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ジョブ

リビングに戻ると、既に柚たちはそれぞれのVR機を持って、話していた。


「あ、紫月遅いよ。委員長はチュートリアルがあるから先に始めてるよ」

「そうか、待たせて悪かったな。しかし早速やるのか。つまみ必要なかったな」

「え、つまみあるの!私食べたい!」

「やめておいたら。リヴィエラでも食べるし、つまみは明日に食べればいいし」

「……太る」

「そうだね。夜に食べて太るのも怖いしね」

「ああ、女はそういう悩みもあるか」

「うぅ」


茜は残念そうにしているが、結構晩御飯を食べていたように見えたんだが。まあ、成長期真っ盛りだしな。そんなに腹が減ったのなら柚が言ったようにリヴィエラで食べればいいんだ。


「で、取りあえず今回の予定は?」

「うん。私たちはジョブを一次ジョブを目標に進めよう」

「一次ジョブ?」

「茜たちの話だと、戦闘系の職は一次ジョブ、その他の生産系の職を二次ジョブとしてとることが出来るらしいよ」

「へぇ。生産職も一緒に取れるんだな。一次ジョブを目的にする理由は?」

「それは私たちが説明するよ」

「……私たちに任せる」


茜が大雑把に、千鶴がそれをフォローするように説明してくれる。

どうもジョブはゲーム中でクエストを攻略していく中でいくつでも取れるようで、どれだけ多くとってもデメリットは特にないらしい。職業ごとにレベルを上げていくのだが、一次ジョブも二次ジョブも一度にそれぞれ一つずつしか設定できず、複数同時にレベルを上げることが出来ない。さらに、他の職で採ったスキルを別のスキルで使う事は出来ないため、一つの職業を育てることが一番らしい。一次ジョブと二次ジョブは同時に付けることが可能だが、経験値が二分されるそうなので、最初は戦闘スキルが手に入る一次ジョブから育てていくのがセオリーみたいだ。


「なるほどな。ちなみに二人はジョブは何なんだ?」

「あたしは騎士だよ。レベルは30で、生産系は取ってないかな」

「……私は魔術師。レベル30。同じく生産はやってない」

「へぇ、二人は結構やってるんだな」

「うん、まぁね。でもどうしようかなぁ」

「何が?」

「せっかく一緒にやるんだったらさ、レベルが離れてるよりも同じレベルの方が面白いじゃん」

「……生産職を始めるのもいい」

「あー、それもあるね」


2人とも結構レベルが高いようなので、別の職業にするのはもったいないと思うんだが。

だが二人ともそれを考える事自体が楽しそうなので、余計なことは言わないことにする。


「じゃあ俺と柚と委員長はジョブ探しを目的に活動。茜と千鶴は生産系を探すって感じでいいか?」

「うん、そんな感じだね。後は連絡を追々していけばいいと思うよ」

「集合はどこでする」

「それは大丈夫だよ、兄ちゃん。基本的にログイン場所は噴水広場だから」

「……名前を確認すればすぐに分かる」

「分かった。俺はシズってキャラだから」

「私はユズキね」

「分かった、私はシハンだよ」

「……セン」

「……」


茜の名前は恐らく憧れていた師範代から取ったんだろう。千鶴の方は名前の千から取ったんだろうな。

名前を確認した後、それぞれログインする。


ログイン場所は最初のあの噴水広場だ。俺の姿は相変わらず装備以外は真っ黒だった。

隣からすぐに3人の女キャラが現れる。ネームを見るとユズキ、シハン、セン、だった。

シハンはジョブが騎士だったか。騎士に相応しい鎧を装備している。髪は赤いショートで、勝気な印象がより一層強くなっている。

センの方は魔術師だったか。紫のローブと黒い髪が魔術師然としている。


「ぶぁはははっ、ひー、なに兄ちゃんその色。顔まで真っ黒じゃん!」

「茜、ネームで呼ぼうな」

「ああ、っ、ごめん、っ、いやぁ、聞いてはいたけど本当に真っ黒なんだね」

「……似合ってる」

「ちょっと待て、セン。似合ってるってなんだ」

「……顔が怖いからちょうどいい」

「あ、私と同じこと言ってる」


ダメだ、俺と目を合わそうとしない。あっていきなり笑うとは失礼な話だ。俺の顔はそんなに怖いのか?


