表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

9 人気のからくり

 翌朝。登校した修介の周りに、男友達A~Dが嬉々として集まった。が、修介の表情を見て、何となく察したのか、ラブレターの件について触れることはなかった。


 その日の昼休み、男友達Bに誘われ、食堂でご飯を食べた。


 食堂は混雑し、座れるか微妙だったが、「山神君を立たたせるわけにはいかない」と、名も知らぬ先輩たちが席を譲ってくれた。


 先輩たちに感謝しながら、ラーメンを食べているときだった。


 食堂の入口がにわかに騒がしくなる。修介は何事かと目を向け、唖然とした。


 同じ高校の制服を着た伊奈子が立っていた。


 修介の驚きはそれだけではなかった。


「あ、ママだ!」

「ママが来てくれた!」

「ママ、今日も可愛いな」


 男友達が次々に「ママ」と口にしたのだ。


「え? え?」


 混乱する修介。そんな修介の下に、伊奈子はやってきた。


 伊奈子は修介と向かい合うように立った。その顔は真面目で、緊張感があった。


 修介は色々言いたいことはあったが、真面目な顔で伊奈子と向き合った。


「修ちゃん。ぼく、昨日あれから色々考えてみたんだ。それで、修ちゃんのこと、不愉快にさせていたんだとしたら、謝るよ」

「あ、うん。わかってもらえたなら、それでいいよ」

「でね、修ちゃん。修ちゃんに聞きたいことがあるんだ」

「何?」

「修ちゃんにお姉ちゃんはいるの?」

「いないけど」


 伊奈子の顔が、ぱぁと晴れやかになる。


「良かった! なら、ぼくは修ちゃんのお姉ちゃんになるよ!」

「ごめん。さっきの言葉を訂正するよ。何もわかっていないんだな」

「何で? だって、お姉ちゃんはいないんでしょ?」

「うん。まぁ、そうなんだけどさ。そうじゃないんだよなぁ」

「もう」伊奈子は頬を膨らませる。「ああ言えば、こう言う。まったく、修ちゃんはお姉ちゃんにどうしてほしいわけ?」

「取りあえず、その姉貴面は止めてくれないかな。ってかさ、何でここにいるわけ? まさか、わざわざ転校してきたのか?」

「何を言っているんだ。先にこの学校にいたのは、ぼくだよ」

「え? 嘘でしょ」

「本当だよ」

「そんな馬鹿な。だって、おかしな奴がいる学校は、選んでないはずだが?」

「誰が選んだの?」

「ハトエさん。絶対に一緒になりたくないリストも渡したはずだが……」そのとき、修介に電流が走る。「まさか、ハトエさんが?」


 伊奈子はニヤリと笑う。


「な、なにぃ。馬鹿な、ハトエさんにも能力は効かないはず。それなのに、なぜ?」


 伊奈子はスマホを見せた。その画面には、ハトエの電話番号が書かれていた。


「ハトエはぼくの友達なんだ!」

「く、くそおおおおお! 図ったな!」

「修ちゃんがちゃんと確認すれば良かっただけでは?」

「ぐっ」


 修介は言い返せず、奥歯を噛む。確かに、その通りだ。高校選びが面倒だったので、ハトエに全部任せた修介に非はある。


「ってか、そんなにぼくと一緒になるのが、嫌なの?」

「当たり前だろ」

「当たり前なんだ」


 伊奈子は寂しそうに肩を落とす。


 さすがに言いすぎたか。


 修介は、困り顔で頬を掻く。


「……当たり前ではないかもしれないね」

「だろ!」伊奈子は一転し、満面の笑みを浮かべる。「もう、素直じゃないんだから」

「切り替え早すぎだろ。でも、正直、嫌なんだよ」

「どうして?」

「だって、クレイジーだし……」

「そんなことないよ」

「いや、あるよ」

「だって、修ちゃんのこと、理解できるのは、ぼくだけだよ。この学校の連中も、修ちゃんのこと、全然理解していないし」

「え?」

「あっ」


 伊奈子は慌てて口を押える。


 意味深な物言いに、修介の目つきは鋭くなる。


「今のどういうこと?」


 修介の追及に、伊奈子は目をそらす。


「そっか。教えてくれないんだ。そんなやつ、姉でも何でもないよ」


 修介がじっと見つめると、伊奈子は観念したように口から手を放した。


「……この学校は、真面目で大人しい子が多くてね。好戦的な武闘派の超能力者を恐れる傾向にあるんだ。ぼくは、修ちゃんがそんな人じゃないことを理解しているけれど、修ちゃんは、やんちゃな噂話もたくさんあるから、それで、皆、変な先入観をもっていたんだ。でも、安心して! ぼくの力を使えって、そういった問題も解決したから。それで、戦いから身を引きたいと思っていた修ちゃんには、良い高校なんじゃないかなと思って、ハトエにここに入学するようお願いしたんだ」

「……なるほど」修介は、男友達A~Dを見回して言った。「皆は、この女に優しくするように言われて、俺と付き合っていたのか?」


 男友達は気まずそうに沈黙を保ち、誰も修介と目を合わせようとしなかった。それで、修介は色々と察し、天井を仰ぎ見た。


「でもね! 大丈夫だよ、修ちゃん! ぼくが何とかするから!」


 修介は反応しなかった。天井を見つめたまま動かない。


 伊奈子はふためき、次の言葉を探す。


 そして声を掛けようとしたとき、修介は大きなため息を吐いて、伊奈子に視線を戻した。


「あんたの力は、この学校全体に行き渡っているんだろ?」

「……うん」

「なら、俺に関する命令? を取り消せ」

「でも、そんなことをしたら」

「俺を舐めんなよ」修介はお盆を持って、立ち上がった。ラーメンはすでに食べ終えた。「あんたの力を借りずとも、友達の一人や二人、作れるさ。彼女だって、自分の力で、一人や二人……」


 伊奈子はまだ何か言いたそうにしていたが、修介がじっと見つめていると、言葉を呑み込んで、頷いた。


「そっか。わかった。でも、辛くなったら、言ってね。お姉ちゃんは修ちゃんの味方だよ」

「その心遣いだけ、受け取るさ。あと、俺の姉貴ではないからな」


 修介は男友達、いや、クラスメイトを残し、一人でお盆を片づけた。


 それから修介は教室に戻って、授業を受けた。


 昨日までの賑わいが嘘みたいに、修介の周りはひっそりとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