第62話
「……」
「それじゃあ、どうする? 普通に買い物にでも行く?」
「うーん、そうですね。お店でセンパイを着せ替えして遊びますか?」
次の日の朝。友梨佳が全員の朝食を作り、それを頂いていたのだが……二人は未だ帰る様子がなかった。
というのも……二人とも、今日は休みなのだそうだ。
これはもしかして、一日付き合わされるのではないだろうか? ……いや、別に嫌ではないが、外に出るとなるとまた話は別だからな。
彼女らは変装するとはいえ、誰かに気づかれる可能性は十分にあるからな。
「……休みでも、色々やるべきことあるんじゃないか? ほら、レッスンとかあるだろ? 日々の鍛錬が大事なんじゃないか?」
俺が二人にそう提案する。しかし、二人から完全に俺は無視される。
「色々な店があるショッピングモールとかがいい?」
「そうですね! あっ、友梨佳さんは別に来なくても大丈夫ですよ?」
「それは、こっちの台詞。美月は別にいいから、さっさと帰るといい」
じろーっと二人は言い合っている。お二人ともそろそろ帰ってくれていいんだけどな。
朝食を食べ終えた後、あれよあれよと着替えることになる。
……とりあえず、女装させられなくてよかったとほっとする。
普通の服に袖を通しながら、すでに準備を終えている二人を見る。どちらも変装はばっちりだ。……とはいえ、な。
「おまえら、一応有名人なの覚えているよな? 一緒に外にでて、スキャンダルになったらどうするんだ?」
二人は変装していくことになるだろうが、それでもバレないとも限らない。特に、二人はどちらも人を魅了する声を持っている。
気づく人はすぐに気づく可能性がある。
「うちの事務所、週刊誌とつながりあるから大丈夫」
「私も大丈夫です。バレたときは仕方ありませんね。炎上覚悟で結婚発表です」
「……結婚は飛躍しすぎだろ」
かなり能天気な二人にため息をつきながら、俺たちはアパートを出た。
庭では、花壇に水やりをしている管理人がいた。
「おやおや、女を二人も連れて……仲良しじゃのぉ?」
管理人がからかうようにこちらを見てそういってきた。
「以前はありがとうございました!」
美月が丁寧に頭をさげていうと、管理人が首を振って笑った。
「いいんじゃよ、気にしないでくれ。それにしても、雄一は二人も侍らせてどこで何をするんじゃ?」
「侍らせてねぇよ」
「うん、侍られているのは一人、私のみ」
美月の体を突き飛ばすように友梨佳が俺の腕に抱きついてきた。
美月は頬を膨らましたあと、逆の腕をつかんできた。
「おまえら……敷地外でそれをやるなよ?」
ため息をつきながら、俺たちはショッピングモールに向かって移動した。
〇
俺が暮らしている場所は都会から少し外れているからか、どちらかといえば田舎に近い。
近場で便利な場所といえば、ショッピングモールくらいだ。
二人とも、俺の家の立地を完璧と言えるくらいに把握しているため、迷うことなくショッピングモールにはついた。
それから、三人で歩いていく。
……友梨佳も美月も顔の半分近くは隠れているが、それでも纏うオーラが違うため、微妙に注目を集めてしまっている。
まあ、マスクを外さない限り、バレる心配はなさそうだが。
そんなことを考えながら、俺は二人とともに歩いていく。
ほぼ無理やりに連れていかれたのは、服屋だ。
「それじゃあ、片っ端から服を着て行ってもらう」
「そうですね! アンナさんほどじゃないですけど、私たちもモデルみたいなことをすることはありますし、コーディネートは任せてください」
「……つっても、俺服買うような金ないぞ?」
そもそも、服に大した興味もなかった。
あれもこれも服をもっていても、洗濯するのが面倒なだけだ。
どうせ、タンスの下のほうで皺だらけになる。
「私が奢るから気にしないで」
「私も奢ってあげますから」
女性……それに一人は年下に奢ってもらうとか、さすがに情けない。
「いや、それはいいから。自分の服くらいは買うが……あんまり高いのは選ばないでくれよ」
「わかってる」
「センパイってそういうところしっかりしていますよね」
断るが二人はずいずいと引っ張っていく。
……まあ、二人は楽しそうだからな。一応金自体は持っている。……あくまで、服に使いたい金を持っていないだけでな。
そんなこんなで着せ替え人形にさせられ、二人の趣味にあった服を購入したあと、一度二人はトイレに向かった。
俺が近くのベンチで休んでいると、
「おっ、陰キャじゃーん!」
……他クラスの陽キャグループ、四人組がニヤニヤとこちらに近づいてきた。




