第61話
友梨佳が俺の腕をぎゅっと握ってくる。
俺は腕に抱きついてきた友梨佳を引きはがす。すると、その腕を美月が掴んできた。友梨佳が今にも泣きそうな顔で俺の腕に手を伸ばしている。
「ふふ、こういうことですよ? センパイは私と寝たいんですよ。邪魔しないでくれますか?」
「ちげぇよ?」
俺は掴まれた腕を動かして、美月を払う。すると、二人はあわあわと悲しそうに腕を伸ばしてきた。
俺は小さく息を吐き、友梨佳と美月を連れてベッドがある寝室へと向かう。それから布団をはいで、俺はそこに友梨佳を横にさせる。
「まず、友梨佳が横になるだろ?」
「……うん」
「次に、美月が横になる」
「……はいっ」
二人が並んでベッドで横になった。
「はい、二人とも抱きしめあって……」
「うん」
「うん?」
友梨佳は素直に、美月は首を傾げながら二人が抱きしめあう。俺は百合漫画の表紙みたいなものが出来上がったので、満足してぐっと親指を立てた。
「おやすみ」
俺がそういって部屋を出ようとすると、二人が一瞬で俺の左右に並ぶ。
「待て」
「待ってください」
二人はハイエナのような俊敏さで俺の背中に飛びかかってきた。美月は俺の背中をぎゅっと抱きしめるように。
そして、友梨佳はくるりと俺の前側に回り、俺の体を正面から押さえつけてくる。見事な連携攻撃だった。
無理やり力を籠めれば引きはがせはするが、怪我させないでというのは難しい。
そのまま、美月がぐっと背後に体重を傾ける。そして、友梨佳が俺の体をとんと押し倒してきた。
「うげ!?」
若干首がしまり、むせる。俺の体はベッドに落下し、それから友梨佳と美月が俺の体に絡みついてきた。
「あちーよ!」
「美女二人に抱きつかれての感想がそれだけ?」
声がすぐ近くに聞こえる。見れば、友梨佳の顔が間近にあった。さすがの彼女も、頬が紅潮している。
「せ、センパイ、どうですか? 私のほうが気持ちいいですよね?」
「あちーんだよ!」
少し動けば柔らかな感触が体のあちこちを襲ってくる。友梨佳がお構いなしにぎゅっと抱き着き、美月も背中側から押さえつけてくる。
友梨佳は控えめとはいえ……なんかもうあちこち柔らかいからそれだけで大変だった。
美月はもちろん、凶悪な武器がついている。
「……というわけで、これでくっついて寝れば一緒に寝られる」
「たぶん、俺汗だくになるぞ?」
「なめる」
「やめろ変態!」
「大丈夫です、私センパイの汗なら気にしませんから」
前門の変態、後門の変態。
……二人は僅かに頬を染めながら、俺を離すことはなかった。
二人が呼吸をするたび、頬や首元にかかってくすぐったかった。
くそっ。
「……ちょっと待ってください、友梨佳さんが前側なのはずるいです。私もセンパイの寝顔を見ていたいです」
「知らん」
「し、知らんってなんですか」
友梨佳と美月が俺を挟んで喧嘩を始める。
「おまえら、喧嘩するなら俺を挟まずにやってくれないか? そうだ、一度俺から離れたほうが喧嘩しやすいだろ?」
「……美月。明日は逆になればいい」
「……わかりました、それで手を打ちましょう」
「なんでこういうときだけそんな物分かりいいんだよおまえら!」
俺が声を荒らげると、友梨佳と美月はさらにぎゅっと抱きついてきた。
……もう完全にロックされ、俺は満足に動けない。
俺は軽く息を吐き、仕事モードのスイッチを入れる。それでも、かなり理性ががりがりと削られていたが、手を出したら最後なので、こらえた。
「……それじゃあ、もう寝るからな」
「うん、おやすみ」
「はい、おやすみなさい……」
……ボディーガード的考えでいえば、これだけ密着していれば守りやすいともいえる。
まあ、手足が完全に捕まっているので、たぶん何もできないけどな……。