第51話
俺は滅茶苦茶喜んでいた、美月は顔を青ざめさせていた。
俺は美月の体をとんと、弾いてから首を軽くひねった。それから、男をじっと睨みつけながら、靴を履いた。
「なにあんた?」
俺が威圧するように睨むと、ストーカーは一瞬足を引いた。
だが、それでも彼は手に持ったナイフを思いだしたのか、不気味に笑った。
それでも、彼はナイフを両手で持ってからこちらを睨んできた。
「み、美月ちゃんに変なことしやがって! 美月ちゃんは、僕の嫁なんだぞ!?」
「嫁? そりゃあ妄想じゃないか? 俺は美月と将来を約束した仲なんだぞ?」
「だ、黙れ!! それがおまえの妄想なんだよ! ぼ、僕と美月ちゃんの仲を邪魔するのなら……殺すぞ!!」
ストーカーが声を張りあげる。ナイフをこちらにつきつけ、一歩、また一歩と近づいてくる。
俺がちらと美月を見ると、彼女はすっかり顔を青ざめさせていた。
「……もう十分か」
俺は小さく息を吐いた。次の瞬間だった。ストーカーが駆けだした。
距離を一瞬で詰めてくる。両手でナイフをもった彼の軌道は……分かりやすかった。
かわしながら、背中を肘で殴りつける。それだけでストーカーは派手に倒れた。
「うぶ!?」
倒れたストーカーの手からナイフがこぼれおちる。そのナイフを蹴り上げて遠くにはじいたところで、俺は彼の背中を押さえつける。
暴れようとした彼の足を思い切り蹴りつけた。ストーカーが悲鳴をあげたが、俺は気にせず、美月を見た。
「美月、警察に連絡してもらっていいか?」
「え? あっ、は、はい……っ」
慌てた様子で美月がそういって、すぐにスマホを取り出した。しかし、彼女が電話を終える頃に、ちょうど警察がやってきた。
「連絡があってきたのですが……っ」
「はえぇな……おい」
俺がつぶやくように後ろを見ると、警察官の後ろから腹巻を巻いた寝間着姿の管理人が出てきた。
ナイス管理人。
たぶん、監視カメラで確認して、先に警察に連絡しておいてくれたようだ。
警察官は俺と男の状況を見て、困惑している様子だった。
「そ、それで……どっちが何をしたんだ?」
……どうやら、そこで混乱しているようだ。
「こっちの男じゃよ! いきなりナイフを取り出したんじゃよ!」
管理人が警察官に事情を説明してくれている。
俺がすっと男からどくと、警察官が犯人の体を押さえつけた。
「とりあえず、署で詳しい話を聞かせてもらうからな」
「は、離せ! 僕は、美月ちゃんと愛し合っているんだ! 犯罪者はあいつだ!」
「……大人しくしろ! ……ちょっと、キミたちにも話を聞きたい、少しいいかな?」
「ええ、構いませんよ」
警察官の一人が男を連れて行き、もう一人は俺たちの部屋に残った。
それから、俺たちはこれまでについての説明を行っていった。
基本的には美月が話をし、俺はあくまでその補助をする程度だ。
「……うん、わかった。状況は理解したよ。また必要があれば、話しを聞くかもしれないから、それだけは覚えておいてください。管理人さん、一応監視カメラの様子も確認させてもらってもいいですか?」
「ああ、分かったんじゃよ」
こくこくと頷いて、管理人と警察官は部屋を出ていった。
……呆気ないほどに簡単に終わったな。
管理人が事前に連絡しておいてくれた助かったな。
ちらと美月を見ると、彼女はさすがに腰が抜けているようだった。
美月は力が抜けたようにぺたんと座っていた。
「どうしたんだよ?」
「い、いや……だってナイフをいきなり出してきたんですよ……? 私の反応は至って普通だと思いますが」
「相手が熟練のナイフ使いならまだしも、あんな素人丸出しの相手なら問題ねぇだろ」
「問題ねぇ、って言えるのはセンパイくらいなんですよ! ふ、普通はあんなの見たら死ぬほど驚きますよ……」
「まあ……そうかね」
ナイフ相手との戦いに関しては、幼い頃から指導されてきたからな。今さら、ビビるようなことはなかった。
「とにかくこれで、一件落着だな」
俺はスマホの録画を止めた。
「そんじゃ、俺はシャワー浴びてくるからな」
「ま、待ってください。腰抜かした私を放置しないでください……」
情けない声をあげる美月が、俺の腰のあたりにしがみついてきた。
「それなら、安心してシャワーを浴びられそうだな」
「い、意地悪言わないでくださいセンパイ……」
仕方ないな。
俺は小さく息を吐き、彼女が元通りになるまで近くに座った。
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パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件 ~虐げられていた少年は無自覚のまま最強の探知魔法を使いこなし、最高のサポーターとして成り上がる~
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