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カミの迷宮  作者: ディアス
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MAP No.16 水盤のある十字路──君主たる妖精




 フェイリルがでこぼこした床石の上を注意深く移動していると、小さな女性が息を吹き返した。

 妖精君主アーリィは大きな掌の上で体を起こすと、額に手を当てて大げさな仕種でため息をつく。


「やはり、荒事は専門の殿方にお任せするのが一番ね。……無事でよかったわ、ソルジャー・フェイリル・マリアティッティ」


 フェイリルはおもしろくもないと強い語調で言葉を返す。


「麗しの貴婦人にあそこまでされたら、発奮するね。俺は」


「おもしろい人」


 アーリィは艶っぽい流し目で猛禽類に似た顔を眺め、長い金髪を撫でつけた。

 通路に漂う明るい玉のせいもあり、気を失っていた顔はやけに白っぽい。身にまとうドレスが深い藍色であることも彼女の色白さを際立たせている。


 フェイリルは精悍な顔を厳しくしかめて問い質した。


「そんなことより、何であんな真似をした?」


「さあ、何でかしらね」


 妖精君主はとぼけた様子でそう返した。


 フェイリルは鼻を鳴らすと角を曲がり、投げ捨てた荷物を見つけて近寄る。右手の先客をしみじみと眺めて言った。


「ふむ……さて、レディ・アーリィ、荷物を担ぎ上げるのに両手が必要だ。体は大丈夫そうだから、俺の肩にでも乗っていてもらえるかい?」


「それなら仕方ありませんわね。ウフフ……」


 アーリィは微笑むと、翅を開いて優雅な物腰で広い肩へ飛び移った。


 ようやく解放された両手を使って水筒の水を一口飲むと、まるで汲んだばかりの湧き水のような清冽な味わいで、体の疲れが幾分薄らいだ。

 『輝きの水』の効能は確かなものだった。


 塵芥で汚れていた肩を我慢できるくらいまできれいにしたアーリィは満足そうに眺めた。


「それでは、今後のためにここは私専用の特等席としておきましょう」


 そして座る前に指で何ヵ所かなぞってゴニョゴニョと呟いた。

 もう一方の肩に荷物を担ぎ直したフェイリルはくすぐったいのを我慢して横目で眺める。


「いったい何をしてるんだ?」


 アーリィの悪戯っぽい表情が不安をかきたてた。


「もちろん領有権の主張を刻印として書き付けておきました」


 唐突に彼女の足下が波打つようにうごめき、アーリィは悲鳴をあげて耳たぶにぶら下がった。


 体を揺するようにして頭を巡らしたフェイリルは彼女の座っていたあたりを心配そうに調べる。しかし落書きめいたものは何も書かれていなかった。

 小さな手が耳たぶを引きちぎる前に妖精君主をつかんで手のひらに戻した。


 アーリィが怒りの声を発した。


「フェイリル・マリアティッティ、不作法ですよ!」


「いやいや、俺は首を回しただけだ。レディ・アーリィの腰掛けとなるのはまさに我が本懐に限りなく近いんたが、なにせ主人持ちだ。せっかくだが、客分扱いにしてもらえないか、領地扱いではなく」


 アーリィの顔色は落ち着いたが即答はせず、胸の下で腕を組んで思案した。


「わかりました。客分の騎士(ナイト)として遇することにしましょう」


 言われて今度はフェイリルの顔が曇る。

 まるで不出来を指摘された子供のように床を見てきまり悪い顔をした。


「すまない。俺は騎士(ナイト)の位はもってないんだ」


 思わず手を口に当てたアーリィ。


「ま、そうなんですの!?」


 小さく咳払いをしてすぐに落ち着きを取り戻すと、彼女はこの失点を取り返そうときつく腕組みをし直して眉根にしわを寄せた。

 彼女が二度首をひねるとフェイリルの耳に、構うものですか、という呟きが聞こえてきた。


 妖精君主は掌上ですっくと立ち上がり、こうべを反らせて右手を差し伸べた。その姿は堂々として本物の威厳というものを感じさせ、故郷の大将軍ティフィアス・ディルンヌンを思い出させた。


