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3.

結構改変しました。

砂糖3倍増しであまあまになっちゃった…

試作品を試食して改善点を相談したり改良したりして、店を出た頃には日没が近い時間になっていた。

見送りに出てくれたミゲルさんに挨拶をして店を後にする。


「ふあー!疲れたぁ……けど、美味しかったなぁ♪」

「たまに思いますけど、リズベス様の場合仕事が趣味と実益を兼ねてますよね」


美味しさの余韻に浸っているとファーガスに皮肉を言われる。

でも美味しいスイーツを堪能した後なので、幸せな私はそれを受け流してやった。


「そうよ?好きこそ物の上手なれってね。やっぱり仕事が好きって大切よね」

「そーですか」

「相変わらず可愛くない返事。まぁいいわ。お土産ももらったし、暗くなる前に帰りましょう」


通りには街灯が灯り始めている。

完全に日が落ちる前、私たちの他にも家路を急ぐ人々やこれから街へ繰り出そうという人達で賑わっていた。

ちなみに街を照らす街灯、これは前世の様に電気で点いているものではない。

これも魔術で灯っているのだ。

仕組みは前世の私なら「ありきたり!」と言いそうだが、魔術式が組み込まれた魔道具が使われている。

魔術は生活の中でも多様に活用されているのだ。そしてそれを支えているのが魔術師という存在。


魔術師……。

その言葉で誰よりもすごい魔術師の彼を思い出してしまう。


『俺が好きなのは、昔からリズだけだ』


甘い台詞とともに昨夜の熱が蘇って頬に熱が集まる。


『リズ以外いらない』

『リズは綺麗になったね』


あわわ……!

一度思い出してしまうと次々に湧き上がる甘すぎるユアンの言葉。

『俺と結婚してくれる?』


「はわーっ!」


どんどん再生される甘い言葉を振り切るように思わず奇声を上げてしまった。

ファーガスが何事かと正面に回り込んでくる。


「ちょっと。突然どうしたんです?」


何があったのか確認するファーガスだけでなく、通りすがりの人達もこちらをチラチラ見ては通り過ぎていく。

たぶん真っ赤であろう顔で曖昧に笑いながら両頬を押さえた。


「なな、何でもない。帰りましょう。一刻も早く帰りましょう!」

「はぁ」


そう言ってさっきより速足で歩き始めた。

駄目だ。このままでは街中で突然叫ぶ怪しい女になってしまう。

だいたいユアンがが悪いのだ。

あんなにイケメン過ぎるのが悪い!あんなに甘く口説くのが悪い!

自慢じゃないがリズベスとして生まれてから此方、男性から口説かれるどころか恋愛さえしていないのだ。

あんなイケメンからの甘すぎる口説文句など、カラカラに乾いた喉に流し込む蜂蜜ぐらい強烈だ。

ゲームをしてた前世とは比べ物にならないぐらい現実で見るユアンは格好良い。

顔立ちはもちろん、あの黒髪とアメジストの瞳が綺麗で……そうそう、ちょうど目の前から歩いてくあの人みたいな……んん!?


「リズ」

「ユ、ユアン!?」


想像していたばかりのその人が目の前から現れ驚きに声が裏返ってしまう。

街灯に照らされたユアンの艶やかな黒髪が揺れ、細められた紫の瞳と目が合った。

あまりのタイミングにあわあわしていると、ユアンがすぐ目の前までやってくる。


「馬車から見かけてもしやと思って。やっぱりリズだった」

「ご、ごきげんよう。こんなところで会うなんて驚いたわ」

「偶然でもリズに会えるなんて嬉しいな。今日のリズは昨日とまた違う雰囲気だね」

「昨日は舞踏会仕様で……」


メリッサのおかげで普段の三割増しぐらい綺麗になってた昨日とは違い、今日は完全に地味を極めた仕事仕様。

どう見ても貴族令嬢の格好ではない。

さっきまで気にもならなかったのに、ユアンに言われた途端、自分の服装が気になってしまう。

そんな私にユアンがスッと手を伸ばしてきた。

ポニーテールにまとめた髪束をスルリと撫でこちらに微笑む。


「昔のリズみたいだ。昨日は綺麗で驚いたけど、今日は可愛くて驚いてる」

「かわっ……!?」


ただでさえ熱を持っていた顔がカッと熱くなる。たぶん茹でダコのようになっている事だろう。

バタバタと意味もなく手を動かしながら視線を泳がせる。


「か、か、可愛いわけないじゃない!」

「可愛いよ。昔からリズがそうやって一つに髪を結んでるの可愛いくて好きだった」

「しゅきって、なな何言って……」


あ。噛んだ。噛むしどもるし、私の語彙力崩壊中。


「もちろんリズはどんな髪型をしていても可愛いんだけど」


うわぁーん!

