25 スローライフ
次元対策部隊はモンスター討伐後も、復興支援及び警戒のため、一週間ほど現地に滞在する。しかし一部は、報告のため、ネオつくばに帰還するので、修介は恵美も相乗りできないか、孝彦に聞いてみた。
「ああ、いいぞ。山神のお願いとあっては、断れないだろう?」
孝彦はそう言って、了承した。
そして翌朝。修介は、一晩中市街地で作業をしていたため、早く寝たかった。しかし孝彦が、帰還組の見送りに行くと言うので、修介も同行した。
小学校の昇降口の前には、三台の黒い装甲車が停まっていて、帰還組の隊員たちが、復興支援組の隊員たちと打ち合わせを行っていた。孝彦もその輪に混じる。
修介は恵美を探す。修介が作業をしている間、恵美は対策本部の撤収作業を手伝っていたのだ。
昇降口前の階段に座る恵美を見つけ、修介は声を掛ける。
「おはよう。ひどい顔だな」
一晩中、作業をしていたのだろう。恵美も眠そうだ。
「おはようにゃ。山神君も人のことが言えないにゃ」
「お互いさまってことか」
修介は隣に座る。恵美に何か声を掛けようと思うが、眠くて頭が回らない。
「……ありがとうにゃ」
「どうした急に」
恵美を一瞥する。恵美は校舎前の校庭を眺めながら言った。
「山神君のおかげで、色々、貴重な経験ができたにゃ」
「こんなの序の口だぜ? これから、田中さんはもっと、色々なことを経験していくことになるんだから」
「そっか。不安だけど、楽しみでもあるにゃ。取りあえず、今日の面談? 頑張るにゃ」
「そうだな。でも、その顔で大丈夫?」
「向かう途中で寝るから、多分」
「まぁ、変に力まず、思いのたけをぶつければいいと思うよ」
「うん」
「それに、お礼を言うべきなのは、俺だってそうだよ。田中さんと出会えて良かったと本気で思う」
「何だか照れるにゃ」恵美は恥ずかしそうに頬を掻く。「でも、どうしてにゃ?」
「色々と自分を見直すことができたからかな。とくに、俺クラスの人間には、SとかAとかそんなの関係ないことを学べたのは大きい」
「ふぅん。山神君の力になれたなら、良かったにゃ。でも、SとかAが関係ないって、これからどのランクを目指すのにゃ?」
「とくにランクにはこだわらないかな。求められたことに対し、応えていく。そんな感じ」
「……山神君の背中が、また遠くなってしまったにゃ」
「すまんな。気を抜くと、手が届かないほど遠くになっちまうぜ?」
「そうならないように頑張るにゃ」
「恵美ちゃーん!」杉並が手を振る。「そろそろ、行くよー」
「はいにゃ! 行きますにゃ!」
恵美は手を振って答える。
「仲良くなったのか?」
「うん。良くしてもらったにゃ」
「そっか。それはいいことだ」
二人は立ちあがって、向き合った。
「山神君はしばらくこっちにいるんだよね?」
「ああ。一週間くらいはこっちにいるかな」
「そっか。その間、寂しくなるにゃ」
「その分、帰ったら、すげぇ特訓するから、覚悟しておいてよ」
「お手柔らかに頼むにゃ」
「面談の場所と時間はメールで転送した通りだから」
「うん」
「良い知らせを待ってるよ。頑張って!」
「にゃ!」
修介は笑顔で恵美を見送った。
それから修介は実家に帰って、久しぶりに自分の部屋で爆睡した。
正午過ぎに目が覚め、昼食を食べてから、市街地に行って復興を手伝った。
夕方になって、恵美のことを気にしていると、恵美から電話があった。
「七月までの結果で昇格圏に入ることができたら、契約を検討するって」
「なるほど。さすがに、すぐに契約とはならないか。まぁ、でも、三ヶ月もあればいけるでしょ。頑張ろう」
「にゃ!」
その後、ハトエからも電話があった。
「聞いたよ。大活躍だったんだってね」
「俺は俺の仕事をしただけですけどね」
「ひゅう、クールだねぇ。所長も『お疲れ様』と言ってたよ」
「所長が?」
「うん。あとは、『次も頑張って』って」
