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6 神々の遊び

 修介の能力『闘う者(ファイター)』は、超人的な肉体能力を有し、物理的に干渉できる精神エネルギー『闘気』を放出できるというものだった。


 一方、恭弥の能力『神々の遊び(ゴッド・ノウズ)』は、ゲームのコマンドのように、恭弥が特定の動作を行うことで、特定の超常現象が生じる。一見無関係に見える動作が、何故、そんな超常現象を引き起こすのか、誰も説明できない。そのため恭弥の能力の仕組みは、神のみぞ知る。


「うおおおおおお!」


 開始直後、恭弥は、滑空する燕のように突っ込んできた。


 間合いに入った。恭弥は右の刀で修介の首を狙う。


 修介はワンステップ目でこれをかわし、ツーステップ目で左の刀による斬撃も避ける。スリーステップ目で踏み込み、恭弥の顎を狙って、拳を放った。


 確実に当たる間合いだった。が、修介の拳は空を切った。修介の姿はなく、二メートルほど離れた場所に、一瞬で後退した。


 左水平斬りからの右水平斬りからのしゃがむ、という動作によって、恭弥は二メートルの距離を一瞬で移動できる。なぜ、その動作で、そんな現象が生じるのか、神様以外説明することはできない。


 修介は構え直す。


「コバエみたいなその技をまだ使っているだな」

「僕は今のコンボをBコンボと呼んでいる。なぜか、わかるかい?」

「さぁな」

「Bランクの超能力者は今の攻撃でだいたい倒れるからさ。だが、君はうまくかわした。つまり、君はBランクになるほど落ちぶれてはいないということだ」

「そいつはどうも」


 自信満々の恭弥の顔を見て、何かあるな、と修介は思った。そのため、「はっ」と短く息を吐き、全身に力を入れた。全身の毛穴を開くイメージ。闘気が放出され、体は青白い光に包まれた。『闘気の鎧』。2トントラックによる突進を、ものともしない強固な鎧だ。


 恭弥は不敵な笑みを浮かべ、左右に刀を切り払い、しゃがんだ。


 恭弥が、一瞬で目の前に迫る。左からの斬撃。左腕で受け止める。右の拳で殴ろうとするが、恭弥の刃の方が早い。修介はとっさに右わきを閉め、肘で右からの斬撃をいなす。


「うおおおおお!」


 恭弥は打ち付けるように何度も刀を振るった。


 恭弥に好きにさせるのは得策ではないとわかっていながらも、修介は受けに回るしかなかった。


「入った!」恭弥が笑う。「くらええええ!」


 暴風めいた刃の嵐! 恭弥の超人的な剣捌きによって繰り出される、上下左右、ありとあらゆる方向から襲いかかってくる刃。まともに受けていたら、鎧がもたない!


 ならば俺も!


 修介は気合を入れる。超人的な動きには超人的な動きで対抗だ!


「はあああああ!」


 超人的な指捌き! 修介は指先で刀身を押し、恭弥の攻撃を受け流した!


「な、何!?」


 驚愕する恭弥。


 修介はその隙を見逃さなかった。


「くらえ!」


 指先から青い光の塊『闘気弾(ファイター・バレット)』を放つ。弾が恭弥の胸にめり込む。


「ぐっ」


 動きが止まる恭弥。修介はその鳩尾に右の拳を叩きこみ、胸倉を掴んで、顔を殴ろうとした。恭弥は歯を食いしばって、左、右と斬撃を放つ。鎧があるから、多少のダメージを無視する。しかし恭弥が膝を曲げる方が早く、拳は空を切った。


 修介は振り返って、バレーボール大の『闘球(ファイター・ボール)』を放つ。恭弥はこれをかわした。


 二人は対峙する。恭弥の表情から察するに、鳩尾への一発は、かなり効いたようだ。


「今のはAランクコンボだ」恭弥は苦しそうにしながらも言う。「これもやり過ごすなんてさすがだな」

「降参するなら、今の内だぜ? 怪我はしたくないだろう?」

「怪我なんか、怖くないさ」恭弥は左の刀を水平に、右の刀を垂直にすることで、二つの刀を十字に重ねた。「むしろ僕は、君に再び負けることを恐れているよ」


 何かする気だな。


「そうはさせん!」


 余計なことをさせない。それが、恭弥との戦いでは必要だ。修介は、恭弥に向かって、闘球連弾を放つ。


 恭弥は素早く、今度は右の刀を水平に、左の刀を垂直にして、十字に重ねた。さらに×に重ね、闘球を切り払った。瞬間、恭弥を中心に、黒い衝撃波が生じ、追撃の闘球を打ち消した。さらにその状態で、恭弥は二本の刀を天に掲げ、ハの字に振り下ろす。すると、再び衝撃波が生じ、恭弥は漆黒のオーラをまとった。


 初めて見る技だ。恭弥の雰囲気も変わる。冷静さの中に獰猛な牙を隠しているように見える。どんな技かはわからないが、厄介に違いなと修介は思った。


「『神の戯れ(キョウヤタイム)』。僕は今、自由に時を操ることができる」

「いいのか? そんなネタ晴らしをして」

「それくらい余裕ってことさ」


 恭弥は不敵に笑った。次の瞬間、Bコンボの動作も無しに、恭弥が目の前に現れた。


「何!?」

「うおおおお!」


 Aランクコンボ再び! 


