第67話
俺はグループラインで二人に事情を説明する。
あとで電話する、という話を聞いてから特に返事はない。
『今日は本当にありがとね! とても、助かったよ!』
かわりに届いたのは、アンナからのラインだ。
そのラインを皮切りに、ぽつぽつと連絡が届く。俺に対する質問が多い。
滅茶苦茶適当に答えていくと、アンナから別の連絡が届いた。
『アタシにも聞きたいことがあったら何でも聞いてね?』
『特にないです』
『あって! 興味持ってぇ!』
といわれても、仕方ない。興味がまったくないわけではない。例えば胸のサイズとか。美月ほどではないが友梨佳よりは大きかったからな。
とはいえ、彼女は有名人。俺とは住む世界が違う。こんな質問をしたらセクハラとして訴えられるかもしれない。いや、有名人関係なくセクハラだな。
そのために、友梨佳と美月に連絡をしたのだが、まったく返事がない。
と、部屋のドアチャイムが鳴った。宅配便か? と思っていると、友梨佳と美月だった。
「……なんで、家まで来たんだ?」
「会いたかったから」
「返事になってねぇよ……」
「だって、相談があるって」
「……ああ、それで? でも電話でいいだろ」
美月がにこっと笑って、口を開いた。
「それも考えましたけど、会いたかったからですね」
……結局、そうなるのね。
彼女らに小さくため息をついてから、部屋へとあげる。
そして、早速……リビングに置かれたテーブル前で俺たちは向かい合うように座った。
「まずは……事情を聞いてもいい?」
友梨佳が首を傾げてくる。俺は首肯し、それから今日一日あった出来事について伝えた。
……そうすると、二人は納得した様子で頷いた。
「つまり、危険なところを助けて気に入られたということ?」
「気に入られたかどうかは分からないが……」
「絶対気に入っています。アンナさんが自分から進んで連絡先を交換するなんてまずありえません。あれで、結構奥手ですからね」
「でも、調べてみたが、何か芸能人の誰かと付き合っている噂もあるんだろ?」
「ああ、それ全部嘘ですよ。私たちだって色々な話出てますよね?」
……まあ、確かにな。
ネットでは、わりとそういうデマはよく飛び交っている。
一緒にいるのが多かったり、ドラマ撮影が一緒だったり……。
調べてみると友梨佳と美月もそういう話は出ているな。
「確かにな。それで、アンナにこれ以上絡まれないようにするにはどうすればいいと思う? 今も……めっちゃラインくるんだけど」
アンナから、いまいちよく分からないラインがたくさん来るのだ。
とても面倒である。
俺がその画面を見せると、友梨佳と美月は顔を見合わせた。
「もともとアンナはライン好きだから、そのくらいは普通。というか、私にも結構来てる」
友梨佳がスマホを取り出し、アンナとのやり取りを見せて来た。
『友梨佳は長江雄一って人知ってる?』
『私の彼氏』
さっそく嘘をついている。
『う、嘘だぁ! 絶対嘘だね!』
『嘘じゃない、すでに私たちには子どももいる』
『うそぉ!? も、もう結婚もしてるの!?』
『うん。それは美月も知っている』
『え、ええ!?』
……おい、どんだけ嘘をもればいいんだこいつは。
俺が呆れていると、美月が友梨佳をじろっと見た。
「堂々と嘘つくのやめてください!」
「別に嘘じゃない。これから作れば本当になる」
「こら、くっつこうとしないでください!」
友梨佳が俺のほうに体を寄せてきて、美月がそれを妨害する。
……まったく。
「美月のところにも連絡行っているんじゃないか?」
そもそもは、俺が二人と知り合いだといったのが始まりだろうからな。
「はい、そうですね。結構やり取りしましたよ?」
そういって彼女がスマホを見せてきた。
『美月は長江雄一って人知ってる?』
『私の夫です』
『うえええ!? 重婚!?』
……俺は額に手をやった。