MAP No.23 熔岩と凍土の部屋: Grand hall of the castle ──赤い尾の竜
フェイリルは体内時計でそろそろ三十分がたつのを感じた。ミェルニル先輩がミスティオルお嬢様と合流する頃合いだ。
彼女らの行動としては、フェイリル自身が戻ってこないことにミェルニルが腹を立て、二人はもう十分ほど──様子を見たあと探しに出発する、といったところが妥当な線だろう。
その後、怯えたミスティオルを連れて動くとして、各部屋を覗きながらであればギャリーの部屋に到着するまでに推定で二十分はかかる。
であれば、都合三十分の余裕があることになる。
しかし、迷わず一直線に来た場合の所要時間は十五分ほどだろう。つまり、最短での残り十分といったところ。
貴重な十分を使ってギャリーの眉唾の大広間を見つけて、薬草を引っこ抜いて戻れば、お咎めなしという結果が期待できる。いや、せめて薬草の存在を確認できれば、文句は言われまい。
でまかせの可能性も高いが、逆に罠なら、足手まといのいない今すませてしまったほうが無難だ。
人狼の間の先の廊下は大人五人が横に並んで歩けるほどの広さで、大きな入り口に続いていた。
床には汚れてボロボロの赤い絨毯が敷かれて、何かしら価値のある部屋へ向かっていることを想像させた。
そのとき、あろうことか、ミスティオルの悲鳴が前方より聞こえた。続けてミェルニルの叱咤が耳に飛び込んでくる。
フェイリルは舌打ちを合図にわずかばかり回復した体力を注ぎ込んで疾走した。床板がギシギシとうるさい音をたてるが、気にしてはいられない。
ドシンと大きな地響きがした。
イヤな予感が膨らんでいく。
懸命に足を動かして広間に飛び込むと、二階建ての建物ほどの大きさの竜がミェルニルとミスティオルを威嚇するように頭を振り上げる瞬間だった。
その竜は赤錆た色の鱗に覆われ、手足の先と尻尾は鮮血のように真っ赤だった。そして、恐ろし気な前足の鉤爪は鋭く、どんな鎧でも紙のように引き裂いてしまいそうに見えた。
とても大きな体の竜だが、この大広間はそれを軽く凌駕する広さを持ち、まるで大聖堂の巨大な内陣のように厳かな雰囲気の空間だった。
どうやら、あの二人は反対側の通路から入り込んだようで、竜の右前足から五メートル程度離れて立ちすくんでいる。
このままでは彼女たちがいつ襲われるかわからない。
フェイリルは大剣を抜き放つや激しく怒号を発し、注意を惹いた。
竜の恐ろしい顔が声のほうを見て、新たな敵の到来に激しく咆哮する。
耳が痛いほどの大音量の中、ミェルニルの呼ぶ声を聞いた気がしたが定かではない。
咆哮に呼応して背中の赤褐色の翼が大きく広がり、竜はますますの威容を誇った。
あまりの迫力にフェイリルも足の力が抜けそうになるのを必死に耐え、絶対に一撃たりとも受けることはできない、と気を引き締めた。
もし、長い尾のひと振りを受けたとしよう。
成人男性の体はいともたやすく壁に叩きつけられ、内蔵破裂及び全身骨折に加えて脳がシェイクされて即死する。そうでなくとも、挽き肉とか、細切れ肉とか、そういう無惨な結果が待ち受けている。
このような怪物を相手にするとなれば、ありきたりの手段では対抗できない。
そのとき、イケ好かない部隊長に授かった切り札のことが脳裏をよぎった。
人間の力では絶対に敵わない、そのような事態に陥ったときに使うよう渡された三枚のカード。
それはそれぞれに異なる女性の姿が描かれた絵札で、使う順番も指定されている。
赤錆色の竜が長い首を巡らせて、大きな足を一歩踏み出した。ドシンと床に震えが走る。
フェイリルに向けて二度目の咆哮を放った。巨大な牙の隙間から焼けつくマグマのような唾液が流れ落ち、触れた床石を燻らせた。
こんなものを喰らったら、火傷どころではすまない。
怯えた女性の悲鳴がまたもや聞こえた。
