第55話
リビングの方からのそのそ、と友梨佳がやってきた。
美月がおや? という感じで首を傾げ、それから目を尖らせた。
「……へぇ、友梨佳さんじゃないですか? 世間をにぎわせている歌姫さんが、どうしてここにいるんですか?」
「……そっちも。オタク業界の有名人、美月がどうしてこんなところにいるの?」
バチバチ、と二人は睨みあいを始めた。
二人が睨み合えるように俺が場所を譲ると、二人の視線がこちらへと向いた。
「……雄一。私、事前に連絡しておいた。なのに、美月を呼ぶというのは……ここで、真の勝者を決めろということ?」
「いや、美月は勝手に来たんだ。そう、ゴキブリのように」
「ご、ゴキ……っ! 人をあんな虫と一緒にしないでくれますか……っ。友梨佳さんを呼んでいたのなら、連絡してくれたらよかったじゃないですか」
「連絡していたら何か変わったのか?」
「もっと武装してきていました」
「やめろ、物騒だ。とりあえず……騒ぐなら中に入ってくれ」
とりあえず美月をリビングまであげた。
二人が睨み合いながら、リビングまで入り、ひとまず美月が変装道具を外した。
「それで、友梨佳さんはどうしてセンパイのところに来たんですか?」
「電話で呼ばれた。今夜を共にしたいと、美月は?」
「奇遇ですね。私も今夜を共にしたいといわれてはせ参じたわけですよ」
「もうおまえら二人で楽しめよ」
両者の真っ赤な嘘の応酬にそう突っ込んだ。
二人はそれでもまだ睨み合っていたので、美月をちらと見た。
「それで? おまえ本当に何をしにきたんだ? いつもみたいに遊びに来たのか?」
「いつもみたい?」
友梨佳が反応したが、俺は無視を決めこむ。
「違いますよ。今日は一緒にラジオを聞きたいと思いまして」
「……え? そうなのか? 友梨佳もそうだったんだが……まさか被るとはな」
「まあ、私と友梨佳さんで一緒にラジオに出演しましたからね」
それは意外だ。
でも、まあ二人はわりと関わりがあるしおかしくないか。
「そうなのか?」
「うん、ゲストで私たち呼ばれた、モデルの小園アンナさんのラジオ『今日の日本文化!』ってラジオ、知っている?」
友梨佳が問いかけてきたが……すぐには分からなかった。
俺はそういうのに疎いからな。スマホで軽く調べてみると……かなり、有名なようだ。
大人気モデルだそうだ。歳は俺よりも二つ上だそうだ。
「……なるほど、ハーフなんだな?」
写真を見ると確かに顔や体のつくりは日本人離れしている。
「うん」
「綺麗な金髪だな……さすが外国人ってところか?」
「それは染めたって。地毛は黒髪」
「……青色の瞳、綺麗だな」
「それはカラーコンタクトだそうです。元は黒目だそうです」
「……」
そういうモデルさんなんだな、理解した。
「この人のラジオに出たんだな?」
「うん、その人日本のアニメとかの文化が大好きで、週一でラジオがある。私たちは、今出ているアニメの宣伝ついでに呼ばれた感じ」
「……おまえら二人を呼ぶとかすさまじいな」
仕事中だから今よりはマシだろうが……会ったこともないのに小園アンナが可愛そうだな、と思ってしまった。
「まあ、そこは色々あって。とにかく、一緒に聞きたい」
「はい、私もです」
「わかったよ、そんじゃ。全員で仲良く聞くってことでいいか?」
別に二人を受け入れるくらいはわけない。
友梨佳と、美月は顔を見合わせ、それから微笑んだ。
「分かりました、久しぶりに幼馴染で仲良くやりましょうか」
「うん、分かった」
……確かにこうして三人でゆっくりできるのは久しぶりだな。
って、そうだ。そうなると、もう一人分の夕食が必要だよな。
「……友梨佳、夕食の材料足りるのか?」
「大丈夫、美月の分を作らなければ」
さっそく友梨佳による攻撃が始まった。