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転生奴隷と千年の魔女〈ハーミット・ウィッチ〉  作者: 紺野アスタ
第七章 古竜と魔将と魔女の戦場
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45話「結託」

 朝起きると、ルルイェはものすごい勢いで森を伐採していた。

 ルルイェが大木の幹に手を触れ、もにょもにょと呪文を唱えると、木が内部から爆ぜて倒れる。

 その方法でルルイェは、すでに数十本の木を倒していた。


「朝から何やってんだルルたん」

「……木を切ってる」

「それは見りゃ分かるが……。木がないと魔王軍に見つかるぞ。っていうか、音どうにかならないか」

「……」


 そんなの知ったこっちゃないって態度で、ルルイェは伐採を続けた。

 目立つ大きな木をあらかた切り終えると、今度はそれらに向かって別の呪文を唱える。

 すると、大木がベキベキッと音をたてて崩れ、中から人型をした木人形が出てきた。


「何この気味悪い人形……」

「ウッドゴーレム」


 イラストレーターさんが持っているデッサン人形を巨大にしたようなものが、次々と生まれてくる。


「なっ、なんじゃこやつらはっ」


 騒ぎで飛び起きたライリスがもう半泣きになっている。

 サイズは元の木によるが、おおよそ身長二メートルほどのウッドゴーレムが百体ほど生み出された。


「えらく簡単に作れるんだな」

「……うん」


 しかしルルイェは納得いかない様子だ。

 きっと内心で、「こんな毛の一本も生えていないようなのはゴーレムじゃない……」と思ってるんじゃないだろうか。俺にはこっちの方がゴーレムっぽく見えるが。

 即席ゴーレムを大量生産した理由は、なんだろうか。


「もしや、こいつらを使って、魔王軍の中を突っ切るつもりか」


 こくん。肯定。


「だそうだ」

「私はここで留守番をしててよいかのう……」

「今の騒ぎを聞いて魔王軍が来ちゃうだろうけど、いいのか?」

「イヤじゃっ」


 ウッドゴーレムの一体がライリスを担ぎ上げた。


「わっ、わっ、なにをするのじゃっ、タケル助けろっ、食べられるぅ~」

「ゴーレムは飯を食わないから安心しろ」

「……」

「おいルルたん。なんで“その手があったか”みたいな顔してる? 毛の次は飯を食うゴーレムを造ろうとか思ってる?」

「……うん」


 うんじゃねーよ。

 だから、そのこだわりにどんな意味があるんだ。


 俺とルルイェも、ライリスみたいにウッドゴーレムに担がれると、百体のゴーレム部隊は進軍を開始した。




「おお~、強い強い!」


 ウッドゴーレムたちはスクラムを組んで、魔王軍の陣地を突破していった。

 飛び道具や上から来る敵は、ルルイェが魔法で払いのける。

 魔法攻撃に至っては、ルルイェの結界が弾き返し、術者自身を襲うという有様だった。


「……魔女、恐るべしじゃのう」


 ライリスがしみじみと言う。

 この魔女をライリスたちリーン王国は、敵に回そうとしているわけだが。


 しかし、こんな戦術が通じるのは雑魚だけだ。

 ほどなくして、巨大な影が行く手に立ち塞がった。


「ルルたん、出たっ、ベルゼルム!」

「に、逃げた方がよいのではないか魔女よ! ていうか逃げよう!?」

「……」


 百体のウッドゴーレムも、ベルゼルムの大剣の一振りでおしまいだ。


「止まるの」


 ルルイェがウッドゴーレム部隊に命じた。

 魔王軍の軍勢は俺たちから距離を空け、隊列を組み直しつつ包囲する。

 広々とした平原で、俺たちとベルゼルムは睨み合った。


「そちらから出てくるとは、よほど竜姫の事が気がかりと見える」

「……」

「だが、ここから先へは通さん!」


 ベルゼルムが剣を抜いた。


「た、タケルぅ」

「大丈夫だ……。いざとなったら逃げればいい」


 内心でびびりながら、俺はルルイェからもらったマル秘ポーションをいつでも飲めるように握った。

 ポーションの小瓶はあと三本ある。材料が足りず、これだけしか作れなかった。

 三本とも飲んで最長十五分。ライリスとルルイェを守りつつ戦場から脱出するには足りないかもしれない。


「用があるのはあなた」

「なに? 俺に会いに来たというのか。……なるほど、昨日の決着を付けたいのだな、よかろう!」


 ふるふる。否定。


「……違うのか。ならば聞こう。何用だ」

「あなた、結構やる」

「……む」


 急に褒められて、ベルゼルムがまんざらでもない顔をする。


「おまえもな」


 と、ベルゼルムは鎧の上から腹をさするような仕草をして見せた。

 ルルイェは昨晩、ベルゼルムに下痢になる魔法をかけたと言っていたが、どうやら効果があったようだ。

 あの巨体で腹を下したら、大変そうだな……。

 鎧脱ぐのも大変そうだし。

 もしかすると、直接的な攻撃魔法を受けるよりインパクトがあったかもしれない。

 とにかく、ふたりは睨み合いながら、謎の解り合った感を醸し出していた。


「それを言うために、わざわざ来たのか」


 ふるふる。否定。


「ではやはり、再戦を望むか!」


 ベルゼルムが大剣の柄に手をかける。

 だが、ルルイェは首を振り否定する。


「ではなんだ……!」

「ドラちゃんやっつけるのに、わたしも手を貸す」


「「え?」」


 俺とベルゼルムの声がキレイにハモった。


「あなた、結構やる。わたしが手伝ったら、ドラちゃんやっつけられる」

「ターーイム!」


 俺は手でTの字を作って、ルルイェをこっちに向かせた。


「おいぃぃ、何言い出すんだルルたん!!!」

「?」

「そうじゃぞ魔女! 魔王軍と手を組むなど神への反逆じゃっ不道徳じゃっっ」

「??」


 きょとんとした顔しやがって……。


「よかろう」


 ベルゼルムはそう答えると、剣を収めてしまった。


「いや、あの、まだこっちの話し合いが……」

「今よりおまえたちは客人だ。もてなそう」


 なんだか事態は思わぬ方向へと転がり始めているようだった。

そっちと結託するのかよっ!



次回、


46話「もし泣いて謝ったら、許してあげてもいい」


お楽しみに~。

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