第56話
「友梨佳さん……どういうことですか?」
「少しダイエットしたほうがいい。胸に贅肉ついている」
美月がひく、っと頬を動かした。しかし、それから彼女はじーっと友梨佳の胸を見て、自慢げに腕を組む。
「贅肉じゃないです。おっぱいです、センパイの大好きな。そうですよね、センパイ」
「大好きなの?」
「俺に振るんじゃねぇよ……」
友梨佳がじろっとこちらを見てくる。
「センパイ、好き、ですよね?」
美月が詰めてくる。……そりゃあ、おまえな。
「嫌いよりかは好きだ。男の子だからな」
俺が言うと、友梨佳は自分の胸に手を当て、少し悔し気にこちらを見て来た。
「……むぅ、でもサイズじゃない。私だってそこそこはある。それに張りも柔らかさも、すべてが美月を超えているはず」
「そんなのは関係ありません。男の子はサイズのほうが気になるものですよ。休憩時間に調べました」
「おまえの検索履歴、そろそろやばいんじゃないか?」
それこそ、スマホを持ったばかりの小学生か中学生みたいなことになっているんじゃないだろうか? そのうち、変なところから詐欺メールとか送られてきそうだ。
「だ、大丈夫です! それで、夕食はどうするつもりなんですか?」
「ハンバーグを作る」
「ハンバーグ……ですか。ハンバーグって……冷凍食品ですか?」
「ひき肉買ってきた。一から作るつもり」
「……は、ハンバーグって作れるんですね」
驚いた様子の美月の言葉に、友梨佳の目がきらんと光った気がする。
「料理もできないのに、雄一の彼女面するの、やめて?」
「おまえも勝手に俺の彼女面するのやめてくれないか?」
「彼女じゃない、妻」
「そこまで言い切れるのはもはや才能だな……」
友梨佳の挑発を受けた美月が頬を膨らました。
「料理くらいできますし……っ! これでも私、料理研究部に所属するキャラクターに声をあてたこともあるんですからね!」
「待て、それ何の根拠にもならないんだが……」
「それなら……勝負する?」
「ええ……任せてください! 料理バトル系漫画を読破した私に、勝てると思わないことですね……っ!」
「おい、美月。不安要素しかないんだが……」
「安心してください……っ。料理で大事なのは独創性と発想力ですから」
「それはなんか違うものの創作論だろ……」
小説とか、漫画とかの……。料理において大事なのは、基礎基本に忠実なところではないだろうか。
「そんな状態で、私に勝てると思っている?」
「お、思っていますよ。大事なのは愛の強さですから」
「それこそ、私の方が上回っている」
「いいえ、そこだけは私のほうが上ですよ」
「ふーん、なるほど? なら、一つ聞きたい」
「な、なんですか?」
「美月は――雄一のパンツを何枚持っている?」
「……なっ」
確かにこの前泊まる準備や泊めてから下着が減ったような気がする。
……いや、それ以前からそうだった。中学の時、家に友梨佳が遊びに来た時はだいたい何かが減っていた気がする。
「当たり前のように人のパンツ盗まないでくれるか? ていうか、そんなのおまえだけだろ」
「あ、あなたも……もっているんですか」
「『も』ってなんだ」
「やっぱり」
「やっぱりじゃねぇんだよ犯罪者共」
「それで何枚?」
友梨佳がごくりと唾をのみ、美月を見る。
「――三枚」
「勝ち誇った顔で窃盗歴を言わないでくれるか?」
「――五枚」
友梨佳が自慢げにそういうと、美月が悔し気に顔をしかめる。
「くっ!」
「くっ、じゃねぇんだわ」
「勝った」
「社会的にみたら負けだからな?」
「でも、料理勝負では負けませんから……っ」
「望むところ」
二人はやる気満々になっているようだが、俺はとても不安だった。