迷う暇のなくなったフェイリルは急いでウェストポーチに手を突っ込んで切り札を探し出した。
引っ張り出したカードには青白い顔をした黒髪の女性の鎧姿が精緻な筆致で描いてある。
これが最初に使うよう指示された絵札だ。間違いない。
そのカードを高く掲げて叫ぶ。
「英雄の守護者! 英霊の母! 数多の偉業の導き手! ここに印された御身の名を呼び奉り、茨の道を切り開かん! 御名はブリ──」
「ま、待ちなさい! フェイリル・マリアティッティ!」
どこからともなく妖精君主アーリィが飛んで現れ、小さな体に似合わない大音声で『力ある言葉』を遮った。
突然の登場にフェイリルの口が半開きのまま止まり、その間抜け面を尻目にアーリィは小さな翅から光の粒を散らせて巨大な竜の前に躍り出た。
「レッドテール、怯えなくてもよろしい。この者たちは私の家臣です」
その途端、赤錆色の竜は飼い慣らされた犬がごとくにご主人様に甘えて喉を鳴らし始めた。
ミーン・シーの女王は竜の頭に騎乗すると、腰の帯から革紐らしきものを抜き取るや、魔法の呪文を唱えてひと振りする。すると不思議なことに、革紐は長く延びて竜の顎の付け根に巻きついて即席の手綱に変じた。
「どうどう……どうどう……」
アーリィの優し気な声とともに馬を一呑みにできそうな口がフェイリルへ伸び、頭上を通過してもっと後方へと向く。
そして、竜はそのまま少し離れたところへ地響きを立てて移動していった。
にわかには信じがたいことだが、小さな体躯の妖精があろうことか巨体の竜を御してしまったのだ。
彼女は蒸気のような息をよけて長い牙の覗く鼻先へ飛んでいくと、掌を突き出して待ての態勢をとらせた。
世の中には不可思議なことがあるものだとフェイリルは冷や汗をぬぐい、安堵のため息をついた。
こちらを襲う気配が嘘のようになくなったのを見極めると、剣や絵札をしまい、足のすくんだ二人のもとを訪れる。
さすがに言葉がつかえた。
「よ、よう、九死に一生とはこのことだ」
「よ、よう、じゃない……」
ツッコミを入れながらも床にペタンと座り込むミェルニル。
ミスティオルは放心状態で同じように腰を落とした。
フェイリルは二人と同じように床に座ることはせず、竜のいるほうへ顔を向ける。
すると、華やかなドレス姿のアーリィがスイッと飛んできて忠告を口にした。
「あなたたち、こんなところに来てはいけませんよ」
救世主に会釈をして謝辞としてから、フェイリルは言葉を返す。
「こんなところにしかないヒカリヒメクサを採りに来たんだよ、俺たちは」
「あら、そうでしたの──」
そう言ってアーリィは当然の権利とばかりに広い肩の定位置に腰を落とす。
「──そうであれば、早急に退去できるように私の蓄えをわけて差し上げましょう」
「早急に退去できる、とはどういう意味だ。竜に襲われないようにということか?」
優雅な女王にしては珍しく吐き捨てるような物言いで返した。
「死の番人のそばにいると冥府に引きずり込まれますよ」
「死の番人?」
「死から甦った灰色狼、レヴナントウルフのことです」
アーリィは暗い顔で語る。
「あやつは死の番人として、冥府へ連れ去られた《嘆き姫》の寝所を封じています」
「灰色狼……」
思い当たるのは、ギャリーのことだ。
「寝所とは、近くの別部屋にある礼拝堂のことか?」
「そうです」
フェイリルは自分が入ってきた入り口を見やり、その姿を思い起こした。
「そこに繋がれた裸の奴がいた。その話では野菜抜きの食生活を送っているらしいが」
「肉にしたところで食べずとも死にはしません。その者が不死の人狼、レヴナントウルフです」
妖精然とした美貌に今度は憎しみがまじった。
フェイリルは驚いて口笛を吹く。
「不死者なのか!?」
「ええ」
「不死者を初めて見た……」
