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4.

攻略対象2人目は孤高の魔法使い。

その名もユアン・メイスフィールド。

とても無口で周りに心を開かず、無関心。

幼少期に魔法の才能を開花させ、早くから稀代の魔法使いとして国の魔法機関で活躍する。

黒髪に紫の瞳が、物憂げな雰囲気と相まって、排他的でありながら色気を感じさせるという美男子。

で、ここからが“なんだけど”設定。

実はこの色男、超恋愛初心者。

幼少時代に幼馴染を目の前で失った事がトラウマになって、他人と関わることを避けてきた彼は、色恋にまったく関わってこなかった。

クールなイケメンが、稀代の魔法使いが、誰とも恋愛したことがないなんて……。

私が恋を教えてあげるわ!!

と、女子を多く虜にした事は間違いない。

何を隠そう私もその1人……てどうでもいいわね。

ゲームのユアンと幼馴染のユアン。

記憶が戻った時に思い出した通り、名前や髪の色、瞳の色なんかも同じなのよね。

ただねぇ……なんせ今ユアンは5歳なわけで。

幼馴染のユアンを紹介するならば、小心者で泣き虫で優しい美少年て感じかしら。

男の色気なんてあるはずもない。

てか、5歳児にあったら怖い。

でももし、ユアンがゲームのユアンと一緒だとすると、トラウマになるはずの幼馴染って私のことよね。

ユアンに私以外の幼馴染と呼べる存在はいないから。

名前も特徴も語られず、性別すらも定かではないモブキャラなわけだけど。

モブキャラと言ってもいいのかしら?

姿かたちあるモブキャラに失礼だと怒られそう……。

ともかく、ここまでの事を総合すると、確実ではないけれどここはゲームの世界の可能性が高い。

ユアンだけでなく、アルバート王子も実在するし、合致点も多数あるようだし。

私はゲームの世界に転生してしまったらしい。

しかし、大好きだったゲームの世界に転生したというのに。

何故にモブキャラ……。

思わずベッドに仰向けに倒れる。

だけれど、そうだとして……あれあれ?


「私………………めっちゃ生きてるんですけど」


幼馴染は死んじゃうはず。

これから死ぬの?

いや、待てよ、そう言えば今回私は死にかけたわけで。

しかもユアンの目の前で。

これって、つまり……


「もしや、本来ここで死ぬはずだった?」


そうか。

あの時。

あの過去の《私》を思い出した時、本来そのまま死ぬはずだったところ、死んでたまるかと強い思いによってこの世に戻ってきてしまったのだ。

自分がモブキャラに転生したことも、モブキャラな上に死んじゃう運命なことも、どっちも私の怒りに火をつけた。

多分、その怒りが現世に戻る力になったと思われる。


「……………」


しばし見慣れた天井を眺めながら、思考停止。

え、これって大丈夫?

私はしがないモブだけど、私の死がユアンのキャラを構成する大事な要素になってるのよね?

え、これってまずいんじゃないの?

ユアンルートに影響でちゃうんじゃないの?


「まぁ、でもねぇ……」


だからって死ぬの嫌だし。

せっかく転生したってのに7年で人生終了なんて、絶対にごめんだ。

私としては生きてる自分にグッジョブだ。


「うん……大丈夫って事にしておこう!」


幼馴染を失った心の傷なんて、そんなもの無くても美少年がイケメンに成長する事は変わらないじゃない。

天使と評されるあのユアンだもの、将来は絶対イケメンだわ!

