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転生奴隷と千年の魔女〈ハーミット・ウィッチ〉  作者: 紺野アスタ
第七章 古竜と魔将と魔女の戦場
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48話「四天王でも恋がしたい」

 どうにかドラゴニアを撃退したものの、ベルゼルムの軍勢は大ダメージを被っていた。


「ひでえ有様だな……」


 ドラゴンブレスに焼かれ、野営のテントの大半が焼失。兵もだいぶやられたようだ。

 その上、


「……ベルゼルム様はドラゴニアとの戦いで深手を負い、静養中にございます」


 総大将であり、魔王軍四天王の一人であるベルゼルムが深手を負ったという事実は、全軍の士気を大きく下げる事となった。




「ベルゼルムのヤツ、一人で森に入ってったって言ってたけど、どこ行ったんだ?」


 暗い夜の森を歩いていると、後ろから足音が追ってきた。


「タケル、どこへ行くのじゃ!」

「ライリスか。ちょっと野暮用があるんだ。テントに戻ってろよ」

「イヤじゃっ。周りは魔物ばかりなのじゃぞ! こ、心細いではないかっ」


 魔王軍の兵は今、相当ピリピリしている。


「ルルたんがいるだろ?」

「魔女ならテントの暗がりで魔道書を開いて、一人でぶつぶつ言っておる……」


 そういや、ドラゴニアをギャフンと言わせる魔法を開発中だと言ってた。まだ完成はしていないようだ。

 仕方なくライリスを連れて森を歩く。


「誰を捜しておるのじゃ?」

「ベルゼルム。ちょっと確かめたい事があって」

「……大丈夫なのか? 魔女抜きで会って。食われたりせぬか?」

「さぁ。食われるかもなぁ」

「ぬぐ……そなたのそれは勇気なのか、それともただのバカなのかどっちじゃ!」


 しばらく行くと、道が途中で大きな岩山にぶつかって途切れてしまった。


「行き止まりか」

「……もう帰ろう。話なら、明日でもよかろう?」

「でもなぁ、一人の時の方が話しやすいと思うんだよなぁ」

「いったい何を確かめる気なのじゃ」

「ベルゼルムってさぁ、もしかするとドラゴニアが好きなんじゃないかと思って」


 ゴゴゴゴッ……!!!


 突然、地面が揺れた。


「な、なんじゃ、地震か!?」


 地響きと共に、道を塞いでいた大きな岩山がどんどん盛り上がっていく。


「あわわわ……」


 巨大な影を見上げて、ライリスが半泣きになって俺にしがみつく。

 俺は一応、ライリスを背中に庇う。


「……岩山じゃなくてベルゼルムだったのか!」


 立ち上がったベルゼルムは、俺たちをギロッと見下ろした。


「貴様、どうしてそれを知っている」

「それとは……?」

「お、俺の…………ドラゴニアへの気持ちだ」

「あ、やっぱそうなんだ」

「ち、ちがうっ! あんな凶暴な女の事なんか、なんとも思ってないんだからね!」


 わたわたと身振り手振りを交えてごまかすが、なにせあの巨体なので、それだけで俺とライリスにとっては命の危機だった。


「でも、俺がビッチって思えって言ったら、必死になって違うって言い張ってたじゃん」

「ドラゴニアは断じてビッチなどではない!」


 ズドン!


