まで身体が届くのだ。

 

 スライムの身体は流動体。

 

 思い描いた形をとれる。

 

「まずはまた合体して大スライムになってくれ」

 

「「合体」」

 

 スライム達が再び重なりあい、どんどん膨らんでいく。

 

 ちょっとした小山ほどに膨れ上がった大スライムは暗闇でははっきり見えないから威圧感がすごい。

 

「よし。次は昼間みたいにあっちまで身体を伸ばしてくれ」

 

 大スライムから職種が生えるように半透明な腕が対岸まで伸びていく。

 

 腕は人一人よりやや太いくらいで、U時型に窪ませている。

 

「将軍、スライムだけならあっちまで渡れるでしょうが、俺たちは無理ですよ? 渡るときに重みで絶対に突き抜けます」 

 

 ガウリィも昼間に考えたのと同じように思ったみたいだが、違うのだ。

 

 俺が考えたのはこの世界なら絶対に想像しない方法だからな。

 

「まぁ、見てろって」

 

 そう言って、俺は大スライムの中に飛び込んだ。

 

「将軍!?」

 

「何を!?」

 

 戦く顔が面白いが、こっちからの言葉は聞こえないからな。

 

 親指だけ立てて返事をしよう。

 

 にしても、やっぱ水みたいだ。

 

 捕食時は酸性にして獲物を溶かすスライムだが、今は控えるように言っている。

 

 じゃないと俺が溶かされるからな。

 

 そのまま見えない手押し出されるようにして俺は大スライムの上へと押し出され、そのまま高みから一気に対岸に伸ばしてある腕を滑る。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 スライムで作った滑り台はまさにウォータースライダーだ。

 

 あっという間に対岸が近づいてくる。

 

 早い! 早い!

 

「クッション! クッション!」

 

 慌てて叫ぶと対岸側の腕の一部が変化して壁っぽくなる。

 

 ポヨン、と壁にダイブすると一気に飛び込んだ勢いが殺されて、俺は身体の硬い地面に立っていた。

 

 うん……うまくいったな。

 

 足場が悪く、重みで慎重に渡る時間がないなら、抜け間も無く一気に向こうまで渡らせればいいのだ。

 

 夏のことを考えてプールを思い出していて閃いた。

 

 流動的なスライムの身体はそれにもってこいだったからな。

 

「じゃ、順番にこい!」

 

 唖然とする部下達だが、トップの俺が身体をはって渡ったのでやらないわけにはいかない。

 

 恐る恐るスライムの中に飛び込み、他の人狼とサキュバスも三十分ほどで渡りきった。

 

「じゃ、また帰り頼むな」

 

「「はっ!」」

 

 大スライムはのそのそと腕をしまい、対岸で手を振る。

 

「まさか、こんな手で対岸を渡るとは将軍の発想には驚かされました」

 

「あれだけ悩んでいた対岸攻めがこんな簡単にできるとは――」

 

 リリムもガウリィも驚いている。

 

 まぁ、誰もこんなこと思い浮かばないだろうな。

 

 スライムなんか雑魚扱いされて誰も見向きもしないからなっ!

 

 だが、俺は見た目は人に擬態してるがスライムなので、ぜひ価値を高めていきたいところだ。

 

「将軍、これからどうするんですか?」

 

「背後をつけても英雄が都市にいるので、おとすのはどの道無理と思うのですが?」

 

 この方法で他の軍を送るだけでも功績になるのでは? とリリムは言いたげだが、荒事を避けたがってるのは明白だ。

 

 サキュバスは戦闘力は低いからそう思うのだろうが、ここで命令に従わなくなるのは困るので、俺は釘を刺しておく。

 

「残念だが、魔王様は都市攻略を命令されている。我々はそれを見事に果たさねばならんのだ」

 

「さすが将軍ですね。人狼族は将軍の策に従います」

 

「わかりました。私達、サキュバスも同じです」

 

 ガウリィ達人狼が膝をつき、リリム達サキュバスも膝をついて服従の姿勢を見せた。

 

 やはり魔王の命令、と言われれば従うよね。

 

 ……ごめん、この攻略自体俺の案なんだけどね。

 

 バレたらどんな目で見られるかわからないので黙っておくけど。

 

 


 

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