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転生奴隷と千年の魔女〈ハーミット・ウィッチ〉  作者: 紺野アスタ
第七章 古竜と魔将と魔女の戦場
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49話「密書」

「タケルよ。そなたは何がしたいのじゃ……?」


 ベルゼルムに恋愛指南した帰り道、ライリスは怪訝そうに尋ねた。


「魔王軍四天王の恋愛相談に乗るなど、意味が分からんぞ」

「それは成り行きだけど、光明は見えた」

「光明?」

「ああ。ルルたんとドラゴニアの戦いをやめさせるためのな」


 それが、俺の目的だった。


「ライリスも見ただろ、ルルたんとドラゴニアが本気で戦うとどうなるか」

「……あれは危険じゃ。もう人間世界の戦争どころではない。それに、なんとなくイヤじゃ。……魔女と竜姫が争うところは見とうない」


 だが、俺たちの力でふたりの戦いを止めるのは難しい。(あり)が人間のケンカに介入するようなものだ。

 でももし、ベルゼルムとドラゴニアの恋を実らせる事ができたら、この戦争は終わる。

 あとはルルイェを、ハンバーグをエサになだめれば丸く収まる。


 俺たちがテントに戻ってくると、ルルイェはまだアイデアノートとにらめっこしていた。


「まだやってたのか。頑張るなぁ」

「……もうすぐできる。そしたら、ドラちゃんをギャフンと言わせられる」


 俺とライリスは、無言で顔を見合わせる。

 ルルイェが新魔法を完成させる前に戦争を終わらせないと。


「ルルたん、飯食ったか?」

「……まだ」

「では食いにゆくぞ魔女! 美味い肉料理をたらふく食って、魔王軍の兵糧に打撃を与えるのじゃ!」

「……でも今はこれやる」

「いいのか? ライリスがおまえの分まで食っちまうぞ」

「……わっ、私はそんなはしたなくないっ」


 ライリスがコソコソと抗議してくるがスルーする。

 ルルイェをアイデアノートから引き離すための方便だし、ライリスは実際にルルイェの食べ物をよく食ってるので、一つもウソじゃない。


「分かったよ。残った野菜だけ持ってきてやる」

「……」


 野菜と聞いて、ルルイェが迷い始める。


「ルルたんの分は、ニンジン山盛りな。さ、行こうかライリス」

「うむ。今日はどんな肉料理かのう」

「……やっぱり行くっ」


 ルルイェはノートを閉じて追いかけてきた。

 時間稼ぎ作戦、まずは成功だった。




 こうして、ルルイェの新魔法開発を邪魔しつつ、俺たちは魔王軍の野営地でのんびり過ごした。

 顔見知りになった魔王軍の兵士に、アイシャさんたちの事を尋ねたが、それらしい目撃情報はないらしい。

 アイシャさんたちはともかく、ガイオーガが塔が倒れたくらいで死ぬはずがない。おそらくみんな無事で、どこかに身を潜めてるんだろう。


 そんなある日。俺はベルゼルムのテントへ呼ばれた。

 サーカスみたいな巨大なテントに俺が入ると、ベルゼルムは人払いをした。


「おまえの言う通り、手紙を送った」


 テントの外に聞こえないよう、ベルゼルムは声を潜める。

 先日俺は彼に、ドラゴニアに想いを伝えたのかと尋ねた。

 すると、


 ――まだだ!


 なぜか堂々とした返事。

 それだと、本当にただ殺し合いを仕掛けているだけだと思われているだろうから、まずはどういうつもりなのか伝えるべきだとアドバイスした。

 もし脈ありなら、すぐにでも戦争を終えられるかもしれない。

 その方法が手紙。つまりラブレターだ。


「それで、返事は来たのか?」

「密書として使者を送ったが、ことごとく焼き殺された。ドラゴニアの巣には誰も近づけない。ドラゴンの瞳は何者も(あざむ)けないからだ。……かくなる上は、俺自ら行くしかないな」

「まてまて、おまえが行ったら確実に戦いになるだろ」

「だが、他に方法がない」


 ベルゼルムは苦しそうに胸を押さえる。


「……もう無理だ。この想いを胸にとどめてはおけぬ。なのに、ドラゴニアめ、我が使者を会いもせずに焼き殺すとは。脈なしだ。やはり力尽くで手に入れるしかない!」

「早まるんじゃない! 教えただろう? ツンの後にはデレが来る。それが恋愛の掟(おやくそく)。信じるんだ!」

「くぅぅ…………!!!」


 ベルゼルムは拳を握りしめ、ツンの痛みに耐えた。


「俺が行く」

「……なに?」

「あんたの手紙は、俺が届けるよ」

「どうやって!」

「俺の姿は、ドラゴニアには見えないらしい。漂流者である俺は魔力を持たないからな」


 おそらくドラゴニアは、魔力で物を見る癖がついているんだろう。だから、普通に見れば見えている相手も意識しないで見逃す。

 あの日、俺の接近に気付かなかったのもそのせいだ。


「なに、心配はいらないさ。手紙を置いてさっさと帰ってくる。俺ももし見つかったらどうなるか分からないからな」


 ルルイェとあれだけガチなバトルをやらかした以上、俺も攻撃されるかもしれない。そしたら、なんの抵抗もできず一瞬で消し炭だ。


「……なぜ、俺のためにそこまでする」

「さあ、なんでだろうな。“ドラゴニアはビッチじゃない!”ってあんたの叫びに、胸を打たれたからかもしれない」

「そうか。……そなたの名前、まだ聞いていなかったな」

「タケル。シノノメ・タケルだ」

「よろしく頼んだぞ、タケル」


 俺は密書を携えてテントを出た。




「俺はいったい何をしているんだろうな……」


 銀竜の山の(いただき)に立ち、ふと我に返る。

 なんであんなゴツい巨人のラブレターを届けに、こんな場所まで命がけでこなきゃいかんのだろうと。

 本当にこれが、戦争を終わらせる事につながるんだろうか……。


「まあでも、そろそろドラゴニアの五キロメートル圏内に入らないと、タイムオーバーで死ぬ可能性あったしな」


 ここまでは、ベルゼルムの部下が送ってくれた。野良モンスターも出るので、護衛がいないと死ぬからと。

 火口に降りるためのマジックアイテムもくれた。ペガサスの羽だそうで、ふわふわと浮く事ができる。

 俺はそれを使って、火口へ降りていった。

 羽を残し、岩壁の裂け目へ入っていく。この奥に、ドラゴニアの巣があるはず。


「……扉だ。ドラゴニアは普段、人間の姿で過ごしてるのか」


 俺は音をたてず扉を開いて、中へと足を踏み入れた。

 薄暗い空洞の部屋。てっきり、財宝で溢れ返っているものと思っていた。

 だが、ちがう。

 だだっ広い空間は、もっと別の物で満たされていた。


 壁に並べられた本棚と、そこを埋める数万冊の本。

 その背表紙がやけにカラフルだ。

 本棚の間に飲み物が入った樽が設置されていて、片手で摘まんで食べられる食べ物もあった。


 図書館?

 というより、そう――


「なんでこんなところにマンガ喫茶が!?」

密書を運ぶミッション。(すいません)



次回、


50話「竜の巣」


タケルは恋のキューピッドになれるのか!

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