 ならば! と修介もまた、指で攻撃を受け流そうとする。が、恭弥の手数を前に、修介は目を見開く。恭弥の手数が、一瞬で倍以上に増大したのだ。


「おらおらおらおらおらおらおらおら!」


 恭弥のラッシュに対し、修介は防御姿勢で耐えるしかなかった。暴風と言うよりも、雪崩であった。怒涛の攻めに、呑み込まれる!


 止まない恭弥の攻め! 闘気の鎧にヒビが入り、そして、割れた!


「くらえええ!」


 ここぞとばかりに追撃する恭弥。


 まずいと思った修介は気合を溜め、「うらぁ!」と衝撃波を放ち、恭弥を突き放した。


 肩で息をする修介。気合を溜めたのは一秒程度だったが、かなりの攻撃を受けてしまった。制服はボロボロで、まだ痛みはないが、右腕と左腕が上げにくく、アドレナリンが切れたらやばそうだ。頬から血が垂れ、右手で拭う。


「逆刃でやるんじゃなかったのかよ」

「ついつい興奮してね」


 どうする? 修介は考える。このままでは確実に負けてしまう。修介は奥歯を噛んだ。この粘着野郎に100%の経歴が汚されると思うと悔しい。しかし、どうしようもない現実が目の前にあった。


 そのとき、校舎の方から声が聞こえた。


「「「「「や・ま・が・み! や・ま・が・み!」」」」」


 修介の背中を押す山神コールが巻き起こったのだ。


「山神頑張れー!」

「そんなやつに負けるなー!」


 コールに混じって、応援の声もある。修介は驚いて校舎を眺めたが、「……負けらんねぇな」と笑みを浮かべる。応援が、こんなにも温かいものだったなんて知らなかった。


「ふふっ、こんな大衆の前で、君を倒せると思うと、ゾクゾクするよ」

「性格悪いな。だが、結局負ける悪役にはふさわしいセリフだ」

「その状態で勝てるとでも?」

「勝つのさ」


 修介は息を吐き、構えた。腕が上がらない。だから、胸の前で両手を構える。さらに、闘気を再び纏った。今度は紅の闘気。防御を捨て、攻撃に特化したいときに使う闘気だ。ただ、実戦で使うのはこれが初めてだから、どこまでやれるかは未知数だ。


 しかし、この闘気に、思わぬ効果があった。


「な、何だ、それは! 見たことがないぞ!」


 恭弥が動揺しだしたのだ。よくわからないが、これはチャンスとばかりに、修介は挑発する。


「ほら、ビビってないで掛かってこいよ。悪役にふさわしい最後を見せてやるぜ」

「ふ、ふふふっ! 今の僕は強いんだ。君には負けないんだ!」


 恭弥は刀を構え、突っ込んできた。


「これで終わりだあああああ!」


 恭弥の刃の嵐! が、先ほどよりも剣筋が雑だった。動揺が刀に表れている。


 俊介はすべて見切り、踏み込んで、恭弥の鳩尾に一発拳を撃ち込んだ。くの字に体が折れる恭弥。引き抜いて、もう一発。さらに胸倉を掴んで、投げ飛ばした。


 毬のように跳ねながら、地面を転がる恭弥。転がり終わったとき、恭弥は大の字になって、空を仰いだ。黒いオーラが消え、二本の刀が校庭に刺さる。


「「「「「1」」」」」


 審判ロボットのカウントに、生徒たちも声を合わせる。


「「「「「2」」」」」


「「「「「3」」」」」


 カンカンカンッ! と修介の勝利を知らせる鐘が校庭に響いた。


 わぁぁ! っと歓声が上がる。


「「「「「や・ま・が・み! や・ま・が・み!」」」」」


 山神コールに、修介は天高く拳を掲げて応えた。


 教頭が歩み寄ってくる。


「いやぁ、素晴らしい。君が本校の生徒であることを誇りに思うよ」


 涙を流しそうな教頭から、ブレザーとネクタイを受け取る。


「俺もそう思います。そう言えば、教頭先生。このボロボロになった制服は」

「もちろん、本校で支給させてもらうよ」

「ありがとうございます」

「いやいや、お礼を言うのは、こちらの方さ」


 修介はブレザーを肩に掛け、恭弥のそばに立った。


「いやぁ、君も馬鹿だなぁ」と恭弥。「僕に負けた方が良かったのに。君が勝ったせいで、僕は後3回君と戦わなくちゃいけなくなった」

「そうか。大変だな」

「むっ、他人事だな」

「俺に付き合う義理はないからな」

「ふっ、ふざけるな! 勝ち逃げする気か!」

「もう二度と俺の前に現れんなよ」

「嫌だ! 絶対に、また戦うんだ!」


 やれやれ。修介は呆れ、恭弥のそばから離れようとする。


「待ってくれ! 山神!」

「何だ、今度は?」

「救急車を呼んでくれないか?」

「折れないようには気を付けたぞ? 真剣で襲い掛かってきた、どこかの誰かさんと違って」

「そうじゃない。力を使ったせいで動けないんだ」

「……馬鹿じゃねぇの?」

「うるさい。僕は君に勝つためなら、全力を尽くすんだ!」


 修介は渋い顔で、教頭に目を向ける。


「先生。救急車を呼んでください。他校に乗り込んできた頭がおかしい奴とそんな頭がおかしい奴に付き合った頭がおかしい奴がいるって」


 修介は叫びたくなるような激痛を堪えながら言った。

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