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54話「四天王、倒れる」

 シノノメ・タケルが密書を携えてドラゴニアのところへ行って、三日が過ぎていた。

 その間ベルゼルムは、落ち着かない日々を過ごしていた。

 巨体で貧乏ゆすりを繰り返すものだから、地震かそれとも敵の大兵力が攻め込んできたのかと勘違いする兵が続出した。


「シノノメは何をやっているのだ……」


 そこへ、彼の副官が報告に来た。


「増援が到着しました」

「なに?」


 増援など頼んだ覚えはない。

 先日、ドラゴニアの襲撃を受けて、かなりの兵を消耗したが、この作戦そのものがベルゼルムの個人的感情による独断。

 そこへ、増援を送ってくるのはどういう事だ?

 ベルゼルムはテントを出て、援軍の指揮官を出迎えた。


「お久しぶりですなぁ、ベルゼルム閣下」

「ザーマか。先のドワーフとの攻防戦以来だな」


 ザーマはリザードマンの魔法戦士で、ベルゼルムのライバルである四天王の一人、魔人ワイヤードの腹心だった。


「何をしに参った。援軍など頼んでおらんぞ」

「竜姫ドラゴニアに相当手こずっているとの報告があり、魔王様直々にご命令くださったのです」

「なに、魔王様が?」


 嫌な予感がする。魔王陛下が直々に増援を送るだけでも不自然なのに、それを指揮するのがワイヤードの腹心であるザーマとは。

 もしや、裏切りを疑われているのではないだろうか?


「閣下は随分と竜姫にご執心なようで。ワイヤード様も心配しておいででした」

「心配にはおよばん。今、策を(ろう)しているところだ」

「ほう。それはどんな?」

「重要機密だ。話す事はできん」

「私は魔王様に報告をせねばならぬのですが?」

「すればよかろう。見聞きした事実をありのままにな」


 ベルゼルムにやましいところなど一つもない。

 しかしザーマはベルゼルムを、トカゲ頭の表情を読めない目つきで見つめる。


(どうにも好きになれんな、リザードマンは)


 ベルゼルムも魔族であるが、リザードマンよりはシノノメ・タケルのような人間の方がよほど親近感が持てた。

 そういう気質ゆえ、生粋の魔族であるワイヤードやザーマのような連中とは確執が絶えない。


「ただ、言っておく。ドラゴニアは俺の獲物だ。手出しはさせん」

「それは困りましたな。我々は竜姫を確実に仕留めるよう、魔王様から命じられているのですが」

「俺が仕留めると言っているのだ。この剣に賭けてな」

「……閣下にそれほどのお覚悟がおありなら、手出しはいたしますまい」


 含みがあるのかないのか読めないトカゲ顔で言うと、ザーマは(うやうや)しく(こうべ)を垂れた。

 後の対応は部下に任せ、ベルゼルムが再びテントに戻ろうとした時、急報が入った。


「ドラゴニアが現れました!」


 見ると、陽光に美しい銀の鱗を(きら)めかせ飛翔する、神話時代のドラゴンの姿が、ベルゼルムにも目視できた。


「おぉ、麗しの竜姫よ……我が想いに応えてくれるか!」


 彼はいてもたってもいられず、竜姫を迎えに走った。



   × × ×



 ドラゴンの爪に掴まれて空を飛ぶのは、本当に最悪だ。

 空中で胃の中の物を全部リバースしぐったりしていた俺を、ドラゴニアは上空三十メートルほどから地面へ投げ捨てた。


「うわぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~」


 ドラゴニアは知らないのだろう。人間は三十メートルの高さから落ちたら死ぬんだって事を。


「ドラさんのアホーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 ドラゴニアは急降下しながら人間の姿になり着地すると、遅れて降ってきた俺をキャッチした。


