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第4話


 

 彼女はキャリーバッグを引きずるようにして、俺の部屋へと上がってくる。


「……おい、何しにきたんだよ」


 まるで俺の家に泊まるかのような動きに、さすがに声をかけずにはいられなかった。


「ニュース、見てない?」

「何のだ?」

「熱愛発覚」

「誰と?」

雄一ゆういちと」

「はぁ!?」


 頬を染めた友梨佳に、俺はそれを無視することはできなかった。

 まず、俺と彼女の間に幼馴染以上の関係はない。


 だが、友梨佳の頭のネジは何本か足りていない。

 彼女が、どこかで『好きな人がいる』といって、俺の名前を挙げていてもおかしくないのだ。


 俺が驚いてスマホを開き、彼女の名前を打ちこんだ。

 真っ先にニュースに出てきたのは――赤式友梨佳、脅迫される、というものだった。


「……どういうことだ?」

「……私、次の参加予定だったイベントを脅迫電話と手紙で潰された。……それで、しばらく事務所が休むようにって言ってきたの」

「はぁ、それで?」

「だから、世界で一番安全で安心できる場所に来た」

「このオンボロアパートは、家賃百万近いあなたのマンションと比較したら涙も枯れるほどの脆弱性だと思うんですが……」

「でも、雄一がいる。安全」


 ぶいっと、友梨佳はピースする。

 俺が頬をひきつらせていると、親父から電話がきた。……まさか、この依頼を受けたの、親父じゃねぇだろうな?


「もしもし」

『おう、元気しているか?』

「ああ、元気だが……なんだ?」

『そっちに、友梨佳ちゃん行ってないか? まあ、行ってたら面倒見てくれ、頼む』

「……おい、俺はもう親父と関わらない、普通に生きるって言っただろ? そっちで面倒見てくれないか」


 俺がそういうと、友梨佳は寂し気に俺の服の裾を引っ張ってくる。

 今にも泣き出しそうである。こんな情けない友梨佳の姿は、少なくともテレビ越しでは見たことがなかった。


『オレが面倒見るつもりだったんだが、友梨佳ちゃんがおまえがいいの一点張りなんだよ。頼む、今回だけは見てくれないか?』


 俺よりは親父のところにいたほうが安全だとは思うんだがな……。


 そう思って友梨佳を見ると、彼女は笑顔であったが……よく見れば少し頬が引きつっているように感じた。

 不安や恐怖が、そこからは痛いほど伝わってきた。


「……お願い、雄一」


 友梨佳のその言葉に、俺は頭をかいてから、頷いた。


「……はぁ、わかったよ。今回だけだ。だが、報酬の九割は俺がもらうからな」

『おう、分かったよ。そんじゃ、頼んだぜ』


 親父がそう言って電話を切った。

 ……まったく。

 俺だってできれば有名人とは関わりたくない。それは、平和で平穏な地味な生活とかけ離れているから。


 だけど、幼馴染が困っていて、それを無視するような人間にはなりたくなかった。


「今回だけだからな」

「……うん、ありがとう」

「いいよ、別に」

「お礼に何か奢る」


 俺は友梨佳の提案に思わず唾を飲み込んでしまう。


「……おっ、それなら近くにちょっと良いレストランがあるんだ。そこに行かないか?」

「行きたい。デート」

「……一応変装しろよ?」

「うん、わかってる」


 嬉しそうに友梨佳が笑う。

 やはり笑顔が似合う奴だな。


「そういえば何かあった?」


 友梨佳が突然首を傾げてきた。


「どうしたんだ?」

「……なんだか、今日雄一の元気がないように見えたから」


 ……たぶん、あの嘘の告白だろうな。

 顔には出さないようにしたつもりだったけど、幼馴染としての勘とやらでわかったのかもしれない。


「そう、だな……ちょっと学校でいろいろあってな」

「色々?」

「ああ。今日クラスの佐伯っていう女子から呼び出さ――」

「――どういうこと?」


 まだ何も言っていないのに、友梨佳の目がぎらんと光る。


「よ、呼びだされてな……告白をされ――」

「社会的につぶす? それとも、普通につぶす? 誰にお願いしたらいいんだろう……」

「やめて! その告白ただの嘘の告白だったから、何もねぇから!」


 ……厄介なのは、友梨佳はなぜか俺のことが好きみたいなんだよな。

 幼少期から俺は友梨佳を仕事相手としてか見てこなかったし、それは今も変わらない。


 ボディーガードの心得で真っ先に学んだことは、『依頼主に恋をしてはいけない』というものだった。

 だから、仕事モードと普段とで切り替えるようにしていて……友梨佳相手だと、自然と仕事モードのスイッチが入ってしまうのだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] ゴミクラスメイト男子に恥を欠かす鉄槌を
[一言] 警察の世話になりなさい 〜完〜
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