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41話「魔将ベルゼルム」

 伝説の銀竜、竜姫ドラゴニアが棲む山は、その名にふさわしい白銀の雪をまとっていた。

 しかしあの山は火山であり、かつては火を噴いた事もある。

 その火口の奥深くに古竜の巣はあるというが、たどり着いた者はいない。少なくとも人間では。


 遙かいにしえの時代、この一帯には人間の国があり栄えていた。

 だが、王の振るまいが竜姫(りゅうき)の逆鱗に触れ、滅ぼされた。

 棲む者のいなくなった後は、ドラゴンの邪悪な気によって魔物が集まってきた。

 ドラゴンは孤高の存在だが、そういった魔物を巣の近くに集める事で、門番代わりにするのはよくある事だった。


 だが、今その門番たちはあらかた駆逐され、聖域とも言うべき竜の巣が侵されようとしていた――魔王の軍勢によって。


「ベルゼルム様、結界にほころびが生じております。すぐに修復に向かわせましたが、おそらく竜姫が抵抗しているものと」


 森を切り開き作らせた、宮殿のごとき巨大な天幕の中で、ベルゼルムは部下の報告を聞いていた。


「さすがはエンシェント・ドラゴン。たやすくは落ちぬか。だが、それも時間の問題よ」


 ベルゼルムがここに陣取って、すでに一年が過ぎている。

 彼は、邪魔な野良モンスターを駆除しながら山脈を覆うほどの大結界を構築した。それにより、ドラゴニアは力の多くを封じられている。


「……苦しかろう、竜姫よ。苦しみから逃れるために外に出てきた時が、貴様の最期だ」


 美しい竜姫の顔が敗北に曇る様子を思い浮かべ、ベルゼルムは残忍極まりない笑みを口元に浮かべる。

 その日は、確実に近づきつつあるのだ。

 だが、そんな彼の楽しい思索を邪魔する急報が、周辺地域を警戒していた兵によってもたらされた。


「ベルゼルム様っ、大変です!」

「どうした。ドラゴニアがもう音を上げたか?」


 それでは面白くない。まだまだ苦しんでもらわねば。

 そう思い報告を促すと、兵士は震える声で言った。


「ち……沈黙の魔女が現れました!」

「なんだと?」


 沈黙の魔女。またの名を、千年の魔女。

 古き者の一人とされ、竜姫ドラゴニアと並び称される伝説の存在だった。


「魔女がいったいなんの用だ」

「分かりません……。守備に当たっていた部隊を蹴散らしながら、銀竜の山へ迫っております!」

「沈黙の魔女が竜姫の元へ……だと」


 かの魔女が千年の沈黙を破り動いたという報告は、ベルゼルムも受けていた。

 その隙に魔王軍は、リーン王国の防衛の要であるイルファーレンを急襲したが、王国はクリスタルドラゴンを蘇らせ迎え撃とうとした。

 沈黙の魔女はそのクリスタルドラゴンを、街一つを消し去るほどの威力の魔法で木っ端微塵にしたという話だ。……どこまで本当かは分からないが。


「ベルゼルム様。もしや、結界のほころびと関係が……」

「竜姫め、助けを求めたか。面白い」


 口ではそう言いながら、ベルゼルムは内心でドキドキしていた。

 竜姫と魔女、同時に相手して大丈夫だろうか……と。



   × × ×



 ルルイェの歩く塔は、歩調を上げてドラゴニアの家があるという銀竜の山を目指していた。


「寒くなってきたな……」


 塔の屋上に出て景色を眺めていたのだが、吐く息が白い。

 緩やかな坂道を何日も登ってきた気がする。おそらくすでにそれなりの標高に達しているんだろう。


「山の峰に雪が積もってて、なんか富士山みたいだ」


 俺が故郷の事を思って懐かしんでいると、横にいたライリスが顔をあげた。


「雪? あれがそうなのか? 冷たくてふわふわしておるのじゃろう」

「ライリスは雪を見るのは初めてか」

「ぬ……自分はどうなのじゃ」