そのとき、ようやく喋れるほどに落ち着いたミェルニルが何とか立ち上がり、会話に加わった。
「不死者なんかがいるんなら、あなたのヒカリヒメクサをわけてもらって、本当にさっさと逃げたほうが賢明ね」
彼女が膝の震えをこらえて立ち上がったのを見て、アーリィはくすりと笑った。
そして、翅を広げて舞い上がると、そっとミェルニルの耳元で囁く。
「え!?」
すると、不思議なことに彼女の疲れきった顔に血色が戻り、足の震えも止まった。
妖精の女王は元の席に戻ると、優美な所作で脚を組み、微笑みを浮かべて言った。
そこにあるのは疑いようのない慈愛だった。
「私は、我が主より強く賢明な女性を庇護し、教導する役割を与えられています。そのため、女性のための『癒しの力』を行使できるのです」
ミェルニルは最初何をされたのかと怪訝な素振りを見せたが、自分の体力が回復した事実を素直に受け入れた。
「あ、ありがとう」
フェイリルはかすかに唸る。どうやら単なる小妖精というわけではないらしい。
偉大な女王は少し考えるように小首を傾げて言った。
「さて、話を戻しますが、私の蓄えもさほどないため、大した量は差し上げられませんの」
「いえ、とても助かるわ」
「でしたら、さっそく取りに行きましょう」
彼女の申し出を受けて部屋を移動することにした。
ミェルニルが自分の輝きの水をミスティオルに飲ませて、歩けるだけの体力を回復させる。
その間、フェイリルはアーリィに質問した。
「ところで、あの竜は何だって城の中にいるんだ? あの図体では出入りなんかできないだろうに」
不思議そうな声で回答が返ってくる。
「あの子は部屋飼いの竜だからいいのですよ。散歩のときは、いつでも魔法で外へ連れ出せるし。何かおかしいかしら?」
「いや、竜の部屋飼いって……愛玩犬じゃあるまいし」
面喰らう様を見て、アーリィは口許を隠して笑う。
「フフフ、いやですわ。レッドテールはもちろんペットですよ、私の。あの子が生まれたときから長く飼っていますが、あなたと比べてとても素直なよい子です」
あの巨躯をペット扱いかとフェイリルは辟易したが、いちいち言い返す元気もなかった。
竜を意識から追い出すと、改めてフェイリルは大広間を見上げ、釈然としない気持ちで言った。
「それにしてもここは聞いてた話と違うところだな。本当は『林のある平地の部屋』でヒカリヒメクサも普通にそこらに生えているはずだったんだが」
「いえ、間違いではありません。本来はもっと下層にあった姫様の墓所が第五階層まで浮上してきたのです」
「浮上したって……あっさり言ってしまうものだな」
一瞬言葉を失う男に対し、小妖精の女王はこともなげに補足する。
「あなたも『大異変』のことは知っているでしょう」
「少しは」
「よろしい。それで、それ以来、『迷宮変位』が活発になっていて、本来最下層に封じられていた墓所がこの『月花城』とともに他の変位に乗じて浮上したのです」
「ほう。ここは迷宮の最下層にあった部屋なのか。なら、なぜヒカリヒメクサがあるんだ?」
「元の部屋に潜り込むような形になったからでしょう。それより、姫様復活はこの機に乗じるべきだということです」
話を聞いてわかったことがあった。
この女王様もやたらめったらに復活お助け隊に勧誘しているのではなく、こういった異変から予感して活動しているのだ。
フェイリルは腕組みをしてしばらく考え込んでいたが、ミスティオルの立ち上がる様を眺めながら疑問を呈した。
「それにしても妙な話だな。《嘆き姫》は第一階層の冥き泉に身投げしたと聞いていたが」
「その泉の底は《嘆き姫》の墓所の玄室に繋がっているのです。つまりあなたたちが輝きの水と呼んでいる湧き水はそこからあふれ出るものなのです」
想像のつかないフェイリルは首をひねる。
