第77話
友梨佳とともに街を歩いていく。……腕を組んで歩くような距離のカップルが周囲にいないからか、滅茶苦茶視線を感じる。
別に俺たちはカップルではないが。
「どこか行く場所決まっているのか?」
問いかけると、友梨佳は即座に答えてきた。
「ゲームセンター」
「ゲームセンター? そりゃまたどうして?」
「一度、彼氏に景品をとってもらうシチュエーションを試したかった」
「彼氏じゃないんだが」
「間違えた。あなた」
「夫でもないけどな?」
小さく息を吐いてから、ゲームセンターへと向かう。
もうすぐ11時ということでお店自体は空いていたが、人は少ない。
商品の入った台を見て回っていると、友梨佳はある場所で足を止めた。
「……このぬいぐるみ欲しい」
小さなぬいぐるみだな。可愛らしいクマのぬいぐるみだ。
この台はおそらく、確率機ではないな。
UFOキャッチャーには確率機と呼ばれるものがあり、一定金額以上入れないと取れないものがある。
……これはおそらく違うのだが、そうなると実力が試される。
……まあ、UFOキャッチャーは運の要素もあるからな。
「それじゃあ、とってやるよ」
「うん、お願い」
彼女が財布を取り出そうとしたが、俺は無視して自分の金を入れる。
それから千円使った結果――取れない。
そう……俺はUFOキャッチャーが苦手だった。
「……雄一?」
意外そうなものを見るように友梨佳がこちらを覗き込んできた。その純粋な疑問の目が俺の胸に突き刺さる。
「誰にだって苦手なものはあるんだ」
「それなら、言ってくれればいいのに」
「いやだって……おまえ、俺に弱点があると思うか?」
「ある」
「なんだ言ってみろ。俺は完璧超人だろ?」
「有名人」
「……さすが幼馴染、良く理解している」
「うん、まあね。あと、飲み物はオレンジジュースとお茶しか飲めない。炭酸飲料は苦手」
「……知っていたのか?」
「うん。コーヒーも苦いから無理だって」
「……あの、そのくらいでやめておいてくれないか?」
「ピーマンとナスが苦手。食べるときは呼吸を止めてたべている」
「も、もういいから……」
聞いた俺が間違いだったな。
とりあえず、UFOキャッチャーは苦手なのだ。俺もアニメのグッズとかを取りにたまに来るが、ネットで買ったほうが安く済むだろというくらいとれない。
俺はさらにお金を入れようとすると、友梨佳が首を横に振った。
「別に無理に取らなくてもいい」
「いや……取らせてくれ。ここまで来たら負けられないんだよ」
あと少しで落ちそうなのだ。他の客に取られたら癪だ!
俺がお金を入れると、友梨佳は口元を緩めて見守ってくれた。
それからもう千円ほど入れると……何とか取れた。
たぶん、この景品なら、慣れている人は500円入れれば取れるんじゃないだろうか?
友梨佳のほうに向けると、彼女は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ほら、どうだ?」
「お金だいぶかかっちゃった。私払う」
「気にすんなよ。そんくらいはもう何度も依頼料でもらってるしな」
「でも、今日は違う」
「一緒に遊ぶの楽しいからな。このくらいは気にするな」
そういうと、友梨佳は口元を一度結んでからぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて微笑んだ。
「その、迷惑……じゃない?」
「何がだ?」
「最近、また頻繁に会いに来てる、から……」
なんだ、気にしていたのか? いや……友梨佳はこういう子だ。
結構無鉄砲というか、自分中心で動くように思われる子だが、きちんと相手のことを考えている。
「迷惑は感じてないな。むしろ、わりと楽しんでいる」
「ほんと?」
「ああ、ほんとだ」
この生活も悪いものだとは思っていないからな。
そう考えていると、友梨佳は嬉しそうに笑った。
「それなら、毎日行く」
「いや、もう少し頻度は考えてくれないか?」
「やだ」
友梨佳はそういって楽しそうに笑った。
短編たちです。良かったら読んでくれると嬉しいです。
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