 ベルゼルムが足を踏み下ろし、反動で俺とライリスは地面から跳ね上がった。


「それに、深手を負ったって聞いたけど、あんた今日ほとんどダメージ受けてないよな? その深手ってさぁ……」

「言うな!」


 ベルゼルムが必死な声で俺の言葉を遮った。


「……頼む、言わないでくれ。思い出すと死にたくなる」


 好きな女の子から「キモい」だの「ばっちぃ」だの「近寄らないで」だのと言われた心の傷こそが、ベルゼルムが負った深手の正体だったのだ。


「だからこんな場所で、一人で三角座りして岩山の真似してたのか」


 全てバレてしまい、ベルゼルムは取り繕うのをやめた。

 俺たちに背中を向け、また三角座りをする。


「なぁ、好きなのになんで戦争してるんだ?」

「異な事を言う。好きな女を手に入れるために決まっているだろう」

「いやいや、全然決まってないから。もしかして、戦いに勝てば自分の物になるとか思ってるのか?」

「当然だ。財宝も地位も名誉も、そして女も、力尽くで手に入れる!」


 あり得ない。

 と思ってしまうが、こっちの世界じゃ普通なのかもしれない。

 ちょうどこっちの世界の女子がここにいるので尋ねてみる。


「なぁ、ライリスはどう思う?」

「戦争で女を奪い合うなど、よくある話じゃ。それに女とは、想いのまま強引に奪われたいと望むものじゃしな。……わっ、私は違うがな!」


 ベルゼルムの表情は兜のせいでほとんど見えないが「ほらみろ」って顔をしているのは分かった。


「※ただしイケメンに限る」


 ライリスが一言付け足すと、ベルゼルムはよろめいて血を吐いた。


「ぐはぁっ!? ……あ、新たな傷が」

「今私は、魔王軍四天王に痛手を与えたのか?」

「ああ、そうみたい。もしかすると一生消えないダメージかもな」

「くふふ、帰ったら父上に自慢するぞ。褒めてくださるにちがいない!」

「そうだね、よかったね」


 時に言葉は、魔剣の刃よりも鋭い武器になる。

 ミスリルのフルプレートをまとった巨人を倒すには、女子のデリカシーのない一言が一番効果的なのかもしれなかった。


「ハァ、ハァ……どうせ振り向かせられないなら、力尽くで奪おうではないか!」

「それで奪えるのは体まで。心は遠ざかる一方だぞ」

「ぐぬ…………心だと?」

「そう、心」

「……先ほどから知った風な口を利くが、おまえがそれほど女にモテるようには見えんぞ!」


 ベルゼルムめ、魔王軍四天王だかなんだか知らんが、その程度の常套句で俺にダメージを与えられると思ったら大間違いだ。

 先日俺は脱童貞(と同等であると俺が勝手に考えている行為を)したし、ファーストキスも済ませた。

 それに俺は、恋愛経験なら豊富な方だ。


「言っとくけど、今まで俺が付き合った女の数は十や二十じゃ済まないぜ」

「なん……だと……?」


 ベルゼルムが俺の顔を覗き込む。


「……とてもそうは見えんが。人間は我らと美意識が異なるのか」


 失敬なヤツめ。


「いや、そう変わらんと思う。ドラゴニアが美人に見えるのは同じだし」

「ではいったい、その顔でどうやって……」


 本当に失敬なヤツだな。


「ふふふ、知りたいか? 女を落とすテクニックを」

「ぐっ……」


 ベルゼルムは苦渋の選択を迫られていた。

 魔王軍四天王ともあろう者が、何者でもないただの人間の若造に、頭を下げるのだ。


「……俺は今日まで、武人としての道を邁進してきた。色恋にうつつを抜かすなどもっての他。ただ強くなる事だけを考えて生きてきた。だから今、魔王軍四天王の一角を任されている。だが……出逢ってしまった。自分の全てを賭けてでも手に入れたい女と……」

「惚れちまったんだな。分かるよ、その気持ち。俺もさっき、十や二十じゃ済まないと言ったが、その全てが本気の恋だった。二次元と三次元、ゲームとリアル。画面という超えられない壁に苦しみながら、それでも物語が終わるその瞬間まで、俺は彼女たちに本気で恋してたんだ」


 VRはもしかすると、次元の隔たりを超えさせてくれるかもしれないと期待した。けど、その技術が社会へ普及する前に、俺はこっちの世界へ来てしまった。


「指南してやるよ。恋愛(ギャル)ゲーマスターのこの俺が、真の純愛ってヤツを!」

「遊びの恋はしない」(byタケル)


これ書きながら「次元の壁乗り越えて~♪」と歌ってました。

好きです、デンキ街の本屋さん。



次回、


49話「密書」


どうやらイケメンじゃないらしいベルゼルムの恋の行方は!?

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