「それはつまり、あの泉は遥か彼方の下層階層にまで繋がっていたもので、今回の変位のせいでそれが崩れて泉が涸れるということなのか?」
「そんなことあるわけがありません。あの泉は、姫様のあふれ出す慈愛の顕現であり、物理的な繋がりではなく、その神性によって街の近くに湧き出ているのです。おそらく、あなたは井戸の縦穴でも想像しているのでしょう。これだから、体が大きいだけの人間は──」
アーリィは一旦言葉を切ると、物憂げな表情に変じる。
「──いえ、もし、これで涸れたとしたら、やはり復活の日は近いのかもしれません」
そのあと彼女は考え込むように黙ってしまった。
そこへミェルニルがミスティオルを連れてやって来た。
「待たせた。ミスティオルも了承ずみだ」
出発を促すようにフェイリルは手を上げて前に振る。
アーリィは小さな翅を羽ばたかせて先頭を飛び、続いてフェイリル、ミスティオル、ミェルニルと列をなした。
壁際には大聖堂のような大広間の隅に似つかわしくない小さな出入り口があり、一行はそこを通って細い通路に入った。壁には白い漆喰が塗ってあったが、あちこちで剥がれ落ちてみすぼらしいありさまとなっている。
四人が姿を消すと、背後から寂しげに喉を鳴らす太い声が聞こえてきた。赤錆色の竜レッドテールのもの以外のなにものでもないが、その風穴の唸りのような声は三人の背筋を芯から寒からしめた。
とは言うものの襲われる心配がなくなり、先程までのような緊迫した空気はない。
輝きの水のおかげかミスティオルにいたっては見違えるほど元気がでてきており、恐怖が去るなり文句を呟き始めた。
「何なのだ、あの竜は! 大きな体をして女々しく泣くとは情けない奴だ。それより、ヒカリヒメクサは城内にあるんじゃないのか?」
それを耳にしたアーリィは飛翔しながら後ろを向いて微笑む。
「あの子はさみしがり屋なの。許してあげてね。それで、あなたの質問の答えなのですが、ヒカリヒメクサの生えているのは、正確には姫様の守護地の一部と墓所だけなのです」
気になったミェルニルが最後尾から質問を投げかける。
「守護地の一部とはどこのこと?」
「大異変のせいで今は二ヶ所しかわかりませんが、ひとつはこの元『林のある平地の部屋』、もうひとつは第十三階層にある『寒風吹きすさぶ大海の孤島』に自生しています。それ以外に五か所はあったはずです」
その回答に質問者は絶句する。
「うっ……確実に収集可能なところは実質的にここしかないわけだ」
そこへフェイリルが気楽な口調で意見を述べる。
「必要なら十三階層まで行けばいいじゃないか」
安易なセリフに先輩は深いため気をついた。
「ああ、ここにバカが一人……。いいこと、帰ってくるまでに二ヶ月近くかかるし、とても危険なのよ。最低でも五十人はいないと挑戦できる深さじゃない」
フェイリルは苦笑した。
この分では、最下層へたどり着くには百人規模の部隊が必要になる。ミェルニル先輩はどうやってそこまでの人数を集めるつもりなのだろうか。
冥き泉の街の住人は本心では安逸を望む者が大多数を占める。それは組織と権力による統制とそれに見合った安定した生活が提供されていることからも見てとれる。
そんな雰囲気のなかでは、脱出のための探索はおそらく最高難易度に設定されて、誰も挑戦しないお飾りクエストとなり、形骸化されているはずだ。
最終的にはやる気のある少数精鋭で攻めることになるだろう。
むしろ、そういった意欲のある人物を探しだすことは難しいはずである。
フェイリルが考えに耽っていると、アーリィの小さなおしりに額がぶつかった。
きゃっ、と叫んでおしりを押さえるアーリィ。
振り向いたその顔は怒っている。
「失礼ですよ、フェイリル・マリアティッティ!」
「レディーの扱いをわきまえないとは、本当に失礼な奴だね」
と呆れたミェルニルの罵声。
「そうだ、失礼だぞ。無礼者め。今の非礼をしっかりと詫びるがよい」
