第79話
「もう一人で食べられる年齢なんだが」
まずはそう牽制して彼女の一撃を受けきろうとした。しかし、
「あーん」
「……ここ外なんだけど」
「いいから」
良くないんだが? 周りにはお客さんもいるからな。そりゃあこっちを見てばかりでもなかったが、やはりちらちらと伺うように見ている人はいるわけだ。
……俺としては滅茶苦茶不安なんだよな。二人がいつか気づかれるんじゃないかって思ってな。
しかし、友梨佳はまだフォークの先を近づけていた。
……これは、食べてしまった方が早く片付きそうだな。
俺は仕方なく、口を開くと、友梨佳がこちらに入れてきた。
ふわりと口の中にトマトの味が広がった。……うん、うまい。パスタとトマトソースが絡み合っていて、とてもおいしかった。
「どう?」
「ああ、うまいな」
「それじゃ、次は――」
友梨佳が僅かに頬を赤らめながら、口を開こうとした。もしかしたら、食べさせてほしいというのかもと思ったが――。
それに割り込むようにして、美月がフォークをこちらに向けてきた。
「センパイ……こ、こっちもおいしいですよ?」
美月が頬を赤らめながら、俺のほうにフォークを差し出してきた。
友梨佳がその手首をつかみ、ぱくりと口に入れた。
「……ちょっと、友梨佳さん?」
「ダメ。雄一にあげるのは、許さない」
「私も見逃してあげたんですけど? 言っておきますけど、邪魔しようと思ったらいくらでも邪魔出来たんですからね?」
二人は横目でにらみあう。……二人はしばらく睨み合った後、再度美月がこちらにフォークを差し出してきた。
……今度は、友梨佳は邪魔をしなかった。腕を組み、さながら野球の監督のような厳しい眼光でじぃーっと美月と俺を見てきた。
「はい、どうぞ……センパイ」
「……ああ、分かったよ」
美月が頼んだものもトマト系のパスタであったが、また友梨佳とは違うものだ。
一口食べてみると、確かにまったく違う。友梨佳のは魚介系のパスタだったが、美月のはチーズを絡めた味付けがされていた。
うまい……熱で程よく溶けたチーズが良い味を出しているな。
「どっちもうまいな。冷める前に食べようぜ!」
俺は半ば強引にそういって自分のパスタを食べようとすると、二人がこちらに口を開いてきた。
まるで親鳥にでもなった気分。餌を持って帰ってきたら、子鳥が鳴きながら口を開くようなそんな感じだ。
「……一口、センパイのも食べさせてくれませんか?」
「私が先」
迷った。
俺はどうしようか考え、テーブルを見た。フォークがもう一本余っている。元々四人用の席なので、スプーンとフォークは四本席に設置されている。
……ここでどちらかを優先すると、その後しばらくは遺恨が残りかねない。あとでまた別の要求をされるかもしれないと思った俺は、二人のほうにフォークを向けた。
「……はいよ。この一回目だけだからな?」
そうすると、二人はぱくりとかぶりついた。
「うん、おいしい。雄一の唾液の味がする」
「待て変態。まだ俺は一口も食べてないぞ?」
「そこは想像で補える」
「補わなくていいからな?」
こいつは……。ぺろりとどこかからかい気味に微笑んで唇を舐めていた友梨佳。
それとは反対に、美月は顔を赤くしていった。
「せ、センパイに食べさせてもらっちゃった……」
「恥ずかしいならやめたほうが良かったんじゃないか?」
「は、恥ずかしいですけど……っ。でも、ここで友梨佳さんに出遅れるわけにはいきませんから……っ!」
なにそのやる気? そのやる気回るべき場所違うよな?
「とりあえず……さっさと食って後半戦に備えるか」
「うん、怨念も溜めないといけない」
「ですね」
溜めるな。