57話「咆哮」
「死ぬがいい!」
俺が弱っているのを見越して、ザーマが仕留めにきた。
どうにか攻撃を防ぐが、吹っ飛ばされて、ドラゴニアの硬い鱗に後頭部を打ち付ける。
「……いってぇぇ~~~!? ドラゴンの鱗硬いよっ」
立ち上がろうとしてよろける。
ここは足場の悪い雪の上で、なおかつ斜面だ。うっかり転げ落ちたらやばい。
「……ほんとバカな人間ね」
「よく言われます……」
起き上がって、落としてしまった剣を拾いに行くが、そこへザーマがトドメを刺しにきた。
「貴様を殺した後で、竜姫もなぶり殺しにしてやる。俺の名はドラゴンスレイヤーとして歴史に刻まれるぞ!」
リザードマンのドラゴンスレイヤーとか、なんの冗談だよ。
そんな歴史にはしたくないが、足に力が入らない。
「……耳を塞いでなさい」
「?」
ドラゴニアの声が聞こえ、俺は言われた通りにした。
「すぅぅぅぅ…………ドラゴニア様を舐めるなぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
渾身の力を振り絞り、ドラゴニアが咆哮を上げた!
一瞬、炎のブレスを吐きかけられるのかと身構え、後ろに下がったザーマたちだったが、叫んだだけで何も起こらず拍子抜けする。
「……焦らせおって。負け犬の遠吠えだったか」
しかし、再びヤツがトドメの攻撃に出ようとした時、辺りから地響きが沸き起こった。
「な、なんだ?」
リザードマンは魔物とはいえ、元はトカゲだ。寒い土地は苦手だろう。故に、雪山に潜む危険を知らない。
突然起こった雪崩が、無防備なヤツらを飲み込んだ!
「おわぁっ……!?」
俺も飲まれそうになるが、ドラゴニアが尻尾を丸めて包み込み守ってくれた。
雪崩が収まると同時に、俺は跳躍した。
魔法で結界を張り、どうにかしのいでいたザーマに一撃を叩き込むために。
「ぐえっ」
頭部に打撃を受けたザーマは、トカゲらしく舌をでろんと出したまま気絶した。
「自分を殺そうとした相手にまで、情けをかける気?」
「現代っ子なんで、生き物を殺せないだけです。さっきはありがとうございました」
「私は私の身を守っただけよ。それに、まだピンチは続いているわ」
「あの様子じゃ、しばらくは襲ってこれないでしょ」
「魔王軍はね。……ルルが来るわ。そのために結界の出力を上げたんですもの」
ルルイェは、ザーマと連携してたわけじゃない。
「俺、ちょっと行ってきます」
「どこ行く気?」
「結界を壊してきます」
マル秘ポーションはあと一瓶残っている。どうにかなるだろう。
「そんな事をしたら、私がフルパワーになるわよ?」
「いいですよ別に。ドラさんは意地っ張りなだけで、結構優しいドラゴンじゃないですか」
「私の数々の伝説を知らないのかしら? 言っておくけど、今フルパワーになったら、ここら一帯に呪いを撒き散らして、魔王軍もあなたの仲間も構わず根絶やしにするわよ?」
「いや、しないです」
昔のドラゴニアは知らない。
でも、今のドラゴニアは、たぶんしない。
「だって、俺と同じマンガ読んで、泣いたり笑ったりしてたじゃないですか。そんな人に、できるわけないっすよ」
根拠と呼ぶにはあまりに希薄な、希望のようなもの。
実際ドラゴニアは、かつてこの地域に栄えていた王国を滅ぼしたそうだし。
でも俺は、俺の直感を信じ、山を下りていった。
後ろから、声が聞こえた。
「……わかってないじゃない。私は人じゃなくてドラゴンよ」
舐めてはいけない、十傑集とドラゴニア。
同じマンガを読んで笑って泣けば、みんな仲間さ!
次回、
58話「それぞれの戦い」
なんか真面目な小説みたいになってきた!