と増長するミスティオルの非難。
この二人は、さきほどの『強く賢明な女性』の件以来、この妖精君主に一目置くようになっている。別に自分たちが強く賢明な女性と認定されたわけでもないのだが。
ヒカリヒメクサの入手が確実となったために気が大きくなっているとしか思えない。
フェイリルは掌で苦り切った表情を隠して謝った。
「すまない、アーリィ。我が主君の幸せを願って神に対し衷心からの祈りを捧げていた。ところでまだ着かないのか?」
それを聞いて飛翔する女王は蠱惑的な笑みを浮かべ、慈しみの視線を送りつけてきた。
何か誤解が──特に『我が主君』のあたりで──生じたようだが、結果オーライという言葉もある。
ついでにフェイリルも慕わしげな眼差しを練習しておいた。
アーリィはご満悦に目を細め、手を前に伸ばす。
「安心してよろしくてよ。もう、すぐそこです」
彼女の指し示す先にはまさに小妖精サイズの小さな扉があった。
その扉は細かい装飾を施された色鮮やかな扉で、ちょうどミェルニルの胸の高さの壁に棚があり、そこにつながるように扉がはめ込まれていた。
アーリィは飛んでその棚に降り立つと待つように指示して、扉のなかに入っていった。
そのときに室内を覗き込もうとして、バタンと勢いよく閉められた。
いったい中はどうなっているのだろうか、と興味が湧く。
おそらく彼女の体長に合ったサイズの家具が部屋を飾っているのだろうが、それを造ったのは誰なのか。材料はどこから調達したのか。食事もどこでどのようにすませているのか。
ミーン・シーの生活に対する謎は尽きない。
少し待ったところで部屋から主が戻った。
ヨタヨタ……ズルズル……ヨタヨタ……ズルズル……。
優雅に草葉を抱いて現れるかと思いきや、部屋の主はなんと自分の身体ほどの長さの茎を丸太のように抱えて引きずっていた。むろん人間なら片手で持てる程度のものである。
細い茎の先には白くかわいらしい花がつき、その萼につながる根本はうっすらとした藍色だった。葉も細長く、カルスツール砦で聞いた通りのものであり、間違いないと思われた。
もっとも似て非なるものだとしても、それを判別するすべはないのだが。
フェイリルが掌を差し出すと、アーリィはそこに全部で五本の植物をのせた。
息をきらせたままに寛容なセリフを口にする。
「……さあ、お目当ての……ヒカリヒメクサですよ。ハァ……すべて譲りましょう……遠慮なくお取りなさい」
「随分瑞々しいのだな」
ミスティオルがしげしげと眺めて感想を述べる。
フェイリルは壊れやすいものを扱うように丁寧に引き出すと、ミェルニルに渡して仕舞わせた。
彼女の目配せに小さく頷いてアーリィへ向き直る。
「ロード=アーリィ=アーリィアン=グラヴィル、大変助かった。我々はこれを急ぎ持ち帰ることにする」
すると、何も考えずにお嬢様が口を挟んできた。
「何を言う! これっぽっちでどうするのだ!」
アーリィの表情は申し訳なさそうなものに変わり、謝罪を口にする。
「ごめんなさい、 私のところにはそれだけしかないのです」
するとフェイリルがミスティオルの口をふさいでガッチリと羽交い締めにし、ミェルニルが代わりに礼を述べた。
「いいの。ありがとう。助かったわ」
二人はアーリィに別れを告げると、お嬢様騎士を両側から抱え込む。
少し呆気にとられた感じではあったが、アーリィからも別れの挨拶が返り、二人は心置きなくその場を離れた。
おそらく、あの薬草を一本採集するだけでも、小妖精の身体には重労働なのだろう。
今現在、家臣もいないと言っていたことを考慮すれば、本当になけなしの備蓄をわけてくれたに違いない。
予定通りというにはほど遠いが、これで必要なものは手に入った。
ならば、これ以上お嬢様が余計なことを言う前に消えるのが礼儀というものだ。