「中学の修学旅行でスキーに行ったからな。ボーゲンならすでにマスター済みだ」

「また自慢か。フンッ」


 面白くなさそうに、ライリスは鼻を鳴らす。

 こっちの世界の人間側の国々で圧倒的最大勢力を誇るリーン王国の第二王女としては、俺の話す“ニッポン”に対してライバル心を持っているらしい。


「私が女王の座に就いたら、そなたの国など攻め滅ぼして属国にしてやる」


 威勢のいい話だ。もしそれができるなら、俺も元の世界に帰れるってことになる。別に帰りたくないけど。


 ぼーっとしている俺の目の前に、矢が飛んできた。


「おっと。危ないですよ、タケル殿」


 矢をアイシャさんが短剣で斬り落とす。

 ……今のはヒヤッとした。


「うざいな、あいつら」


 塔の足下には、魔王軍がいた。

 竜姫ドラゴニアの棲む山を包囲して、攻撃している連中らしい。

 突然現れたこの塔によじ登ろうとしたり、矢を撃ってきたりしているが、今のところ効果はない。


「なぜ魔王軍とドラゴンが戦争しておるのじゃ? 同じ魔物同士じゃろう」

「さぁ、どうしてでしょうね。竜姫が最後に出現したのは四百年ほど昔。この地にあった人間の王国を滅ぼした時です。以来、ずっと眠りについていると言われていました」

「わざわざ起こしてまで戦いを挑むなど、意味が分からんのう」

「そうまでして戦う理由があるとすれば、後顧(こうこ)の憂いを絶つためか」


 ノリノリで出兵している最中に、背後で突然目覚められると面倒だ。


「そうかもですね。ドラゴンは孤高の存在ですから、同じ魔物だからって、魔王軍と馴れ合う事はありえません」


 いずれ目を覚ませば戦いになる。

 ならば今のうちに、と考えたのかもしれない。


「他にエンシェント・ドラゴンっているんですか?」

「破壊の使者、赤竜サラマンダラ。海底の支配者、青竜クラーケン。ネガティブ思考で世界を毒に染める、黒竜ネイ。善なる魔竜、金竜サージャン……。我々の伝承に残るエンシェント・ドラゴンはドラゴニア様を含めて五人です」

「そんなにいるの!? よく世界滅びないな!」

「今でも世界に残るエンシェント・ドラゴンは、おそらくドラゴニア様お一人だけですよ」

「あ、そうなんだ。他のエンシェント・ドラゴンはどこいったんです?」


 めちゃめちゃ強くて不老不死。そうそう死ぬとも思えないが。


「神話に残る大戦によって退治された竜もいますが、大半は別の世界へと旅立っていったようです」


 どこだよ、別の世界って。

 と言いたいところだが、俺がその別の世界から来たので、他にもあるんだろう。知らんけど。


「元々世界の(ひず)みである彼らは、この世界では生きにくいのです。狭い世界では、強すぎる力を持て余すのでしょう」

「では、なぜドラゴニアだけ残っておるのじゃ?」

「それは……どうしてでしょうね。謎です」

「フンッ。生きづらいのなら、さっさと出て行けばよいものを……。迷惑な魔物じゃ」


 ライリスのぼやきを聞きながら、俺はふと思った。


 じゃあ、あいつはどうなんだろう?


 沈黙の魔女と呼ばれる伝説の存在。

 同じく、世界のサイズに見合わぬ力を持つがゆえに、生きにくそうにしている。

 あいつもそのうち、どこか別の世界へ旅立って行くのだろうか……?


 また矢が飛んできた。


「あぶねっ」

「そろそろ魔王軍の本陣に近くなり、攻撃も激しくなってきています。中へ入っていましょう」

「そうっすね」


 偶然ここまで届いた矢に当たって死ぬのはイヤだった。

新たなる敵っぽいのが出てきて、いよいよ話が転がり始めるっぽい!(ぽいばっかり)



次回、


42話「遭遇」


お楽しみに~。

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