表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

25 スローライフ

 次元対策部隊はモンスター討伐後も、復興支援及び警戒のため、一週間ほど現地に滞在する。しかし一部は、報告のため、ネオつくばに帰還するので、修介は恵美も相乗りできないか、孝彦に聞いてみた。


「ああ、いいぞ。山神のお願いとあっては、断れないだろう?」


 孝彦はそう言って、了承した。


 そして翌朝。修介は、一晩中市街地で作業をしていたため、早く寝たかった。しかし孝彦が、帰還組の見送りに行くと言うので、修介も同行した。


 小学校の昇降口の前には、三台の黒い装甲車が停まっていて、帰還組の隊員たちが、復興支援組の隊員たちと打ち合わせを行っていた。孝彦もその輪に混じる。


 修介は恵美を探す。修介が作業をしている間、恵美は対策本部の撤収作業を手伝っていたのだ。

昇降口前の階段に座る恵美を見つけ、修介は声を掛ける。


「おはよう。ひどい顔だな」


 一晩中、作業をしていたのだろう。恵美も眠そうだ。


「おはようにゃ。山神君も人のことが言えないにゃ」

「お互いさまってことか」


 修介は隣に座る。恵美に何か声を掛けようと思うが、眠くて頭が回らない。


「……ありがとうにゃ」

「どうした急に」


 恵美を一瞥する。恵美は校舎前の校庭を眺めながら言った。


「山神君のおかげで、色々、貴重な経験ができたにゃ」

「こんなの序の口だぜ? これから、田中さんはもっと、色々なことを経験していくことになるんだから」

「そっか。不安だけど、楽しみでもあるにゃ。取りあえず、今日の面談? 頑張るにゃ」

「そうだな。でも、その顔で大丈夫?」

「向かう途中で寝るから、多分」

「まぁ、変に力まず、思いのたけをぶつければいいと思うよ」

「うん」

「それに、お礼を言うべきなのは、俺だってそうだよ。田中さんと出会えて良かったと本気で思う」

「何だか照れるにゃ」恵美は恥ずかしそうに頬を掻く。「でも、どうしてにゃ?」

「色々と自分を見直すことができたからかな。とくに、俺クラスの人間には、SとかAとかそんなの関係ないことを学べたのは大きい」

「ふぅん。山神君の力になれたなら、良かったにゃ。でも、SとかAが関係ないって、これからどのランクを目指すのにゃ?」

「とくにランクにはこだわらないかな。求められたことに対し、応えていく。そんな感じ」

「……山神君の背中が、また遠くなってしまったにゃ」

「すまんな。気を抜くと、手が届かないほど遠くになっちまうぜ?」

「そうならないように頑張るにゃ」

「恵美ちゃーん!」杉並が手を振る。「そろそろ、行くよー」

「はいにゃ! 行きますにゃ!」


 恵美は手を振って答える。


「仲良くなったのか?」

「うん。良くしてもらったにゃ」

「そっか。それはいいことだ」


 二人は立ちあがって、向き合った。


「山神君はしばらくこっちにいるんだよね?」

「ああ。一週間くらいはこっちにいるかな」

「そっか。その間、寂しくなるにゃ」

「その分、帰ったら、すげぇ特訓するから、覚悟しておいてよ」

「お手柔らかに頼むにゃ」

「面談の場所と時間はメールで転送した通りだから」

「うん」

「良い知らせを待ってるよ。頑張って!」

「にゃ!」


 修介は笑顔で恵美を見送った。


 それから修介は実家に帰って、久しぶりに自分の部屋で爆睡した。


 正午過ぎに目が覚め、昼食を食べてから、市街地に行って復興を手伝った。


 夕方になって、恵美のことを気にしていると、恵美から電話があった。


「七月までの結果で昇格圏に入ることができたら、契約を検討するって」

「なるほど。さすがに、すぐに契約とはならないか。まぁ、でも、三ヶ月もあればいけるでしょ。頑張ろう」

「にゃ!」


 その後、ハトエからも電話があった。


「聞いたよ。大活躍だったんだってね」

「俺は俺の仕事をしただけですけどね」

「ひゅう、クールだねぇ。所長も『お疲れ様』と言ってたよ」

「所長が?」

「うん。あとは、『次も頑張って』って」

