第78話
近くの洋風レストランに入り、俺たちはそれぞれパスタを注文した。
……食欲旺盛な友梨佳を満足させるために、みんなでつまむように一つピザも注文し、俺たちはドリンクを飲んでいた。
俺は先ほど指摘されたのもあったので、コーラを注文してみた。……しかし、もう炭酸にやられたので一人後悔していた。
そんなことを考えていると、麦茶を飲んでいた美月がこちらを見てきた。
「センパイ、私から一つ忠告しておきます」
「なんだ?」
「センパイは普段の調子でアンナさんに接しないように気を付けてくださいね?」
「普段の調子?」
俺が疑問に思って問いかけると、友梨佳もこくこくと頷いた。
「アンナは……冷たく扱われるのが好き」
「……あんまり聞き進めたくない切り出し方だなおい」
「雄一のツッコミは基本冷たく返す。雑に返す。それは――アンナを興奮させる」
「やっぱり聞くんじゃなかったな……」
「それ。アンナ……周りにちやほやされることが多かったから、ぞんざいに扱われることに憧れのようなものがある」
いや、俺がこんな風に雑に扱うようになった原因おまえらだからな?
まともに相手すると本気で体力持っていかれるからこうなったんだからな?
「そりゃあまた歪んでるな、アンナは」
「それ禁止ですよ、センパイ。そこで、優しく返せばきっとアンナもセンパイへの興味をなくすはずです! それと、名前で呼ぶのもやめたおいたほうがいいですね。センパイはすぐに人を名前で呼びたがりますからね」
「……まあ、仕事中はな」
少しでも相手と親しく振舞えば、万が一そいつが犯人だったときに行動しづらくなるかもしれないからな
人間というのは親しい人物が近くにいると行動に制限をかけることがあるからな。
だから、なるべく怪しい人間がいるときは親しく接するようにしている。
「苗字で呼んで、それこそお姫様でも扱うように接して上げたら、きっとアンナさんは想像と違うとあきらめるはずですよ」
「うん、アンナは白馬の王子に憧れているけど、白馬の王子に迎えに来てもらって鞭で叩かれたいから」
やべぇなアンナ……。
とりあえず、アンナの対策は学んだな。
と、友梨佳は俺が何とかとった小さなぬいぐるみを取り出した。
「あのとき私にしてくれたみたいに優しくすれば……きっとアンナは、欲求不満になる!」
「……それはそれで見たくはないんだけどな」
その時のアンナがどうなるのかが心配だ。そのまま見込み違いだと思われてくれればいいんだが。
……見込み違いってなんだよ。そもそも、勝手に見込まないでくれ、と思ってしまった。
と、ぬいぐるみを見ていた美月の目がじろーっと細くなっていた。彼女の瞳は、友梨佳へと向けられていた。
「……私もセンパイに何か買ってもらえば良かったですね」
「あとで何か買ってやるよ」
「ダメ」
「なんで友梨佳が否定するんだ?」
横から飛んできた言葉に首を傾げる。
「嫉妬」
「また直球投げてきたな」
だが、さすがに美月もこれには反論してきた。
「い、いいじゃないですか、友梨佳さん。ずるいですよ」
「デートを使わなかった美月が悪い」
「くぅぅ……っ失敗しました……次はもう少し考えます」
とても、悔しそうな顔である。
しばらくして料理が運ばれてくる。俺は和風のパスタを、二人はトマト系のパスタを注文していた。
いざ食べようとすると、友梨佳がこちらを見てきた。
「雄一、トマトパスタも食べたい?」
「ん? くれるのなら食べたいけど、」
「はい、雄一あーん」
……なんだと?
友梨佳は当たり前のように一口サイズをとって、こちらへと向けてきた。