 なりは小さくても彼女は支配者。つまり、王様だ。


「フェイリル・マリアティッティ、(ひざまず)きなさい」


 王様に逆らうと後が怖い。

 面倒を感じながらも、仕方なくフェイリルは左膝をついた。

 女性の王様は太い柱にしがみつくように親指に抱きつき、さらに命令した。


「さあ、私を顔の高さまで持ち上げるのです」


 望みの高さに達すると、アーリィはかわいらしい咳払いをした。


「もっとあなたの顔に近づけて」


「何をする気だ?」


 言われるがままに顔に近づけたフェイリルは尋ねた。

 妖精の小さな手が届くくらいの至近距離まで近づくと、ふわりと花の香りが漂う。


「これから極めて簡略な騎士位叙任式をします」


「なんだって!?」


 その間の抜けた声は裏返った。

 からかわれているものと思ったフェイリルはあからさまに嫌な顔になった。


「冗談はやめてくれ」


 否定するアーリィの声は真剣そのものだった。


「冗談なんかではありません! あなたはこれから私の守護騎士となるのです」


「おいおい、子供じゃないんだから、憐れんでのお情けなんかはいらないぞ」


「あなたはついさきほど私を助けたではありませんか」


 不思議そうな眼差しの先でアーリィの瞳はキラキラと輝いていた。妖精君主は重々しくもったいぶった調子で言った。


「本来は、嘆き姫の宮廷で人間に騎士の位を授けられるのは嘆き姫、御方ただ一人だけなのですが、私を助けた功績に報いるためには、姫もお許しになるでしょう」


 なおも疑り深くフェイリルは反論する。


「むしろ、そっちが俺を助けてくれたんじゃないか」


「あなたは、私が規則を曲げてまであなたに守護騎士になってほしいと希望しているのを無視するのですか?」


 半信半疑ながらも淡い期待を胸に尋ねた。


「……本当に希望しているのか?」


「我らが主君、『欠けたる月の鉄鎖宮』の不在の主、嘆きの姫君の名と名誉にかけて誓いましょう」


 フェイリルにとって彼女が口にする名称の重みはまったくわからなかったが、その思いの重みは表情から悟ることができた。それは片手で支えるには過ぎたものだった。

 肩の荷物を下ろすと、両手を揃えてアーリィを支えた。


 アーリィは猛禽類に似た顔が真面目に引き締まり頷くのを見て、満足そうな笑顔を浮かべた。


「嘆き姫の名代たるアーリィ=アーリィアン=グラヴィルの名をもって、あなたを『木の葉舞う秋の森林』の騎士とします」


 アーリィは自分の唇に人差し指をつけると、その指でフェイリルの額にそっと触れた。


「これであなたは私の守護騎士です。正義と慈愛を胸に正しき道を歩み、励みなさい」


「何に対して?」


「すべてにです!」


 ピシャリと言われて顔をしかめるフェイリル。


 とは言え、それは彼にとって嬉しいものだった。たとえ子供の遊びのような叙任式であったとしても。


 フェイリルが立ち上がってアーリィを肩に運び、権利を得たばかりの定位置に座らせた。

 少しばかりの恭しさを込めて促した。


