3話 作戦決行
「いやー、私気絶しちゃったんだってね?オカルト的なもの苦手だったの忘れていたよ」
『ハッハッハ』と笑いながら、彩未は頭に保健室でもらったであろう氷を載せ、教室に入ってきた。
「彩未大丈夫か?脳震盪とか起こしてないか?」
美香は椅子から立ち上がると、彩未に駆け寄る。
「うん大丈夫だよ!私、石頭だから!」
「おっおう、そうだったのか。ならよかった……」
ホッとして肩を下す美香に、彩未はいつもの笑顔で答えた。
「心配かけちゃたね。それで、麻子さんはどこにいるの?」
キョロキョロと教室を見渡し、麻子さんを探そうとする彩未。
どうしようこれは伝えるべきなのだろうか?実際の麻子さんはオカルト的な不気味さはないが、違 う意味不気味ではある。また気絶する可能性も……。いや、伝えるべきだろ。と言うのも彩未は麻子さんに相談しにきたわけだし……。
結局、伝えることにした美香は、例の七不思議に向けて指を指す。
「こいつが例の『掃除ロッカーの麻子さん』だよ」
美香の指の先にいる、ちり紙をムシャムシャ食っていた麻子さんを見ると、彩未は口をアングリと開けた。
彩未わかるぜ?期待していた麻子さんがごみ箱からような奴だとは思わないよな。でも大丈夫だ、案外すぐになれるから……。ってちり紙食うなよ!
絶望しているであろう彩未に、美香は慰めの言葉をかけようと、彼女の肩に手を置いた瞬間……
「キャー!めっちゃ可愛い!え?どうしよ?写真撮りたいんだけど!」
美香の手を振り切り、目をハートに変えた彩未は、ダッシュで麻子さんに駆け寄ると、制服の胸ポケットから取り出したスマホで『パシャパシャ』と麻子さんを撮り始めた。
「わっ!なんなのだお前は!止めろワチを撮るなら金を払ってからにしろ!」
「え!何ワチって?チョー可愛いんだけど!ヤバいんだけど!」
彩未の予想外の反応に、美香は驚きの表情を隠せない。
え、彩未うそだろ?こいつのどこが可愛いんだよ?だってよくみろよ。このムカつく言動、汚い見た目、そしてこの垂れてる鼻水!可愛い要素なんてゼロじゃねえか!
今までこんなに感動されたことがなかったのだろう。当初はびっくりした麻子さんだったが、気分をよくして鼻の下を伸ばし喜んでいる。それに伴い鼻水も伸びる。……もうそれどうにかしろよ。
2人でキャッキャッと楽しんでいる様子を見ていると、混ざりたいとは思わなかったが、少し疑問に思うことはあった。と言うのも彩未はもしかしてここに来た理由を忘れているのではないか?
「てか彩未、悩みがあるんだろ?麻子さんに相談しなくていいのか?」
ついには2ショット写真を撮り始めた彩未に、美香は聞いた。
「あ!そうだった!悩み事があってきたんだった!麻子さん、私の悩み事を聞いてくれる?」
「おう!そういえばそのために待っていたのだったわ!いいぞ、聞いてやるわ!」
やっぱり忘れていた……。てか、麻子さんもかよ!こいつらもうヤダ……。
ようやく写真を撮り終えて、美香と彩未は、麻子さんの対面に座った。
「それでおぬし、悩み事はなんなのだ?」
いきなり確信をついた麻子さんの質問に、落ち着きを戻した彩未は静かに語りだした。
「実は私……、ストーカーにあってるの!」
……なるほど、そういうことだったのか。確かに彩未にストーカーが一人いても不思議ではない。完璧な優等生、渡辺彩未の悩みがようやくわかった。
教室で彩未をまっていた間、一応そんなところだろうと予想はしていたので、美香はたいして驚かなかった。
しかし、それだけではなかった。
「それも少なくとも2人……、いや3人はいると思うの?」
「え!3人!」
美香は驚いて立ち上がった。
「警察には相談したのか?」
「うん、でも全然相手にしてくれなくて……。最初は1人とかだったんだけど2人3人って増えていくの。このままじゃ怖いから麻子さんに相談しようと思ったんだ」
衝撃の事実に、美香は面を食らった顔をした。
麻子さんがどれだけすごい人なのか知らないけど、能力も持っていないって言っていたし、解決するのは無理なんじゃないのか?それにストーカーだったらボコボコにして脅せば……、いやまて!問題は起こさないって決めたではないか!平穏な高校生活をおくるんだろ?
だがもし、彩未に危害を及ぼすようであれば迷わず行動するかもしれない……。彩未は唯一の親友である。この学校にいられなくなってでも……、少女Aだとばれたとしても……。
彩未の発言を聞くと、麻子さんは鼻水をすすり少し悩んだ。そしてそのあと、いつものムカつく笑顔をして語りだした。
「……思いついたぞ!ワチに任せろ!」
そして、『彩未のストーカー撃退作戦』が始まったのだった。