誰かーー!この美的感覚のおかしい男の口を塞いでくださいぃ!

人目がない場所であったなら転がりながら悶絶しそうな状態で、それでも気力をふり絞って立っている私。

ちょっとゲームの開発者の人!どこが無口なの!?物憂げな雰囲気はどこいった!?

めちゃくちゃ甘い笑顔でめちゃくちゃ甘い言葉を量産してますけど!?

これ以上甘い台詞を言われたら腰が抜けてしまいそうだ。これは物理的に口を塞ぐしかないのでは?

そんな物騒な考えに至り口を覆ってやろうと手をワキワキ動かしていたら、ユアンが周りを見渡して話が替わった。


「これから帰るところ?馬車は?」


どうやらうちの馬車が近くにないことを疑問に思ったらしい。

顔の熱は引かないままだが、甘々攻撃が逸れたことでホッと胸を撫で下ろす。


「えっと、今日は馬車を使っていないの」

「馬車を使ってない?」

「ええ。近くだから護衛と一緒に歩きで帰るところよ」


そう伝えればユアンは私の背後に目をやり、ファーガスを確認したようだった。

「なるほど」と頷くとこちらに向き直る。


「送るよ」


真顔で言うユアンに私は待ったをかける。


「何言ってるの。ユアンだって出先でしょう?すぐ近くだから大丈夫よ。ファーガスもいる事だし」


そう言った途端、ユアンの眉毛がピクリと動く。

だってそんなに遠くないんだもの。

ユアンだって知っているはずだ。


「もう暗くなるし、リズに話したい事もあったから。それに……」


そこで一度言葉を切ったユアンの顔が不意に耳元に近づく。


「例え護衛でも、リズが他の男と2人で歩いていくのは嫌だ」

「!?」


甘い台詞攻撃終わってなかったぁぁ!

ぴゃっと飛び上がった私の近距離で「ごめんね」と小首を傾げるユアン。


「嫉妬深くて」

「ひぃぃ……もう勘弁してクダサイ」

「やあ、マンデルソン伯爵令嬢。こんな所でお会いするとは奇遇ですね」


ギブアップ寸前の私は、いつの間にか隣に馬車が止まっていて、その窓からこちらを見ている人物がいることに気が付かなかった。

声を掛けられて初めてそちらを見る。

そこには簡素な馬車に不似合いな、爽やかイケメン王子の仮面を付け、完璧な王子スマイルを浮かべたアルバート殿下のお姿があった。

綺麗な金髪から覗くおでこに青筋が浮かんでいることに目を瞑れば、だけど。

なんでアルバート殿下まで……。

目が回りそうな私は慌てて腰を折り挨拶を述べる。


「アルバート王太子殿下にご挨拶申し上げ……」

「ああ、畏まらなくて結構。お忍びなものでね。周りに気づかれたら大変だ」


私の挨拶を途中で止めた殿下は、笑顔のままユアンに視線を送る。

一見すると笑顔だが、その青い目は完全に座っている。


「ユアン。突然馬車を止めて飛び出して行くの止めてくれるかな?お忍びの公務だって分かってるよね?あんな中央通りのど真ん中で馬車が止まって人が飛び出していったらさ、皆さんこちらを見てください!って大声で叫んでるのと変わらないよね。全然忍んでないよね。しかもこんな往来でイチャイチャと。どうなってるのよ、お前の倫理観」

「アルバートうるさい」


笑顔のまま怒涛の嫌味が溢れ、ぽかんとする私とは対照的に一蹴するユアン。

私はアルバート殿下の額に青筋がピシッと増えるのを見た。


「仕事中に女のケツ追いかける男ってどうなの?俺ぐらいの良い男だと追いかけられる事しかないから理解出来ないわ。リズベス嬢だって引いてるんじゃないの?ねぇ?」


「……え!?」


状況についていけず、惚けていた私は突然向いた矛先に反応が遅れる。

こっちに振るの!?私関係ないのでは!?

