第54話
部屋についた俺は、とりあえず部屋の片づけを行う。といっても、普段から汚いということはない。
あの二人がゲリライベントの如くやってくるため、普段からわりと部屋は片付いているほうだった。
簡単に掃除をしていると、部屋のチャイムが鳴った。
友梨佳がやってきたのだろう。俺は一度深呼吸をしてから、玄関へと向かう。
扉を開けると、変装ばっちしの女性がビニール袋を片手に持って現れた。近くのスーパーのものだな。
「久しぶり」
マスクとサングラスを外した彼女が微笑んだ。
彼女が部屋に来ただけで、この部屋の豪華さがあがったような気がした。
「おう、久しぶり。また急に来たから何か仕事の依頼でもされるのかと思ったぜ」
「そういうことはない。ただ、ちょっと似たようなこと、かも?」
「どういうことだ?」
「私、この前収録したラジオが今日放送されるから。一緒に聞きたいと思って会いに来た」
「……なるほどな」
確かに、似たようなこと、ではあるかもな。
「これ、今日の夕飯に買ってきた」
両手にビニール袋を持った彼女から受け取った。ずしりと両手に重みが伝わる。
「その格好で買い物したのか?」
「うん」
「じろじろ見られなかったか?」
「……もしかしたら、気づかれたかもしれない」
「ただ単に不審者だと思われただけだ。……てか、結構あるな」
袋の中を見ると、それなりに食材があった。
……今日の夕食だけではなさそうだ。
「数日泊まれるように」
「どこにだ?」
「不束者ですが――」
「……まさか、おまえ休日この家にいるつもりか?」
「日曜日はちょっと仕事あるから外出てくるけど、また泊まりたいと思う。……迷惑?」
「いや、まあ迷惑じゃないが……ここはセキュリティー弱いぞ?」
……まあ、何かあれば管理人が出てきてくれるかもしれないが、機械面でのセキュリティーはほとんどないからな。
「気にしない、気にしない……ん?」
彼女を部屋にあげて、鼻をくんくんとひくつかせる。
まるで犬のようだった。それから彼女は眉間を寄せた。
「他の女の匂い……」
「それ本気で言っているのか?」
「言ってみたかった部分はある。けど、最近美月もよく来ているでしょ?」
じろーっと冷えた視線でこちらを射抜いてくる。
「……そりゃあどうして?」
「美月に自慢された。殴り掛かりそうになった」
「やめろって……。おまえら、そういえば交友あったもんな」
「うん、そこそこ。アニメとかで関わることも多いし、年齢近くて幼馴染だし、何かとセットにされることがある」
「なるほどな」
……二人とも美少女で並ぶと絵になるのも理由の一つだろう。
綺麗で真面目そうで適当な友梨佳と、可愛くてちょっと遊んでそうな見た目のわりに真面目な美月。キャラクターも被っていないから使いやすいのだろう。
「……雄一は、美月みたいな可愛い系のお胸が大きい子が好き、なの?」
むすーっと友梨佳が俺のほうを覗きこんでくる。
「いや、別にそういうわけでは――」
俺がそう言いかけた時だった。再び部屋のドアチャイムがなった。
「宅配かもな、ちょっと出てくるな」
「……むぅー」
ナイスタイミングだ。宅配便のおじちゃん! そう思いながら玄関を開けると――
「センパイ。遊びにきましたよ」
すっと一礼をした後、美月が微笑んだ。
……なんて最悪なタイミングなんだこいつは。