「誰がアホよ。殺すわよ」

「……さーせん。でも、地面に激突する前にうっかり心臓麻痺起こすかもしれないんで、せめて事前に降り方を告知しておいてください」


 知ったこっちゃないって態度で、ドラゴニアは俺を地面に放り出した。痛い。


「……ここは、魔王軍の陣地ですか」


 ドラゴニアは堂々と、魔王軍の陣地のど真ん中に着地していた。

 周囲を魔王軍の兵士が取り囲むが、手出しはしてこない。ベルゼルムが命じたのだろう。

 そこへ、山のような巨人が、地響きをたてながら走ってきた。


「あ、おーい、ベルゼルムーー」

「ハァ、ハァ……! シノノメ、事は為したか!」

「ああ、バッチリ!」


 俺は親指を立てて笑顔で答える。

 無事手紙を渡し、読んでもらった。

 ……ぽいって捨てられてしまったが。


 しかし、ドラゴニアはその返事のために、ここへ来た。

 ちゃんと告白し、きっぱりフラれれば、ベルゼルムも諦めて兵を退いてくれるはずだ。


「竜姫よ。今までの数々の非礼を詫びたい」


 ベルゼルムが、頭を下げた。

 ドラゴニアは退屈そうに髪の毛先を(もてあそ)んでいる。


「これ、読んだわよ」


 ドラゴニアが胸の谷間から、俺が渡した封書を出した。

 って、どこから出すんだ。封書がすっぽり収まるって、マーベラスすぎるだろうその巨乳。


「その図体で恋文とは、随分可愛らしい真似するのね」

「そっ、それは……ある人物のアドバイスを受けたものでっ……」


 ラブレターの事を部下たちの前で言われて、ベルゼルムは赤くなってあわあわする。


「して、お返事は……」


 ドラゴニアは小さくため息をついた。


「あのさぁ、こういうのやめてくれる? ウザいから」

「はぐあっっ!?」


 いかにも興味なさげに、ドラゴニアは手紙を放り捨てた。

 ヒラヒラと落ちていくラブレターが、俺にはスローモーションで見えた。


「陣を引き払ってさっさと帰ってちょうだいね」

「い……嫌だ! そなたを俺のものにするまでは帰らぬ!」


 ドラゴニアはまた大きなため息をつくと、地面でずっとへばっていた俺の首根っこを掴んで引っ張り上げた。

 そして、俺の顔をマーベラスな胸の谷間に押し込む。


「なっ……羨ましいぞシノノメ!」


 乳に圧迫されて息ができない。

 でも、死に方としては申し分ない。このまま安らかに逝こう。


「私、この人間と付き合ってるの」


 …………はい?


「いったいそれは……どういう意味だ竜姫よ」

「恋人はもういるって言ってるのよ」

「いやいや、待って待って! ドラさん、そりゃちがうでしょっ!」


 おっぱいから顔を出して、息継ぎしながら否定する。


「ちがわないわ」

「ちがいますって!」


 ドラゴニアにではなく、ベルゼルムに向けてアピールする。

 ベルゼルムの兜の中の血走った眼が、俺を凝視している。誤解を与えたままだと、この後殺される。


「まあ、この人間は見ての通り、私の愛を受け入れたくないらしいんだけど。だから魂の奴隷契約を結んで、無理矢理私の物にしたの。そうよね?」


 ドラゴニアが俺の左手のひらを開かせて、ベルゼルムに見せた。

 そこには奴隷の証、『反逆カウンター』が。


「そういうわけだから。ごめんなさいね~」

「……信じぬ。釣り合わぬではないか、その人間と竜姫とでは」

「あら、自分なら釣り合うって言いたいの? 勘弁してよ。これだからカンチガイ男は」

「ぐむううっ!?」


 ベルゼルムの膝が一瞬折れかけた。

 しかし、耐える。

 さすが魔王軍四天王。ただの男じゃない。


「証拠見せてあげるから、それで納得してね」


 ドラゴニアが俺の(あご)を持って、くいっと上に向かせた。


「な、なにをする気ですかドラさん……」

「あら、前にも一度したじゃない。熱いベーゼ」

「なにぃぃっ!?」


 ベルゼルムがついに血の涙を流した。


「ノーノー!」


 俺はレフェリーにまだギブアップじゃないとアピールするプロレスラーみたいに首を振った。


「いでえっ!?」


 手のひらに激痛が走る。『反逆カウンター』がカウントされているのだ。

 それでも俺は首を振る。

 激痛が連続して走った。


「あと何回残ってる? あなた、マジで死ぬわよ」

「……死ぬのは慣れてるんで」

「ふぅん」


 歯を食いしばって耐える俺を見つめるドラゴニアの瞳が、異様に温度を下げた。

 冷ややかな視線に、背筋に寒気が走る。


「……あら、ルルじゃない」


 いつの間にかルルイェも来ていて、俺たちのやりとりを見守っていた。


「ルルたん、助け――」


 助けを求めようとした瞬間、唇にあったかい感触が触れた。


「ン……ンン…………」


 あぁ……また唇を奪われちゃった……。


 ズドォォォォーーーーン!!!!!


 地響きと土煙が上がったと思ったら、ベルゼルムが気を失って倒れていた。

ついに倒れたベルゼルム。

ある意味、よくここまで耐えたと言ってあげたい。


安らかに眠れ!



次回、


55話「タブー」


タブー。それは、やっちゃいけない事。(そのまんま)

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