私はガバッと起き上がり拳を握る。

魔術の才能だって、才能ってもともと備わっているものだもの。

基本設定の美男子、魔術師(魔法使い)はどっちも問題無い。

恋愛初心者については………無理かしら。

ゲームのスチルのように成長するとなると……。

あんな美男子、周りの女子がほっとくはずがない。

よし……そこは諦めて貰おう。

どんな系統の美男子に育つかは自然に任せる。

どんな系統でもイケメンはイケメン。

この世界にも主人公がいるとして、彼女だってイケメンだったら文句はないはずだ。

私が生きていても大丈夫。

死んでユアンを悲しませる必要なんてない。

きっとユアンは素敵なイケメンになるもの。

私は腕を組みうんうんと1人納得する。

後は……


「モブの私は、静かに目立たずひっそりと生きていきましょう」


書き出していた紙の最後に、【ひっそりと】と大きく書きペンを置いた。

残りの攻略対象については……まぁ、いっか。

王族や幼馴染なら似ているか検証できるけど、普通の貴族の子供なんて調べられないし。

今後私が関わることもないだろうしね。

現状の把握も、今後の方針も決まって清々しい気待ちだ。


「よし!頭を使ったからお茶にしましょ……あら?」


イザベラを呼ぼうと、ベッド横の呼び鈴に手を伸ばしたタイミングでドアがノックされた。

さてはエスパーイザベラがお茶を持ってきてくれたのかと思ったが、入ってきたのはお父様だった。

目覚めたあの日から、お仕事に行かれる前や帰ってきた後など、暇を見つけては顔を見に来てくださる。


「お帰りなさいませ、お父様」


「ただいま。随分良くなってきたようだね」


ベッドサイドへやって来たお父様は、私の頭を撫でてくれる。

筆記用具を台ごと体の横に置き、ニコニコと笑顔のお父様に向き直る。


「はい。もう痛みもあまりありませんの」


「そうか。それは良かったね」


「お医者様にもベッドの中なら、読み書きもしていいと許可いただきました」


「ああ、部屋に来る前にローレンスから聞いたよ。リズが読書や書き物をするなんて……やっぱり目が覚めてからのリズは、少し変わったね」


お父様にも言われるとは……。

確かに今までの私なら動けるようになった途端、家の中を駆け回っていた事だろう。

ちなみにローレンスとは、我が家を取り仕切る執事だ。

長くマンデルソン家に仕えてくれる優秀な執事で、怒らせるとイザベラよりも恐ろしい。

私はゴホンと咳払いをしてニコっと微笑んだ。


「そうでしょうか?恐ろしい体験をして大人になったのかもしれませんわ」


お父様はうんうんと頷いている。


「そうだね……あんな恐ろしい目に合ったんだものね」


どうやら納得してくれたらしい。

というか、この流れはチャンスかも。

ずっとあの時のことを聞いてみたかったのだ。

だいぶ回復した今なら教えてくれるかもしれない。


「お父様。怪我もかなり良くなってきましたし、あの時、私が怪我をした時に何があったのか話して頂けませんか?」


「そうだね……」


お父様は少し考える素振りをした後、ローレンスを呼ぶ。

「失礼致します」と入ってきたローレンスにお茶を二人分持ってくるように伝えると、


「お茶を飲みながら話そうか」


と、私に言った。

やった!ベッドから出られるようになるまで駄目と言われるかと思った。

少ししてローレンスがお茶を用意し、私にはベッドに銀のお盆ごと置いてくれる。

お父様がお茶を手に取ったので、私も一口お茶を飲む。

んー。さすがローレンス。

とても香りが良く美味しい。

私は我が家とメイスフィールド家のお茶しか飲んだことがないけど、過去の《私》が飲んだことがない美味しいお茶ばかりだ。

これが当たり前っていう私は贅沢者だな、と考えながらカップを戻す。


「さて」


同じくソーサーにカップを置き、組んだ足の上に手を置いたお父様がこちらを見る。

私も何となく背を伸ばしてお父様を見た。


「まず、何故あの森に君とユアンが行ったのか。それはユアンから聞いたよ。とても危険で愚かな行いだったよね?」


いつものにこにこ顔を引っ込め、真面目な顔を少し傾げる。


「はい……とても、反省しています」


「小さな君が好奇心旺盛なのも理解できる。しかし考えて行動することも、とても大切な事だよ」


「はい。本当に……ごめんなさい」


お父様の仰る通りで……本来であればあんな目に合うことはなかった。