「……俺って、研究所との契約が切れてるんですよね?」
「修介君のこと、個人的に期待してるってことでしょ。そうだ。田中さんから話は聞いた?」
「はい。七月までの結果で昇格圏に入ることができたら、契約を検討するんですよね?」
「うん。そう」
「それって、七月までに一回でも昇格圏に入ればいいってことなんですか? それとも、継続して昇格圏にいたらいいんですか?」
「その辺の判断は任せるけど、昇格の見込みが高い方が、印象は良いよね」
「確かに、そうですね」
「それよりさ。彼女のあれは素なの?」
「あれ?」
「にゃあにゃあ言ってたけど」
「ああ、あれは……」
何と説明すればいいだろう。下手なことを言えば、ハトエに怒られそうだ。だから、修介は適当に誤魔化すことにした。それに、その方が面白そうだし。
「色々あるみたいですよ」
「ふぅん。まぁ、いいや。でもいいね、修介君は」
「何でですか?」
「私が一生懸命働いている間にさ、自分は可愛い子と仲良くして、青春を楽しんでいるようだから」
これは面倒なことになる。
ハトエの声音から判断した。
修介は「あ、すみません。呼ばれたんで、切りますね。田中さんの件、本当にありがとうございます。また後で、連絡します」と言って、電話を切った。切る直前に、恨み節が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。
スマホの画面を眺め、修介はハトエの言葉を思い出す。恵美はハトエの前でも猫キャラを演じたようだ。それは修介にとって意外なことだった。普通に話すと思っていた。
「今回の件で、田中さんも思うことがあったようだな」
俺も頑張らないと。
修介は気合を入れ、復興作業に戻った。
そして帰宅し、居間に行って、目が丸くなった。氷花が呑気に煎餅をかじっていたからだ。
「おかえり」
「ただいま。じゃなくて、何でいるわけ?」
「修介のお父さんとお母さんに挨拶に」
「は? 何で?」
「戦おうかと」
「さすがだな」
修介は呆れて笑うしかなかった。修介は机のそばに座り、煎餅をかじった。
「でも、そんな理由で来たんだったら、俺の親を見て、がっかりしたろ?」
「うん。弱そうだった」
「弱そうってか、弱いだろうね。うちの両親は、どっちも普通の人だから」
「それじゃあ、修介はどうしてそんなに強いの?」
「俺は特殊なんだよ、色々と」
「ふぅん」
「ってか、うちの親はどこ行ったの?」
「今回の件に関し、地区の集まりがあるって」
「なるほど。それで氷花を一人で残していくのもどうかと思うけど」
テレビがついていた。修介は画面を眺める。昨日まで、この街が滅びる可能性があったのに、テレビに映っているのは、クイズを楽しむ芸能人の姿だった。
「アラクネに関するニュースはやってたの?」
「うん。最初の5分くらい」
「他にどんなニュースをやっていたの?」
「西の方で次元場の乱れがあるらしい。あとは、能力を使った事件とか」
「……そっか」
次元災害が日常の一部となってしまったこの世界で、終ったことを長々と扱うほど、メディアも暇ではないようだ。
「でも、安心して。功績者として、修介が紹介されていた」
「それはべつにどうでもいいんだけど」
修介は仰向けになって天井を眺める。今日も疲れた。
天井を眺めているうちに、修介の頭に疑問が浮かぶ。
「なぁ、氷花」
「何?」
「氷花は、俺がBランクになっても、戦いたいって言うの?」
「言うよ。何で?」
「いや、何となく」
「……Bランクになるの?」
「……この世界が俺の平穏を許すんだったら、そうなるかもね」
修介は皮肉屋っぽく、口角を上げた。
第一話、完!
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
まだまだ続くので、今後もよろしくお願いします。