「ロード・アーリィ、出発してもいいかな?」


「よろしくてよ」


「では、いざ行かん」


 フェイリルは静かな足運びで歩き始めた。

 アーリィの小さな手は二度と振り落とされるものかと耳たぶとマントをしっかり握っている。


 明るい球体から放たれる光が通路を照らしているため多少のでこぼこでも足元は危なくないが、通路幅が狭いだけでなく天井が低いので フェイリルは息苦しさを覚えた。


 たびたび光球を眺めていたフェイリルは訊いてみた。


「前から気になってたんだが、何なんだ、この光る玉は?」


「この迷宮で落命した人の魂魄よ」


 フェイリルはギョッとして立ち止まる。いきなり止まったため、耳元でお叱りを受けた。


「いい加減、急に止まるのはやめてくださらない」


「失敬。あまりにも驚いたので。これほどの数の死者がいたのか……」


「正確に言うと、このあたりの『世界回廊』に誤って足を踏み入れて亡くなった生き物の魂をここに招き入れて最期の安らぎを与えているのです」


 フェイリルは歩みを再開した。


「どういうことなんだ?」


 質問の意味がわかったアーリィは最初から説明をすることにした。

 楽に座っていられる位置を見つけて座り心地を確認してから口を開いた。


「『欠けたる月の鉄鎖宮』は元々は嘆き姫が世界回廊に造られた宮殿です。世界回廊には様々な生き物が迷い込むことが往々にしてあるため、それを姫はかわいそうにお思いになり、世界回廊を彼らが生存できる空間世界に造り変えたのです」


 フェイリルは唸った。


「『世界回廊』ってのは何なんだ?」


「世界と世界の間を仕切っている壁のようなもの」


「初めて聞く話だな。ここに来る前、軍学校時代にはさんざんいろんなことを学んできたが、その名称はまったく耳にしたことがない。確認だが、ここは『セルテス・ルーの迷宮』ではないんだな?」


 首をひねるフェイリルを見やり、学のない騎士の成長は君主の勤めとばかりに答えた。


「世界のいたるところに迷い路はあります。そういう危険な場所は良識的な対応として封印されることが多いのですよ」


「ハッハ~、それが時代を経ると史跡や遺跡となるわけか。例を挙げるとセルテス・ルーの迷宮とか、な」


 フェイリルが得意気にそう言うと、アーリィは満足そうに微笑んだ。


「当たりです。悪趣味な用途としては、罪人の放逐先のあまり好まれない候補地などというのもあります」


「なかなか酷な追放刑だな。あるいはフロンティアスピリッツ旺盛な、と言ってもいい」


「でも、そのような用途に使われた世界の穴の多くは潰されて残っていませんわ」


 フェイリルは石を積んだ壁が続く周囲へ軽い警戒一瞥を投げてから質問した。


「潰せるものなのか?」


「穴自体を個人の都合で自由になくすことはできないけれど、その扉を物理的に開かなくすることはできます」


「フム、それなら、扉の前に物をおいたり、壁を作ったりいろんな手はあるな。刑罰に使っていたのに、わざわざ塞ぐなんて、『異世界流し』はさすがに非人道的過ぎたようだな」