後悔しても遅いけど、自分の行いを恥ずかしいと思った。

恥ずかしいやら情けないやら、俯いた私はふと考える。

あれ?でも今回の事ってゲームの設定の内だったわけで……私も被害者なんじゃ……いや……でも私が行こうと思ったのも確かで……。

モヤッとしたまま項垂れる私の肩に、ポンと手を置き、お父様は続ける。


「危ない行動ではあったけど、今回ほど危険な目に合うとは誰も想像出来なかったけどね」


今回ほど……ということは。

私は俯いた顔を上げ、お父様に視線を戻す。


「リズ達を襲ってきたのはね……騎士団に追われていた魔術師だったんだ」


「上位魔術師……」


ボソッと呟いた私に、お父様は頷く。


「そう、よく分かったね。上位魔術師だった。悪い事をして逃げていたんだ。そこでたまたま出くわしたのが、君達」


確かに、あの時出会った魔術師はボロボロのローブを着ていた。

子供相手にだから「悪い事をして」と言っているけど、魔術師が、しかも上位魔術師が騎士団に追われるって相当やばいんじゃなかろうか。


「魔術師は逃げる為に、君達を人質にしようと考えた。捕まえようとしたところ、私の天使に抵抗され魔術を使った、と」


あの衝撃はやはり魔術だったのか。

と、お父様の額に青筋が浮いているのが見えた。


「許せないよね。私のリズに魔術で怪我をさせるなんて。この手に届くところに居たならば、ずーーーーーっと折檻するのにね?」


にこっと笑うお父様が怖い!!

この折檻ておしりペンペンとかのレベルじゃないやつですよね!?

拷問ともいうやつですよね!?

私はハハハと乾いた笑いで流して、先を促す。


「ええっと、魔術を受けた後はどうなったんですか?私は気を失ってしまって……気が付いたらベッドだったのです」


「おおっと。そうだね。続きを話そう」


青筋を引っ込めたお父様は、お茶を手に取り、飲まずに続きを話し始めた。


「実はここまではユアンから聞いた話なんだが……この先は追いかけていた騎士団の話なんだ。魔術師を追いかけていた騎士団は巨大な黒い竜巻を見つけ、すぐその場へ駆けつけた。そこで見たのは──」


黒い竜巻……確かユアンを取り囲んでいたやつだ。


「魔術で黒い竜巻を起こすユアンと、周りに倒れているリズと魔術師だった」


「え」


「騎士団は初め、ユアンの魔術がこの状況を作ったと思ったそうだ」


以下、お父様の話を要約するとこうだ。

騎士団長は現状を把握しようとした。

ユアンが魔術を暴走させ2人を傷つけたとすれば、捕まえなくてはいけない。

しかしこんな幼い子が……?と思っていると、突然黒い渦が消え、男の子が倒れている人物に駆け出した。

そして泣きながら私を必死に呼ぶユアンを見て、危険が無いことを知る。

そこで団長が合図をし、魔術師を捕縛、ユアンと私が保護され、事の顛末をユアンから聞いた、という事らしい。

ただ私が魔術で攻撃され血だらけになったことがショックだったようで、ユアンが話せたのは私が怪我をするまでの部分だった。

その後のことは覚えておらず、無意識に魔術が発動したらしい。


「なるほど……」


ここでユアンの魔術の才能が発見される、というシナリオだったのか。

しっかし5歳児にとんだショックを与えてしまったものだ。

ユアンには謝っても謝り足りないぐらいだわ。

頷いた私に、ここまでは理解出来ていると思ったお父様が続ける。


「ユアンには魔術の才能があったんだね。今回の件が報告されて、6歳になったら魔術学園に入学する事が決まった」


「まぁ!それは素晴らしいですね」


驚かないのもおかしいと思い、私は胸の前で手を合わせ驚いたふりをする。

魔術学園で首席であったことはゲームでも語られていたから、知っていたとしても。

魔術学園に入学できるのはとても誉れな事なのだ。


「うん、素晴らしい事だね。逃げていた魔術師も捕まったし」


「そうですか。良かったですわ」


「それから…………」


そこでお父様は1度口を噤む。


「お父様?」


「………」


何かを言いあぐねているようで、お父様は手元のカップに目を落とす。


「………お母様はね、しばらく言わなくてもいいと言っていたんだ。でも………」


グイっとカップのお茶を飲み、テーブルへ戻す。

ふぅと一息ついたお父様は辛そうに顔を歪める。


「お父様、どうなさったの?」


「リズ。ショックだと思うが、真実を話すよ」


なになに!?ちょっと怖いんですけど!!

