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転生奴隷と千年の魔女〈ハーミット・ウィッチ〉  作者: 紺野アスタ
第七章 古竜と魔将と魔女の戦場
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46話「もし泣いて謝ったら、許してあげてもいい」

「どういうつもりだよ、ルルたん!」

「はむはむ……ぷいっ」


 ベルゼルムに歓待を受けた俺たちは、まずは温かい飯にありついていた。


「そうじゃぞ魔女! もぐもぐ……そなた……そのうち天罰が下るぞ、はむはむ!」


 魔王軍の飯をたらふく食べながら天罰がどうとか言われても説得力はないが、ライリスは昨晩のマズいおかゆがよほど口に合わなかったんだろう。

 かくいう俺も、戦場にしては豪勢な食事を遠慮なく食っていた。


「……ちゃんと考えがある」


 むすっとしながら、ルルイェが言う。


「これはドラちゃんをやっつけるチャンス。ギッタンギッタンにする。もし泣いて謝ったら、許してあげてもいい……はむ」

「もともとは、ドラゴニアから魔王軍を追っ払ってくれって頼まれたんだろ? あっちと組めばいいじゃないか」

「やだ」

「なんで」

「ドラちゃんは人の嫌がる事しかしない性格のねじ曲がった最悪なドラゴンだから、約束をきっと守らない」

「約束って、なんかあったっけ?」

「……もぐもぐ」


 肉を咀嚼しながら、ルルイェはじとっと俺を見る。


「タケルの事じゃろう。奴隷契約を奪われたままじゃ」

「あー俺か」


 色々ありすぎてすっかり忘れていた。

 たしかにあのドラゴニアが、素直にルルイェに奴隷契約書を返すとも思えない。

 取り戻してもらえないと、困るのは俺だ。これからずっと、ドラゴニアの傍にいなきゃいけなくなる。


「……まてよ。それはそれで悪くない人生かも」


 マーベラスなバストの谷間を思い出してつぶやく俺を睨みながら、ルルイェが決然と言う。


「ドラちゃんやっつける」

「まあ、邪悪なドラゴンと魔王軍を戦わせるのは、我ら光の軍勢にとっても有利じゃが……。お主、本当によいのか?」

「?」

「竜姫はお主にとって、数少ない同類であろう」

「……」


 ルルイェは無表情で食事を続ける。


「別にいい。……と思う」


 歯切れの悪い答えに、迷いが垣間見えた。


「それに、ドラちゃんやっつける理由は、もう一つある」

「なんだ?」

「ドラちゃんは、お金持ち。たんまり財宝を隠してる」

「あー、金借りるのか」


 ドラゴンは財宝を溜め込むと相場が決まっている。

 ほんの一部でも分けてもらえれば、領主がふっかけてきた通行税を払っておつりがくるだろう。


「ううん、()る」

「おまえはまたそういう発想か!? 人の物を盗っちゃダメだって、いい加減学習しろっ」

「はううっ」

「……ドラゴンは自らが集めた財宝に、とてつもなく執着すると聞くぞ。そんな事をして、バレたら殺されるのではないか……?」

「平気。前もバレなかった」

「前も……?」


 ルルイェは得意げな顔でまな板のような胸を反らした。


「ずっと前。ドラちゃんが寝てる間にこっそり家に入って財宝を盗ってきたけど、気付かなかった」

「なあ、ルルたん。もしかしておまえが持ってるお金って、全部ドラゴニアから失敬してきたんじゃないだろうな?」

「……?」


 そうですが何か? みたいな顔をされた。

 だよなぁ……。ルルイェはガチのヒキニートなんだから、働いてるわけないよなぁ。


「はむはむ……完璧な計画」


 ルルイェは自信ありげに言うのだった。




「歓待って言いながら、ベルゼルムは来なかったな」


 魔王軍の武将がずらっといる中で飯を食わせてもらってきたが、ベルゼルムはいなかった。


「ベルゼルム様はあの巨体ゆえ、お食事をご一緒できません」


 俺たちをテントへ案内してくれていた、ベルゼルムの副官の男が言う。紳士的な振る舞いで、見た目はひょろっと弱そうだがデーモン族の一種なんだとか。


「それに、少々体調を崩されておりまして」

「あー、ルルたんにかけられた魔法がまだ効いてるのか」


 腹を下したままじゃ、宴席に着くのは辛かろう。


「ミスリルの鎧をまとったベルゼルム様に魔法をかけるとは、さすがでございます」


 ルルイェが、ムフンと胸を張る。

 ミスリルには魔法を弾く効果があるんだろう。ガイオーガにもルルイェの魔法は通じるし、そこらへんの魔法使いとは格が違うって事なんだろう。


「それなのに、なんでこんなに残念なんだろうな。すごい力を持ってても、使い方次第ってのがよくわかるよ」

「……?」


 俺たち専用のテントには、ふかふかのベッドまであった。


「おのれ魔王軍め……略奪した物資で贅沢しおって!」


 文句を言いながらライリスはベッドに飛び込んだ。


「私が有効利用する事で、少しでも魔王軍にダメージを与えるのじゃ!」


 ふかふかベッドでごろごろしながら言う。

 物は言い様だが、姫様には昨晩の野宿が辛かったらしい。


「ルルたんどこいった?」

「魔女なら、外で何かやっておったぞ」


 テントから出てみると、ルルイェはウッドゴーレムに……


「……おい、なにしてる?」

「……」


 ウッドゴーレムに彫刻を施していた。

 百体を一つずつなんらかのモンスターの姿にしていく。

 とくに口のディテールにこだわっている。パカパカと開いたり閉じたりするギミックを施していた。


「さては、飯を食うゴーレムを作る気か! 無駄どころか、ゴーレムに飯食われちゃ、俺らの分がなくなるからやめてくれっ」

「……大丈夫。飲み込んだのを取り出せば食べられるから」


 パカッ。お腹のパーツが開いて、中に空洞がある。


「ゴーレムが一度食った物を食えと」


 こくん。肯定。


 絶対に嫌だ。

 このゴーレムたち、ルルイェが寝てる間に全部燃やしてやろうか……。

ライリス「そのゴーレムは食事はしても、トイレにはゆかぬのじゃな」

タケル「おいぃぃぃ!! 余計な事言うんじゃないっっ!!!!」

ルルイェ「……(その手があったか)」


ゴーレムのお尻から出てきた物を食べさせられるタケル。


……という展開にならなくてよかったね。



次回、


47話「暁の襲撃者」


ごはんを食べるゴーレム軍団の活躍なるか!

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