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第72話



 土曜日。

 俺はバイトがあったため、『ダリーズ』のカフェに来ていた。

 更衣室に入ったところで、大学生の先輩と目が合った。


「……ちっ、そういえば今日のシフトは陰キャと一緒かよ」


 俺の陰鬱な空気から、陰キャと呼ばれるようになった。

 どこでも俺のあだ名は一緒だからラクでいいな。

 浮気しまくる男が、女全員に同じあだ名をつけて呼ぶとか聞いたことがあるが、俺はまさにその逆バージョンである。どこにいっても、同じあだ名で呼ばれる。

 むしろ、友梨佳、美月と一緒にいるときなんて自分が呼ばれているのかを忘れてしまうくらいだ。


「おはようございます」

「……」


 無視されてしまった。

 この先輩は俺のことが大嫌いだからな。陰キャだから、という理由らしい。

 確かに先輩は、髪は染めているし、服装とかも陰キャから少し外れたものだ。


 だから、俺のような人間が嫌いなのかもしれない。

 そんなことをぼんやりと考えながら、制服に袖を通し、カフェの開店準備をはじめる。

 軽く清掃したり、席を整えたり――。キッチンスタッフと挨拶を交わしながら、時間を潰していく。


「あっ、おはよう、雄一くん」


 と、キッチンにいた柔和な笑みを浮かべる有坂さんがこちらに手を振ってきた。

 おっとりとした、ザ・お姉さんという感じの人である。これで、先輩の同級生らしいのだから驚きだ。


「おはようございます、有坂さん」

「今日一緒だったんだね」

「ええ、そうですね。よろしくお願いします」

「うん、よろしくねー」


 軽く手を振って微笑む有坂さん。かなりのボリュームの胸がそれだけで揺れるので、俺は目を向けないようにしつつ、作業へと戻った。

 すると、掃除をしていた先輩がどん、と俺の体にぶつかってきた。


「おい、ちんたらしてんなよ」

「すみません」

「ちっ」


 先輩は……俺が有坂さんとそこそこ仲良くしているのが気に食わないというのもあって、こうして俺に強く当たってくる。

 俺としてはいい迷惑である。


 有坂さんは別に芸能人とかそういう有名人ではない。

 だが、有坂さんはミスコンでも優勝するくらいに、大学では有名らしい。


 ……そういう人と仲良くすると、このように要らぬ嫉妬をかい、敵を増やすことになる。

 やはり、有名人と関わるとロクなことはない。


 中学の時はこれ以上にひどかったので、まあ別にいいんだが。

 開店準備も終わり、店長のゴーサインとともに店をオープンした。



 〇



 『ダリーズ』ではパンケーキがとても人気で、とにかく女性客が多かった。


 いわゆる、映える写真を撮るために、訪れるのだ。

 男性客は、五組に一組程度いればいいくらいの比率だったが……最近は着々と男性客が増えているんだよな。


 その理由は……みんな同じで、有坂さんが狙いだ。


「……うわぁ、可愛いなあいかわらず」

「それにでっけぇな……」

「あ、ああ……」


 生唾を飲むんじゃない。

 俺が水を運びに来ても、男性客たちは気づいていない。

 

 俺が気づかれない程度にため息をつきながら、男たちから注文をもらい、キッチンへと持っていく。

 出来る限りの愛想を振りまきつつも、淡々と仕事をこなしていく。

 手の空いた時間で、ついつい施設内の状況を確認してしまうのは、ボディーガード訓練が原因だな。


 死角になりやすい場所、また不審な行動をしている人間はいないか? あるいは、何か問題が発生した場合、どこから誰をどの順番で避難させるか……そんなことを考えてしまう。

 レジ打ちをしながら、お客さんの持っている荷物を見てしまう。


 服装や荷物、あるいはお客さん同士の関係から……この店にどうやってきたのかを推測してしまう。


 ただ、遊びに来たのか、何かのついでに来たのか、あるいは店員が目的なのか、それとも悪さしようとしているのか。今のところ、犯罪目的で入ってきた人物はいないな。

 ……などなど、そんなどうでもいいことばかりが頭の中を流れていったときだった。


「……二名様でよろしいですか?」

「よろしい」

「では、席にご案内いたします」


 満足そうな顔で入ってきたのは、明らかな店員目的の二人組の女子――友梨佳と美月だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 男が強くて優しい。女が惚れる。単純だけど真理だな。。。(ひどい偏見)正直、好きです。強い男になりたいな~。 [気になる点] この主人公の男の子は、ボディーガード止めてしまったら何の職業につ…
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