「……俺って、研究所との契約が切れてるんですよね?」

「修介君のこと、個人的に期待してるってことでしょ。そうだ。田中さんから話は聞いた?」

「はい。七月までの結果で昇格圏に入ることができたら、契約を検討するんですよね?」

「うん。そう」

「それって、七月までに一回でも昇格圏に入ればいいってことなんですか? それとも、継続して昇格圏にいたらいいんですか?」

「その辺の判断は任せるけど、昇格の見込みが高い方が、印象は良いよね」

「確かに、そうですね」

「それよりさ。彼女のあれは素なの?」

「あれ?」

「にゃあにゃあ言ってたけど」

「ああ、あれは……」


 何と説明すればいいだろう。下手なことを言えば、ハトエに怒られそうだ。だから、修介は適当に誤魔化すことにした。それに、その方が面白そうだし。


「色々あるみたいですよ」

「ふぅん。まぁ、いいや。でもいいね、修介君は」

「何でですか?」

「私が一生懸命働いている間にさ、自分は可愛い子と仲良くして、青春を楽しんでいるようだから」


 これは面倒なことになる。


 ハトエの声音から判断した。


 修介は「あ、すみません。呼ばれたんで、切りますね。田中さんの件、本当にありがとうございます。また後で、連絡します」と言って、電話を切った。切る直前に、恨み節が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。


 スマホの画面を眺め、修介はハトエの言葉を思い出す。恵美はハトエの前でも猫キャラを演じたようだ。それは修介にとって意外なことだった。普通に話すと思っていた。


「今回の件で、田中さんも思うことがあったようだな」


 俺も頑張らないと。


 修介は気合を入れ、復興作業に戻った。


 そして帰宅し、居間に行って、目が丸くなった。氷花が呑気に煎餅をかじっていたからだ。


「おかえり」

「ただいま。じゃなくて、何でいるわけ?」

「修介のお父さんとお母さんに挨拶に」

「は? 何で?」

「戦おうかと」

「さすがだな」


 修介は呆れて笑うしかなかった。修介は机のそばに座り、煎餅をかじった。


「でも、そんな理由で来たんだったら、俺の親を見て、がっかりしたろ?」

「うん。弱そうだった」

「弱そうってか、弱いだろうね。うちの両親は、どっちも普通の人だから」

「それじゃあ、修介はどうしてそんなに強いの?」

「俺は特殊なんだよ、色々と」

「ふぅん」

「ってか、うちの親はどこ行ったの?」

「今回の件に関し、地区の集まりがあるって」

「なるほど。それで氷花を一人で残していくのもどうかと思うけど」


 テレビがついていた。修介は画面を眺める。昨日まで、この街が滅びる可能性があったのに、テレビに映っているのは、クイズを楽しむ芸能人の姿だった。


「アラクネに関するニュースはやってたの?」

「うん。最初の5分くらい」

「他にどんなニュースをやっていたの?」

「西の方で次元場の乱れがあるらしい。あとは、能力を使った事件とか」

「……そっか」


 次元災害が日常の一部となってしまったこの世界で、終ったことを長々と扱うほど、メディアも暇ではないようだ。


「でも、安心して。功績者として、修介が紹介されていた」

「それはべつにどうでもいいんだけど」


 修介は仰向けになって天井を眺める。今日も疲れた。


 天井を眺めているうちに、修介の頭に疑問が浮かぶ。


「なぁ、氷花」

「何?」

「氷花は、俺がBランクになっても、戦いたいって言うの?」

「言うよ。何で?」

「いや、何となく」

「……Bランクになるの?」

「……この世界が俺の平穏(スローライフ)を許すんだったら、そうなるかもね」


 修介は皮肉屋っぽく、口角を上げた。

第一話、完!


ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


まだまだ続くので、今後もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