62話「ホームラン」
「おめでとうベルゼルム! おめでとうドラさん!」
このカップル成立を既成事実として成立させるべく、すぐさま駆け寄って祝福する俺。
照れつつも、毅然とした表情を繕っているベルゼルム。
「べ、別にっ、全然めでたくなんて……」
ドラゴンから人の姿になり、口をツンと尖らせつつ、顔が赤いドラゴニア。
状況についていけず、魔力が充填された杖を手持ち無沙汰に持って、ぼけーっと見ているルルイェ。
「タケタケ……そいつ殴りたいんだけど、いい?」
俺の背中をつついて、ルルイェがもじもじしながら言う。
「ダメだ。ひっこめろそれ」
「でも、せっかく魔力溜めたし……」
完全に流れに乗り損ね、振り上げた杖の下ろしどころがなくて困っているのは分かるが、そんな理由で「じゃあ一発だけ」ってわけにいくか。それ喰らったら下手すりゃ死ぬだろ。
「つーか今のままだとルルたん一人悪者だぞ?」
「えっ、なんで……?」
「そりゃおまえが、完全にラブコメに出てくる、女の子に絡むヤンキーと同じ立ち位置だからだよ」
「え? え?」
事情がまったく理解できておらず、可哀想なルルイェ。
そこへ、もう一人可哀想な立ち位置のヤツが現れた。
「閣下! これはどういう事ですかな!」
ザーマだ。
俺が知ってるあいつより顔がボコボコに変形しているが、どうにか元気そうで、魔王軍の残党を率いてきた。
「魔王様のご命令は、竜姫の討伐。それなのに閣下は、竜姫と手を結ぶおつもりか? これは立派な謀反ですぞ!」
ベルゼルムは、小さな人間の姿になったドラゴニアを優しく手のひらに載せると、立ち上がった。
「聞け、皆の者。今より俺は魔王軍から離反する!」
高らかにそう宣言した。
「正気ですか閣下! ……いや、謀反人ベルゼルム!」
「どうかな。恋は人を狂わせると聞くからな」
「くっ……。者どもかかれ! 謀反人を抹殺せよ!」
ザーマが吠えるが、兵たちは動かない。
「どうして貴様が指揮を執る。ベルゼルム様の副官は私だぞ」
俺も陣中でお世話になったデーモン族の男がたしなめた。
そして、ベルゼルムの側へと歩いてくる。
その後から、おそらく直属の部下たちであろう、魔王軍の兵士たちが従う。ごく少数ではあったが。
「我らはベルゼルム様に惚れ込み、旗下に入りました。これからも閣下に従います」
これに怒り心頭のザーマが命じた。
「皆殺しにしろーーー!!!」
残った魔王軍の兵たちが、剣を抜いて襲いかかってきた。
身構えるベルゼルム。
さっきから真っ直ぐ立ってていかにも平気そうに見せているが、実は背中に深手を負っている。ドラゴニアを庇って、ルルイェの一撃をまともに食らったからだ。
しかし、それでも戦う気だろう。惚れた女のために。
「ルルたん」
「なぁに?」
「それ、振り回してきていいぞ」
「? …………おう、わかった」
ルルイェはザーマたちの前へ進み出ると、無造作に杖をフルスイングした。
カキーーーーン。
そんな効果音が似合いそうな、見事なホームラン。
ザーマを含む魔王軍の兵士たちは、爆風と共に山の麓まで吹っ飛ばされていった。
「ふぅ……スッキリ」
「ごくろうさん」
俺は、落ちていた帽子を拾ってルルイェの頭に載せてやる。
「タケタケ」
「ん?」
「血が出てる。ケガした?」
「ああ、かすり傷程度だ」
バタン。
言いながら俺はうつ伏せに倒れた。
「タケタケ!?」
「安心したら気が抜けちまった。ははは、心配するな」
「心配するなじゃないでしょう」
ドラゴニアが俺を抱き上げていた。
美女特有の甘いいい香りがする。
「あなた、もう死にかけよ?」
あ、やっぱり?
血をだらだら流しながら、あっちこっち走り回ったからなぁ。
「うちに来なさい。治療してあげるわ」
「すいません……お世話になります」
「ルルも」
「?」
「……久しぶりに、うちに遊びに来なさいよ」
ドラゴニアがばつが悪そうに言うと、ルルイェはこくんと頷いた。
「ドラちゃんちのお風呂入りたい」
いつものルルたんが帰ってきたって感じ。
次回、
63話「約束されし温泉回」
ルルたん、お風呂大好きだから。




