第1章 7話 夏がやって来た。婚約者もやって来た
修正など
「暑い」
というか熱い。日本と違って湿気がないから日陰や室内はまだ涼しいけど、刺すような陽射しがきつい。
花々の間をでっかくて黒々としたハエが飛び交っている。
もう真夏なのだ、仕方ない。
散歩しようと庭に出てみたけど、こりゃかなわんな。戻ろう。
屋敷に入ると父に呼び出された。何だ何だ。
「エブリン、今日はお客様が来るからおめかししてきなさい」
お客さん?誰だろ。
ドレスに身を包んで、応接間へ向かった。
部屋へ入って、一瞬ながら固まってしまった。
「婚約者候補のハーヴィー君だよ。ご挨拶なさい」
コリン家の特徴である、ピンクゴールドの髪と金色の瞳。ジトっとした三白眼に、不機嫌そうな表情。
正真正銘、『迷宮スフィア』のメインヒーローである公爵家の嫡男、ハーヴィー・コリンだった。
付きまとってくる女子らを嫌い、へこへこしてくる男子らを疎む。人を寄せつけない孤高の貴公子。ヒロインのことも初めは避けていたが、下心が無いことを知って少し警戒を解く。やがて彼女の優しさ、温かさに触れ、徐々に心惹かれてゆく。
一度愛した人をとことん一途に愛し通し、二人の仲を邪魔する者には容赦せず、しまいには相手を監禁しようとしだすヤンデレさんだ。
よくあるキャラ設定だけど、ピンク髪でクールキャラってのは珍しい。
なお、エブリンはハーヴィーを好いていたが、ハーヴィーはエブリンを嫌っていた。
「では、仲良くするのだよ、二人とも」
二人きりにされてしまった。
彼は兄と違ってこっちを気遣うような素振りはない。
黙々と本を読んでいる。読書中に話しかけるのも無粋かも知れないが、このまま何も話さない訳にもいかないだろう。
「何を読んでらっしゃるんですか?」
きいてみる。
「……」
無視された。
「ハーヴィー様?」
「話すことなんて何も無いから」
バッサリ切られた。
「そんなことをおっしゃらずに」
「うるさい」
やーん、ひどい。
「貴方のお好きな話題で構いませんから」
「だまれ」
ねえ、いくらなんでも態度悪過ぎない??あんまりじゃないか。
長い沈黙。
時計の針の音だけが響いている。
座りっぱなしで腰も痛くなってきた。
もうやだ父様たしゅけて。
「エブリン、ハーヴィー、仲良くなれたかな?」
父様が様子を見に来た。救世主だ。
「はい、楽しくお話しさせていただいています」
うわ、貴様よくもしゃあしゃあと……。
「父様。彼にお屋敷の中を案内して差し上げてもよろしいでしょうか」
状況を打開せよ。
「ああ、構わないよ」
やったね。図書室行こっと。
ハーヴィーにめっちゃ嫌な顔されてるとか知らない。
不服そうなお子様を連れて図書室へ向う。
「どこへ行くつもりだ」
「ん?図書室です。貴方が本を読んでいるのを見て、私も読みたくなったので。本、お好きなんでしょう?丁度いいじゃないですか」
嫌味を込めて言った。
「……そうか」
苦虫を噛み潰したような顔をされる。
「貴方はどんな本がお好きなんですか?」
「…………。語学」
「なるほど。語学の本でおすすめのものはありますか?」
「おすすめ。……特にない」
やっぱり、本が好きな訳ではなさそうだ。本好きならおすすめの本の十冊や百冊くらいあるはずだもの。
図書室に着き、中へ入る。
「お好きな所を見て下さいね。読みたい本が見つからない時はあそこにいる係の人にきいて下さい」
と言って放置して絵本コーナーへ。そこには一流の絵描きによる絵本がいくつかあった。どれも、絵は綺麗だし言葉は易しいけれど、ストーリー的には幾分堅苦しい。神話をモチーフにしたものがあったので、その場にあったちっちゃな椅子に座って読み始めた。
───
むかしひとびとは、かみさまをそんけいし、ただしく生きていました。
でもある日、ひとびとはかみさまのへのおんをわすれ、あらそいだしました。
これをみたかみさまは、おこりました。
そして、たいようをのみこんでしまいました。
すると、せかいはまっくらになってしまいました。
ひとびとはこまりました。
「あらそいをやめて、かみをうやまいなさい。さもなければ、たいようはもどりません。」
かみさまはいいました。
「わかりました。もう、あらそいません。つつましく生きて、かみさまにおつかえします。」
ひとびとは、ひっしにあやまってやくそくしたので、かみさまはたいようをはきだし、せかいはあかるさをとりもどしました。
それからひとびとは、きちんとかみさまのいうことをきいて、しあわせにくらしましたとさ。
まだ学校も行っていないので難しい文は読めない。
時期は7月上旬くらいです。
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