2.14 決着
決着は一瞬で着いた。しかし愛莉が自分の敗北を受け入れるのに長い時間が掛かった。
開始の合図が鳴ったかと思うと、腹に衝撃が走って、軽く気を失った。そして、自分の敗北を知らせる鐘の音で目を覚ましたのだ。
「大丈夫ですか?」
修介が愛莉の顔を覗き込み、手を差し伸べる。
「うるさい」
愛莉は悔しさを隠すように、顔を右腕で隠した。
修介はその場にしばらく留まっていたが、ベンチへ向かう気配があった。右腕をずらすと、修介の顔はなく、紺色に染まりつつある空が見えた。
その空を眺めていると、初めて修介に負けたときのことを思い出す。そのときも、自分を侮辱する最低のクズ野郎だと思ったし、そんなクズ野郎に負けてしまったことがとても悔しかった。
それから、敗因となったメンタルの弱さを克服するため、ユリアの下で、男に対する憎悪を高め、憎悪を力に変えるよう訓練してきた。実際に、その効果はあって、男との勝率は100%だった。だから男には負けないという絶対的な自信もあった。
それなのに、どうして負けてしまったのだろう。愛莉には、やはり敗北の理由がわからなかった。
愛莉は体を起こす。修介は、恵美や恭子の縄をほどき、恭子から何やら文句を言われているようだった。それに対し、修介は悪びれた様子もなく笑っていた。
愛莉は立ち上がって、修介たちへと歩み寄った。三人は気づき、愛莉と向き合う。恭子は警戒しているのか、威嚇する犬のように歯を剥き出しにした。
「すまなかった。私の復讐にあなたたちを巻き込んで」
愛莉は深々と頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですにゃ」
「そうっすよ! 全く、自分を人質にするなんて、良い度胸っすね」
対照的な二人の反応に、二人に挟まれている修介は苦笑した。
愛莉は真剣な表情で修介を見すえた。そのため、修介も真剣な表情で見返す。
「聞きたいことがある」
「何ですか?」
「どうして、私はお前に勝てない」
「俺が強いからですかね」
「そういうことが聞きたいんじゃない。もっと、具体的なことを聞きたいんだ」
「もっと、具体的なこと?」修介は思案顔になって答える。「そうですね。まぁ、前回は、揺さぶりをかけることで、実力差を埋めようとしましたけど、今回はそれが必要なかった」
愛莉は拳を握る。
「つまり、純粋な力の差によって、負けたということか」
「まぁ、はい」
「くっ」
愛莉は奥歯を噛む。悔しい。しかし反論ができないことは愛莉自身がよくわかっていた。
愛莉は修介に詰め寄って言った。
「なら、教えろ! どうやれば、私はお前に勝てる!」
「さあ? 知らないですよ、そんなの」
「しらを切るつもりか、貴様!」
愛莉は修介の胸倉を掴もうとしたが、修介はその手を掴む。
「いやいや、それを俺に聞くのは、違うんじゃないですか? 自分で考えるべきだと思いますよ」
「ぐぬぬぬ」
「あの愛莉さん」恵美が二人を分かつように立った。「これから、焼肉に行こうって話になったんですけど、一緒に行きませんか?」
「何?」
「山神君がおごってくれるそうですにゃ」
「愛莉さんは自分で払えるでしょ」
「なぜ、私がこの男と!?」
恵美は愛莉の耳元で囁く。
「これを機会に、山神君のことをちゃんと理解しようとすれば、もしかしたら、勝つためのきっかけがつかめるかもしれませんよ。相手のことを理解することも、勝利するためには必要ですにゃ」
愛莉は渋い顔になった。恵美は愛莉から離れ、修介の隣に立つ。
「何て言ったの?」
「教えないにゃ」
愛莉は改めて修介を見た。この男と一緒にご飯を食べる。それは屈辱的なことだった。しかし、その耐えがたき屈辱を耐えることで、この男に勝つことができるようになるのならば、恵美の誘いに乗るのも悪くないと思った。
「わかった。私も行く」
「えー。自分は反対っす!」
「まぁまぁ、そう言わず、皆で行こうにゃ! ね?」
恵美に同意を求められ、修介は「まぁ、田中さんが言うなら」と、渋い顔で頷く。
「よし、それじゃあ行こう!」
恵美が皆を先導する。
「行きましょう! 愛莉さん」
恵美に手を引かれ、愛莉は修介に背を向けた。
「やれやれ、何で、こうなっちゃうのかなぁ」
そんなぼやきが後ろから聞こえた。
これにて第二話完結です。ここまでお読みいただきありまがとうございます。
中途半端なところではありますが、ここでいったん、この作品自体を完結にさせていただきます。
理由は、次の更新がいつになるかわからないからです。更新を未定にして、続けることも考えましたが、モチベーションが上がらず、そのままエタってしまうことも考えられるため、そうなるよりかは、形だけでも完結にした方がいいかなと思ったので、完結にします。
誠に勝手な判断でありますが、ご容赦ください。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。