「いいえ、違います──」


 アーリィはまぶたを伏せ、悲しそうに首を横に振った。


「──その穴から、たびたび怪しい生き物がたち現れたから、です」


「怪しい生き物? それはつまり、この、俺たちが今いるところから現れたってことか!?」


 フェイリルは意外な事実を発見したように大きな声を出した。

 その今さらな驚きようにアーリィは少し呆れて彼のこめかみのあたりをノックするように二度ほど叩く。


「そうですよ。正確には世界回廊から現れたのですけど」


「わ、わかった。警戒は厳にする」


 狼狽気味の男の耳元で怒鳴り声が響く。


「しっかりなさい! あなたは嘆き姫の宮廷が三十六君主の一人アーリィ=アーリィアン=グラヴィルの騎士となったのですよ」


 大音声がたまらなくなったフェイリルは耳を塞ぐ仕種をした。


「ちょっと待ってくれ。実はさっきから嬉しさのなかに少しだけどーしても引っ掛かっていたんだが、俺はロード・アーリィの臣下になったのか?」


 何が不満なの、と言いたげなアーリィは頷いた。

 フェイリルの口から乾いた笑い声が洩れる。


「ハハハ……。わざわざ俺を臣下に抱えてどうするつもりだ? 俺一人いたからって世界制覇ができるわけじゃないぞ」


「そんなとんでもないことは望んでいません。ただ、あなたには一つだけお願いしたいことがあります」


 思いやりの陰には得てして恩返しと言う名の期待が潜んでいる。思った通りだ、とフェイリルは尊大な態度で言った。


「いいだろう。男が相手なら頂き物ごと突っ返すところだが、我が麗しの君に命令されることはまさに欣快の至り。言ってくれ」


 これまでに出会ったことのないほどストレートな反応にアーリィは面喰らったが、居住まいを正した。

 そして、絞るような声で言った。


「『嘆き姫』を救ってください」


 フェイリルが顔を横に向けると真剣な眼差しの小さな瞳が見えた。


「……生きてるのか?」


 そして、ブリグィッドに教えてもらった童話を思い返し、言葉を続けた。


「最近、この迷宮の昔話を聞いたよ。その話は『昔々……』で始まっていたし、嘆き姫は殺されて埋葬された、とも言っていた」


「嘆き姫は《憤激の支配者》に殺されたのです」


「その名はさっきも口にしてたな」


 妖精君主は口惜しそうに押し殺した声を発した。


「《憤激の支配者》は、ここがかつて『月照(つきて)花咲(はなさか)(みや)』と呼ばれていたころに現れて嘆き姫をその手にかけ、今でも折に触れてはやって来て人間や嘆き姫の廷臣を狩っていくのです。廷臣だった者の幾人かは恐怖に耐えきれず、彼奴へ臣従していきました」


「ヘッドレス・ライダーを裏切り者と呼んだのは、そういうことか」


「彼も昔は三十六君主の一人で、『花咲ける春の湖水』の騎士でもある美丈夫でした。それがあのような姿に成り果てて……」


 アーリィは続けられずに口ごもり、言葉を切った。


 フェイリルの頭の中では疑問の木がにょきにょきと生えて大きく生い茂る。彼女は『嘆き姫を救ってほしい』と懇願し、かつ『嘆き姫は殺された』とも語った。


 しかし、殺された者を救うことはできない。


 その疑問をそのまま口にした。


「残念ながら、俺は殺された人を甦らせる術を知らない。しかも大昔の、な」


「その点は大丈夫です」


 アーリィは澄ましてこう答えた。


「人は人でも、あの方は『魔人』の一人に数えられる方です。肉体の死は本当の死ではありませんわ」


 フェイリルは言葉に詰まり、妖精君主をまじまじと見つめた。

 『魔人』という言葉は妖しい響きを伴い、人なのか魔物なのかわからない曖昧模糊とした感覚がフェイリルを駆け巡った。


 そのとき、行く手の曲がり角から声が聞こえてきた。ミェルニルとミスティオルの声だ。

 荷物のぶつかる音が響くのは小走りのためで、鋭いフェイリルの耳にはミェルニルがお嬢様騎士を追い立てているのがよくわかった。


 アーリィは逞しい肩の上で立ち上がり、ゆっくりと翅を伸ばした。


「さて、私はそろそろ行きます。私もペットは飼っていますが、飼われる趣味はありませんから」


「そうか。ロード・アーリィ、お願い事についてはもっと情報がほしい。次の機会にはゆっくり話そう」


「フフッ、わかりました。それでは、その献身的な態度に相応の報いを与えましょう。すぐそこの三叉路を左に曲がってしばらく歩くと、きっと目的地への目印に行き当たりますよ。ごきげんよう、サー・フェイリル」


