第53話
学校が、さらに平和になった。
これまで、佐伯のグループ、不良のグループに絡まれていた俺だったが、今ではそんなことはないのだ。
教室では一人でいられるため、それはもう気楽だった。
いつものようにスマホを弄っていると、
『今日遊び行っていい?』
ラインがきた。相手は、友梨佳だ。
久しぶりの連絡だな。……遊びに来る、か。
有名人なので拒否してやりたいが、下手に拒否すると高校まで押しかけてくる可能性がある。
多少の譲歩は必要だな。
『別にいいが、何かあるのか?』
『たまにはゆっくり雄一と一緒にいたい』
『了解』
特に仕事の依頼とかでないのなら、幼馴染として会うくらいは別にいいしな。
俺はそんなことを考えながら、スマホでそう返事をしておいた。
『夕食はどうするんだ?』
『私が作るから気にしないで』
『材料何もないぞ?』
『買っていくから』
『了解』
……あいつ、一人で来るのだろうか? そこは少し心配だな。タクシーとかを使ってほしいところだ。
多少心配しつつ、俺は友梨佳とのやり取りを終えた。
担任がクラスに入ってきて、授業が始まる。
時々眠たくなりながらも、何とか一日の授業を終える。
放課後だ。軽く伸びをしてから、廊下に出ると……不良グループと目があった。
彼らはびくっと俺を見て肩をあげ、それから逃げるように去っていった。
……カラオケ店での軽い脅しが効いたようだな。
そんなことを考えながら歩いていると……うわ。
向かいから別のクラスのグループが歩いてきた。
男女の四人組である。二年に進級してからはまったく関わりはなかったが、一年のときは今の佐伯グループのように絡んできた連中だ。
俺は勝手に陽キャグループ、と呼んでいるが……そもそも真の陽キャは俺たち底辺を見ることなんてないだろう。
だから……正確にいうのなら、奴らは真の陽キャにはなれなかったからこそ、陽キャグループと俺は呼んでいる。
本物に関しては真の陽キャグループと呼んでいる。
俺が気づかなかった振りをしていると、陽キャグループがこちらに気付いた。
「あれ、陰キャじゃん。久しぶりだな」
「……ああ、まあな」
声をかけられてしまった……さっさと帰りたかったのだが、仕方ない。
俺がため息交じりに彼を見ると、彼とそのグループがくすりと笑っていた。
俺を話のタネにするだけで、彼らのグループでは笑いが生まれるからな。
話に困ったときは俺を使うというのが、彼らのグループでの決まりのようだった。
さながら俺は冷凍食品だ。弁当のおかずに困ったときに冷凍食品があれば便利だろう? 俺はそんな存在なのだ。
「あれ、そういや陰キャって一人暮らしだったか?」
「そうだけど、なんだ?」
よく覚えてるな。俺はおまえらの名前さえ憶えていないというのに。
「いいなぁ、一人暮らし。オレ実家暮らしだからよぉ、女を連れ込むとか中々できなくてな、羨ましいぜ!」
「おいおい、やめろって! 陰キャに連れ込む女なんていないだろ!」
「あはは、そうだよな! 悪ぃな呼び止めて!」
彼らは楽しそうに笑っていた。
俺はそんな彼らの話に笑顔で頷いた。若干引きつっていたかもしれない。
いや、俺は連れ込んでいない。奴らがいつも勝手に来ているだけだ。
それ以上絡まれることはなかったので、ほっと胸を撫でおろす。
それから、まっすぐにアパートへと帰った。