ビビって腰の引ける私の両肩に手を置き、お父様はグッと眉間にシワを寄せて言った。


「背中の傷が深かったんだ………このまま痕が残ってしまうらしい」


「……………………はい?」


身構えていた私は、間抜けな顔でお父様を見つめる。

背中に傷痕が残る?

それがどうしたと言うのだ。

本当は死んでしまうはずだった私が、傷痕が残ったって、生きてるだけで万々歳じゃなかろうか。

沢山??が浮いている私をどう誤解したのか。

お父様は私をそっと抱きしめる。


「とてもショックだよね……可哀想なリズ」


「ええっと……」


「例え君がお嫁に行けなくても、ずっとお父様が守るからね!」


ガバッと拳を握りしめ、お父様は私に「任せろ」と言わんばかりの視線をよこす。

お茶が溢れちゃうよ、と思っていた私は、その言葉でやっとお父様が何を言いたいか理解した。

この世界、特に貴族の女性にとって傷痕が残るというのは、嫁の貰い手がなくなる、という事だ。

貴族の女性にとっては、条件の良い結婚をする事が1番大事だったりする。

その為に己を磨き、マナーやダンスのレッスンに力を入れているのだから。

その競争の中で、体に傷痕があるというのはかなり絶望的だ。

何故なら、結婚した後は子供を沢山授からねばならない。

体に傷があるということは、子供が産めない体かもしれない、と思われてしまう。

それに見栄えも悪いだろうしね。

なかなかシビアな世界なのだ。

……………。

ただね…何回も言うけど、私は本当は死んじゃうハズだったわけで。

生きてるだけでありがたい感じなんですよ。

今世でも結婚出来ないのは残念といえば、もちろん残念なんだけど。

ああ、でも私が結婚できないことはマンデルソン家には迷惑な事よね。


「そうですか……家の役に立てず、申し訳ありません」


「リズ……」


マンデルソン家は裕福な貴族ではあるけれど、より力をつけるには結婚は有意義だ。

それに嫁に行けない傷物の娘がいるなんて、やはり世間体も良くない。

そう思い謝った私をお父様はうっすら涙を浮かべ見つめる。

あれ……なんかプルプルしてるんですけど。

お父様は今度こそ私を力いっぱい抱きしめた。


「いったっっ!!」


ちょっ、まだ怪我完治はしてないんですけど!!

お父様の背中をバンバン叩くが、まったく腕が緩まない。

そして──。


「リズが謝る事なんてないんだよ!!お父様が、お父様がずーーーっと守るからね!!」


「お父様!!痛い痛い痛いっっ!!」


お父様の雄叫びと私の悲鳴に、ローレンスが素早く駆けつけ、「お嬢様が死んでしまいます」とお父様を引き剥がしてくれる。

ああ……痛かった。

でも、とてもありがたい事だと思う。

腕を擦りながら、ローレンスに小言を言われているお父様を見る。

傷物になった娘なのに、変わらず愛情をくれる。

貴族の中でそれが当たり前だとは、お気楽な私も思っていないから。


「お父様」


振り返ったお父様に笑顔で伝える。


「大好きです、おとうさ……いだだだ!!」


この後、再び私を抱きしめ引き剥がされたお父様は、ローレンスによって強制退室となった事は、言うまでもない。

まだ序章で…すみません╭( ๐_๐)╮

次で『始まりの始まり』はおしまいです。

…の、予定です。

誤字脱字をご指摘頂きありがとうございます!

少なくなるよう精進します(;▽;)

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