第57話
友梨佳は元々多めに買ってきていたので、材料に関しては問題なかった。
二人が調理を開始するのだが、うちのキッチンは狭いので、一人ずつしか作れない。
自然、先攻後攻と別れることになった。出来立てを食べるには、後攻のほうが有利というわけだ。
「私のは出来立てにはならないけど、ハンデをあげる。私が先攻になってあげる」
パンツ枚数で勝利したからか、友梨佳がそう美月に提案していた。
一応、三人で一緒に食べたいというのは話していたので、友梨佳がレンジで温めなおせばいいが、やはり出来立てのものと比較すると味は劣るだろう。
勝気に微笑んだ友梨佳に、美月はむっと唇を結んでいる。
「……くぅぅ。生意気ですね！ その口が二度と開けないようにしてやりますからね！」
美月の料理が原因でないことを祈るばかりだな……。
友梨佳がまずキッチンへと向かう。彼女が料理を作り終えたところで、美月がキッチンへと向かう。
友梨佳が出来上がったものはテーブルに置かれている。良い匂いが部屋に充満していて、同じ部屋にいるだけで空腹が刺激される。
美月がキッチンに向かうと……何やら激しい音が響いていた。
……大丈夫か、おい。
しばらくして、美月のハンバーグが出来上がった。友梨佳は全員分を作り……そして、美月は俺の分だけを作った。
つまり、俺の前にはハンバーグが二つ、並んでいた。
一つは友梨佳のものだ。綺麗な焼き加減で、見るからにおいしそうだった。
もう一つは美月のものだ。……丸焦げ、なのだろうか？ それとも何かやばいもんでも混ぜたのか？ まるでダークマターのような物体にさすがに頬が引きつった。
ハンバーグを作るのって別にそんなに難しくはなかったと思うのだが。
「食べて」
友梨佳が一口サイズに切って、俺のほうに差し出してきた。
「わ、私のもありますからね……っ」
負けじと美月も一口サイズに切ってその物体をこちらに押し付けてきた。
……焦げ臭さはあったが、それ以外特に異常な様子はなかった。
とりあえず、まず先に安全なことが分かりきっている友梨佳のほうから頂いた。
一口で食べる。俺が咥えた箸を、友梨佳は嬉しそうに見つめて口に運ぶ。間接キスが出来て喜んでいる様子である。
「どう？」
口に箸を咥えながら、友梨佳が首を傾げる。こんなやべぇ奴だが……
「うまい。滅茶苦茶うまいな」
「もちろん、妻だから」
「へいへい……」
もうツッコむのも疲れた。この二人が揃うと、危険すぎる。
友梨佳は勝ち誇った顔で美月を見ていた。美月は負けじとこちらに近づける。
「次は、私の番ですね」
「……ふぅ」
「そんな覚悟を決めた顔をしないでください……。味見はしましたから」
「……食えたのか？」
「ひ、人によって好みは違いますから……っ。センパイへの愛の量では負けていませんから！」
「それは聞き捨てならない。私のほうがそれは強い。雄一の肉だと思って、一生懸命ひき肉を練りこんだから」
「それ俺死んでないっすか？」
……友梨佳と美月がまた睨み始めたので、俺はさっさと箸にかぶりついた。俺の咥えた箸を、対抗するように美月が咥えた。……その儀式、必要なのかよ？
ハンバーグを咀嚼していく。
まあ、料理できなくても露骨にやべぇものができあがるというのはまれな話だ。
一応、食えないことはない。なんかじゃりじゃり言っているような気もするが。
「ど、どうですか、センパイ？」
「幼い頃の俺の休日の過ごし方は知っているか？」
突然の俺の問いかけに二人は顔を見合わせる。
「……私とイチャイチャする妄想？」
友梨佳がふざけたことを抜かし、
「私とよく遊んでくれましたよね、キャンプとか行きました」
「それは私も行った」
「私のほうが多かったはずです」
「ううん、私」
惜しいようで遠い回答である。
確かに俺は休日よく、彼女らのどちらかと会っていたものだ。休日は家族でキャンプに行く、というのはよくあった。
ただしそれは、あくまで表向きの話だ。
木々に囲まれた中で、父と祖父に稽古をつけさせられていた。そこで、サバイバルまがいの生活をさせられていたものだ。いや、当時は普通に楽しいと思ってやっていたが、子どもによっては虐待と感じるレベルの行いがあったのも事実だ。
「サバイバルを良くしていたな。そんな俺だから少量の毒なら問題ない体になったんだよ」
「私の料理は毒ということですか……！」
むすーっと、美月が頬を膨らました。