「ああ、ごきげんよう」


 似合わないセリフをぎこちなく話す男に笑いかけて妖精の女君主は姿を消した。


 すると入れ替わるように息を切らせたミスティオルとそれを鬼の形相で追い立てるミェルニルが姿を見せた。

 角を曲がってフェイリルを目にした途端にミスティオルは床に崩れ落ち、鎖帷子がじゃらじゃらとうるさい音をたてた。

 安堵の表情でミェルニルが走り寄ってくる。


「フェイリル!」


 少し涙ぐんでいるようにも見えた。大袈裟だなとフェイリルは思ったが、おくびにも出さずに謝った。


「心配させたようだな。すまなかった」


「大して心配なんかしてないわよ。でも、無事でよかった。どうやって逃げてきたの?」


 目尻をふきながらも強がりを口にする様子は好ましかったが、安心させるつもりで軽い口調で答えた。


「逃げなきゃならんほどではなかった」


「まさか倒したの?」


 ミェルニルが驚愕の様子で問い返すので、確かに危ない場面があったことを思い出して、控えめに肯定した。


「いちおうは、な」


「信じられない」


「そんなことより、そっちはどうだったんだ」


 彼女は荷物をおろして座り込んだミスティオルを示した。


「あの子なりに走ったらしいのだけど、途中で余計なことをして黒小人の大群に襲われたのよ」


 話によると、ミスティオルがよたよたとあとを追いかけていると、怪しい扉があって、それを開けたら背後の壁が崩れて中から敵が現れた、ということだった。

 だが、ミェルニルの救援が間に合って、二人で蹴散らしてきたらしい。


 急いでいる最中に他事が気になるとは、なかなかのマイペースぶりだ。


 悪運が強いなとフェイリルはミスティオルが落とした荷物を担ぎ上げる。


「さあ、もうひと踏ん張りだ。そこの三叉路のまだいってない道を行けば、ディナス・カルスツールへの道しるべがあるはずだ」


「なんでそんなことがわかるのよ?」


「ちょっと古い地図で調べたのさ」


 ちなみにその地図は生きていて極めて小さい。


 心配して気持ちの高ぶるミェルニルには不満が残るようだが、どちらにしても三叉路のまだ行ってない最後の一本を選ぶだけの話なので、異存はなかった。

 撃退したとはいえ、黒小人の群れがいつなんどきまた襲撃してくるかわからない。


 二人は渋るミスティオルをなだめすかして先を急いだ。


 その先には分かれ道はなく、十五分も歩くと両側の凹凸した壁が平らに仕上げられたものに変化し、それまでの造りの荒い『迷いの小路』とは異なるところに出た。


 その広い十字路には、そそり立つ黒い石柱が囲むように立ち並び、むしろホールといってよいほどの大きさを有していた。また、魂の光と教えられた光球が無数に浮遊するため、そこは優しい光に満ちて極めて明るい空間だった。

 すべてのものが色鮮やかに浮かび上がるなかで中央の床には光を浴びてキラキラと反射する大きな水盤があり、水面の中心部が底から湧出する水によって波打っていた。


 ミェルニルが歓声をあげて水盤に近寄り、冷たい水に手を差し入れた。


「『アマサ・ギーラの水盤』よ。砦はもうすぐだ」


 ミスティオルがやれやれと床石に座り込んだ。

 すかさずフェイリルは釘を刺す。


「休憩はまだ早い。ミェルニル、砦まであとどれぐらいだ?」


「ゆっくり歩いて一時間ぐらいかな」


「よし──」


 フェイリルは意地の悪い微笑みを浮かべてミスティオルを見下ろす。


「──ミスティオル、あと少しだ。ダークロット隊長たちの命はおまえの双肩にかかっている」


 ムッとしたけれどもミスティオルは文句を言わずに立ち上がると、フェイリルから自分の荷物を奪い取り、肩に担いだ。

 ミェルニルの先導で三人は十字路を右に折れ、無理のないペースでゆっくりと進んだ。


 そして、邪魔が入ることもなく、ついに三人の歩哨が立つ部屋へとたどり着くことができた。


 武装した三人は見たことのないフェイリルとミスティオルに対して警戒体制を敷いたが、ミェルニルと話をして待機状態に戻った。


 第五階層まで潜る予定にもかかわらず少人数で、しかも女性二人に男性一人という微妙な人員構成であることに歩哨たちは不審が払拭できない。

 しかし、三人を通したあとは、すぐに気持ちを切り換えて任務に戻っていった。


 ミェルニルの背中を眺めて、二人は部屋の奥の薄暗い通路に進んだ。

 すると、二十メートルと行かないうちに右手の壁にみすぼらしい扉が見えてきた。


 扉の両脇にも二名ずつ、計四名が立番をしており、砦が近いことを期待させた。

 なかでも矛を持った一人は油断ならない気配を漂わせて、壁に持たれたままフェイリルの一挙手一投足を観察し続け、フェイリルを落ち着かない気分にさせた。


 先ほどと同様にミェルニルが話をつけて一行は、そのみすぼらしい扉を通ることが許されたのであった。




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