「怖いというか何考えているのか分からない感じかな」


シハンは苦笑いでこちらを見ている。


すると、村の門の方からこちらに来る女キャラが。本来中の人が誰なのか分かるはずもないんだが、その人だけはすぐに分かった。なにしろ名前が、


『イインチョ―』


と表示されているのだから。もっと他に思いつかなかったのか委員長。

ユズキたちを見ると、目を丸くした後に噴出して笑いを堪えている。シハンは爆笑しているが。


「えっと、柚さんですか?」

「うんそうだよ、イインチョ―。こっちではネームでお願いね」

「あ、はい。すみません。ユヅキさんですね」


そう言った後俺の方を向いて


「あなたが紫月君ですか。聞いてはいましたけど本当に黒いんですね」

「ああ、こっちではシズだ。よろしくな、イインチョ―」

「はい。よろしくお願いしますね、シズ」


いい人だイインチョ―。人の顔を見て笑わないのだから。顔を引きつらせてはいるが、見なかったことにする。

どうもまだ動き慣れていないようだが、顔合わせも済ませて、フレンド登録も済ませると、


「じゃあ先に行ってくるね。何かあったら連絡するから」


ユズキはそういってあっとういうまに見えなくなった。


「それじゃあシズにい、私たちはイインチョ―連れて案内してくるね」

「……また後で」

「二人とも有難うございます。じゃあシズさんもまた後で」

「ああ、楽しんで来いよ」


シハンとセンはイインチョ―を連れて町を見て回るらしい。


「さて、俺も行くかな」


突っ立っていても周囲から奇妙なものを見るような目で見られるので、さっさとGardenに向かう事にした。


Gardenの建物が見えてくると、婆さんがまた荷物を抱えている姿が見える。走って婆さんの方に向かうと、婆さんも俺に気づいたようで笑顔を向けてくれる。


「おお、シズかい。こんにちは。今日も来てくれたんだねぇ」

「ああこんにちは、婆さん。手伝うって言ったからな」

「そうかい、それは助かるねぇ。じゃあこれをしてもらおうかね」


婆さんがそういうと目の前に「畑を耕しましょう」とクエストが出てくる。

俺がOKをタッチすると目の前の表示が消えて婆さんが荷物を俺に差し出してくる。


「これは畑の肥料でね。運ぶのを手伝ってもらってもいいかい?」

「ああ、いいよ。あの畑まで持っていけばいいんだろ」

「お願いねぇ。助かるよ」


その後は畑まで肥料を持っていくと、婆さんの指示で畑を耕す作業をした。肥料をまいてクワで耕すのを頼まれたが、幼いころから爺さん婆さんの手伝いをしていた俺としてはそんなに苦にならなかった。寧ろ懐かしささえ感じた。


(学校やバイトが忙しくてここ最近はあまり手伝えてなかったが、たまには手伝いに行くか)


そう心の中で誓いながら畑作業を進めていく。

そんなに広くもなかったので、あまり時間もかからなかったが、程よい疲労感と充実感に包まれていた。この世界では汗もかくようだ。


「ほれ、茶でも飲むかい?」


差し出してきたのは竹で作られた湯飲みだった。有り難く受け取って口をつけると、仄かな竹と茶の香りが。丸い切り株に座って自分が作業した場所を見ながらおいしいお茶を飲むのも良いものだ。あまり乗り気ではなかったが、農家のジョブが俺には合っているような気がしてくる。


「この畑に植えてる茶葉を使用しているんだよ」

「へぇ、ここで茶葉もつくっているんだな」

「そうだねぇ、色々と育てているよ。お前さんも今後も良かったらどうだい。手伝ってくれないかい?」

「ああ、別にいいぞ。時間がある時で良ければだけどな」

「もちろん構わないよ。じゃあ時間がある時に色々手伝ってもらおうかねぇ」

「ああ、分かったよ……っ!?」


俺が了承した時だった。俺の目の前に文字が浮かぶ。


『代理人の職業を得ました』


代理人?農民じゃないのか?

システムの事だと思うので、婆さんに聞いて答えてくれるかは分からないが、考えても答えは出ないので、とりあえず婆さんに尋ねることにした。


「なぁ婆さん。代理人って書かれてあるんだが、代理人って何なのかしってるか?」

「そうかい。代理人って出たのかい。私はここGardenを任されているからね。ここの手伝ってくれるんなら代理人って立場になったんじゃないかねぇ。まぁここの設備を使ってくれて問題ないから代理人でいいと思うよ」

「ちょっと待ってくれ。俺はてっきり畑仕事を手伝うだけだとばかり思っていたんだが」

「そうだね。基本その認識で構わんよ。他は荷物運びだったり、手伝いだったり、そんなところかねぇ」

「さっきも言ったが俺はいつも来れるわけじゃないぞ。いいのか?そんな奴が代理人で」

「だからこれはあくまでも代理人さ。お前さんもちょうどいいだろう。トラベラーになって日も浅いんだろう?」

「トラベラー?」

「ああ、お前さんたちの言葉では「リアルとゲーム」だったか?異なる世界を行き来する者の総称さ。この世界の者たちはお前さん達をそう呼んでいるよ」

「……」


途端に沸いてくる疑問。ゲームに詳しくない俺でもこの異常には流石に気づく。この婆さんは何者なんだ?

ゲームの存在が他の世界の事を知っている。柚たちがよく使う「リアル」という単語は現実の事だろう。ゲームのキャラがなんでリアルなんて言葉が使えるんだ。あらかじめプログラムされている訳がない。しかも、恐らくだが婆さんだけではない。他にもいるのだろう。俺たちをトラベラーと呼んでいる者達が。


「まぁ色々思うところはあるだろうが、とりあえずやってみないかい?日の浅いお前さんはログハウスなんて持っていないだろう?ここを使えばいいじゃないか」


こちらの疑問が伝わったのだろう。こちらを見る目はただ優しい。何かを企むような眼ではないと感じた。


(この婆さんには謎な部分が多い。だが俺はこの婆さんが何か悪い事を企むような人とは思えない。なら俺はこの感情に従う事にしよう)


そう考えると不思議と気が楽になる。知らないうちに手や肩にも力が入っていたらしい。はぁ、と息を吐いて力を抜いていく。


「分かった。やるよ、代理人」


そう言って、笑いながら手を差し出す。婆さんも嬉しそうに手を握ってくる。

俺はGaedenの代理人になった。

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