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15 強くなるためには

 田中恵美の能力は『移動式発射装置(ミサイル・ガール)』。ジェットエンジンを排気口側から描いたシールを張ることで、張った対象をミサイルにする能力だ。右手の親指以外の手を握ることで、右手がスイッチとなり、親指で一回押すと、シールの排気口から炎が噴き出し、ミサイル発射。二回押すと爆発させることができる。長押しは能力解除だ。


「実際にやってみるか。そのシールは今あるの?」

「うん」


 恵美はポケットからシールを出した。


「これは、自分で作ったシール?」

「研究所で作ってもらった」

「なるほど。ってか、研究所に入っているんだ」

「うん。でも、弱小だから、もっと成長したいなら上の研究所に行った方がいいかもね、と言われている」

「Cランクに行ったんだから、良い研究所だと思うけど、ずいぶんと弱気だな。名前は?」

「モトダエンジンの研究チーム」

「知らないなぁ」

「エンジン分野ではかなり有名な会社なんだけど」

「なるほど。自分とこの商品と関連がありそうだから、取りあえず、契約したパターンかな。まぁ、いいや。取りあえず、やってみて」

「うん」


 恵美は頷いて立ち上がった。落ちていた石を拾い、シールを張る。修介の隣に立って、手すりに石を置いた。下に人がいないことを確認し、恵美は修介に目を向ける。


「それじゃあ、始めるね」

「どうぞ」


 恵美がスイッチを一回押す。エンジンから炎が噴き出し、石が飛んだ。5メートルほど飛んだところで、恵美はスイッチを二回押す。石が弾けた。


「こんな感じなんだけど」


 修介は思案顔で口を開く。


「シールを張った対象そのものが爆発するというよりは、あのシールが爆発するって感じかな?」

「うん、そう」

「他にもシールがあるじゃん? どうして、他のシールはスイッチに反応しないの?」

「意識していないし、シールを張るために私が触れていないから」

「つまり、田中さんが触れてかつ意識することが、能力発動のトリガーになるって感じ?」

「うん。まぁ、そんな感じ」

「この能力に前例ってあんの?」

「一応。平行世界でトップのBランクになった人がいる」

「トップのBか。それなりに良い能力なんだな。それで、何て言ったらいいんだろう。この能力って、最終的にはシールなしでも使えるようになるの?」

「うん」

「その場合、対象に触れることで、対象に、精神エネルギーが具現化されたエンジンが付加されるとか、そんな感じ?」

「うん、そう。よくわかるね」

「腐っても、元Sランクですから。ということは、この能力は『具現系』ということだな。となると、確かに、エンジン屋さんじゃ、さらに上は難しいかもしれんな」

「やっぱり、そうなのかな」

「と言うか、順番が逆と言うか。具現系の能力を扱う上で重要なことって何かわかる?」


 恵美は首を振る。


「自分のイメージをどれだけ具現化できるかってことだ。だから、どれほど優れたエンジンをイメージすることができたとしても、それをしっかり形にできなかったら、意味がない」

「へぇ」

「そして、その反応を見るに、その研究所では、そういった基礎的なところはあまり教わってない感じなのかな」

「ごめん」

「べつに、田中さんが謝ることじゃないよ。基礎的な部分を疎かにする研究所って、結構あるからな。まぁ、でも、何をすべきかってことはだいたいわかった」

「本当に?」

「ああ」


 恵美は目を輝かせる。


「すごいね。山神君に相談して良かった!」


 修介は照れながら、後ろ首を撫でる。人にものを教えるのも悪くないと思った。


「続きは放課後にしようか」

「うん」


 二人はご飯を食べて、教室に戻った。




△▲△▲△▲△▲△▲




 放課後。二人は近くの公園に移動した。


「田中さんは、どれくらいの頻度で、研究室に通ってるの?」

「一週間に一、二回。二時間くらい、講習と実習をするの」

「へぇ。それだけで、よくCランクになれたね」

「うん。だから、研究所の人たちが一番驚いてた」

「大丈夫かいな。その研究所は」


 修介は呆れる。


「まぁ、私も自主練とか結構、やってたし」

「それでCランクになれるって、ポテンシャルがあるんだな、きっと」

「そうかな。だったら、嬉しいけど」

「まぁ、でも、こっからが大変と言えば、大変なんだけど。取りあえず、目標を決めようか」

「目標?」

「ああ。だから、何月までに暫定順位で昇格圏に入るとかさ」

「なるほど」

「ちょっと、整理してみようか」


 修介は、ユースランク制度について、恵美と確認する。


 現在、ユースランク制度の対象となっている超能力者は約一千万人。その中で、Sランクになれるのは8人、Aランクは32人、Bランクは64人、Cランクは128人で、Dランクは256人、Eランクは512人、Fランクは1024人となっていて、残りの超能力者は全員Gランクとなっている。