困惑しながら殿下を見れば、明らかに怒気を孕んだ笑顔と目が合う。

ちょっと私には分かりません、とは言えない雰囲気……。


「し、仕事を放り出すのはいけませんね」


へらっと笑って答えればうんうんと頷かれる。


「そうだよね。リズベス嬢もそう思うよね。仕事を放り出す男なんてクソくらえだよね」


そこまでは言ってない。

私の話を誇張する殿下に、腕を組んだユアンが苛立ったように口を開いた。

こちらも完全に不機嫌オーラが溢れている。


「仕事中じゃない。公務は終わっただろう」

「帰城までが公務なんですー。帰還中はまだ仕事中ですー」

「じゃあ、さっさと帰れよ」

「お前も帰るんだよ!」

「リズを送っていくから無理」

「馬鹿かお前。公務とそいつとどっちが重要だと……あー。いいわ。答え分かるから答えなくていい」

顔の前で手を振る殿下にユアンはきっぱりと答える。

「リズの方が重要に決まってる」

「答えなくていいって言っただろうが!分かってたわ!」

「なら聞くな。早く帰れ」


……私が帰ってもいいかしら?

言い争う2人に声を掛ける事も出来ず、そっと空を仰ぐ。

お日様はすっかり姿を隠し、西の空だけが唯一オレンジ色を残していた。

東の空には星が輝き始め、夕餉の準備をしている家も多いのだろ。

辺りにはふんわりといい匂いが風に乗って流れてくる。


ぐぅぅぅう……きゅるきゅるぅ。


「はっ!」


シチューの匂いかしらなんて考えていたのがいけなかったのか、私のお腹が盛大な音を響かせた。

自分でも驚いてばっとお腹を押さえたが、すでに後の祭り。

言い争っていたはずの2人にもばっちり聞こえたらしく、揃ってこちらを見ている。


「……」

「……」


せっかく冷めていた顔がかぁぁっと再び沸騰する。

は、恥ずかしすぎる……!

羞恥のあまり目尻に涙が浮かぶ。


「あんだけケーキ食ったのに……」


プルプルと羞恥に震える私の背後でファーガスが呆れたように呟いた。


「ふ……っ」

「ぶふっ!」


ファーガスを一発殴ってやろうかと物騒な事を考える私の前で、ユアンは口を押さえ斜め下に視線をやり、アルバート殿下に至っては完全に噴き出していた。


「あはは!し、失礼……仮にもレディに対して腹の音をわら、笑うなんて……ぶふーっ!」

「……謝ってるんですか?馬鹿にしてるんですか?」

「くくく!お、男でもあんなでかい音なかなか……ぶはは!」


……なるほど。馬鹿にしてるんですね。

腹を抱えて笑い始めた殿下を涙目で睨む。

すると、不意に腕を引かれ何かにすっぽりと包まれた。


「笑ってごめん。あまりに可愛くて」


優しい声に顔を上げればユアンの顔が。

どうやらユアンの腕の中にいるらしい。

腕の中……て、なんで!?


「ちょちょちょ、ちょっとユアン!?」


慌てて離れようと腕を突っ張るが、腰をユアンに抱かれているので離れられない。


「笑ったのは悪かったけど、その顔は駄目。他の奴に見せたくない」

「いや、本当に何言ってるの!?」


手を置く胸板は意外なほどがっしりと固く、嫌でもユアンが男の人なんだと意識させられてしまう。


「あー笑いすぎて腹痛いわ。もうアホらしいから俺は帰る。お前もさっさと送って戻ってこいよ」

「分かってる」


真っ赤な顔でユアンに埋もれる私の背後で、殿下とユアンの話は着いたらしい。

アルバート殿下は御者に馬車を出すように告げている。

なんと私のお腹の音によってユアンに軍配が上がったようだ。


「そういう訳だから、あんたも大人しく送られて帰りな。じゃないとまた腹が……ふはっ」


そんな殿下は馬車が走り出す間際、私を馬鹿にした台詞を残して去っていった。

くっ。最後まで馬鹿にして……許すまじポンコツ王子め。

馬車が去ってからユアンはゆっくりと私を離しエスコートの様に腕を組む。


「じゃあ帰ろう」


満足気に微笑むユアンはなんだか子供の頃のようで、私も自然と笑みを返す。


「ええ。家までお願いね」


こうして今度こそ帰路についたのだった。

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