「こう考えると、Cランクってすごいよな」

「確かにそうだね。でも、Fランク以上は、ほとんどがネオつくばにいる人なんでしょ?」

「まぁ、そうだな。制度的に、超能力者が多いこの場所が一番有利だから。それに、学年が大きい超能力者ほど上に行きやすいという特徴もある。だから、小学生以下の超能力者はほとんどGだ。まぁ、当然と言えば、当然なんだけど。田中さんは今、Cランクだから、順調に行っても、Aランクまでしか行けないな」

「順調に行けたらね」

「まぁ、卒業前にSランクへの昇格圏に入れたら、それはもう、Sランクと言っていいんじゃないかな」

「でも、そこまで行けるかな?」

「行くんだよ」


 修介はスマホを起動し、ランキングを眺めた。各クラス内のレート及び順位は毎月の一日に更新される。まだ四月なので、全員0で、同じ順位だ。


「上に行くために、考えるべきことは、昇格圏に入れるかどうかだ。正直、一位を取る必要はない。あ、でも、お金が欲しいんだっけ?」

「うん」

「なら、順位も気にしないといけないけど、上がれば、金なんて増えるから、上がることを目指した方が良いよ」

「わかった」

「で、昇格圏についてだが、Bランクへの昇格人数って15人だっけ?」

「確か」

「でも、今年の卒業生の数によって、枠の増減があるから、上にいる卒業予定者の数は把握しておいた方が良いよ」

「うん」

「まぁ、何位を目指すかは田中さんに任せるけど、最初から上位を目指さない方が良いかな」

「何で?」

「Cランクくらいになってくると、上位陣は下位から結構狙われるから。だから、夏までは上位陣から引き離されないようにレートを稼いで、秋ごろからじわじわと順位を上げ、1月頃から一気に順位を上げるのが、一番楽なやり方ではある。ただ、このやり方は、地力がないと難しいんだけど」

「それじゃあ、私には無理かな」

「でも、田中さんにはポテンシャルがある。だから、後半で急成長し、巻き返す。って可能性も十分にありえる。ま、その辺を考慮して、まずは今月の順位を考えてみたらいいんじゃないかな。あ、四月の順位は、去年のレートなんかを参考にするといいよ」

「わかった」


 恵美はスマホで去年のランキングを見る。真剣な横顔を見て、他に自分ができることはないか、修介は考える。


「そうだ。実際に、対人戦をやってみようか」

「え? 私が?」

「俺がやってもしゃーないでしょ」

「そうだけど」

「『デュエル・マッチング』には登録してんの?」

「うん」

「なら、検索してみようぜ」


 デュエル・マッチングとは、決闘する相手を探すためのアプリだ。修介も去年の夏までは登録していたが、今は削除している。このアプリの利点は、決闘相手が見つかるだけではなく、審判ロボットの要請も可能な点だ。これによって、一々、相手と審判を探す手間が省ける。


「この付近で、決闘可能な相手はいる?」

「えっと、五人くらいいる」

「貸して」


 修介は、恵美からスマホを受け取り、メンツを確認した。Bが一人に、Cが二人、DとEがそれぞれ一人だ。


「この人でいいんじゃね?」


 修介が選んだのは、Cランクの超能力者だった。名前は北里悟志。修介や恵美と同じ高校の三年で、昨年度はCランク23位だった。


「いきなりCランクで大丈夫かな?」

「田中さんもCランクだろ?」

「そうだけど」

「去年までの成績を見るに、Cランクの中堅みたいだから、この人と戦えば、Cランクがどんなもんか、だいたいの目安になるんじゃないかな。だからやってみよう」

「……わかった」

「場所は……学校裏の雑木林にしよう。そっちの方が、能力を活かしやすいだろ?」

「うん」

「あとは、ルールだけど、基本的にあっちが決めるからなぁ。まぁ、でも、優しそうな顔をしているし、提案したら、聞いてくれそう。だからお願いしてみようぜ。得意なルールとかあるの?」

「風戦かな」

「ああ、いいね。殴り合うより、よっぽど健全だ。それに、田中さんの能力向きだし。んじゃ、それでお願いしてみて」

「わかった」


 恵美はスマホを操作し、必要事項を記入して、メッセージを送信した。


 三分ほど経って、相手から返信があった。


「何だって?」

「OKだって」

「よし。んじゃあ、雑木林に向かいますか」

「……大丈夫かなぁ」

「大丈夫。初戦だし、勉強だと思って、頑張ろうぜ」


 不安そうな恵美に対し、修介は気楽な調子で言った。

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