ある日の午後
ミーンミーン ジリリリリ ミーンミーン ジリリリリ
蝉が求愛活動に明け暮れている頃、私もあの人を意識し始めていたのだ。
職場にいる若い女性達に劣らない程度の綺麗な服装で
化粧は薄めにして目の大きさを引き立てて
職場で着るジャージも新調し
どの角度からでも可愛くなるよう、不細工な顔は作らぬよう意識していた。
午後の仕事が終わると研修があり、近所の他校へ数枚で向かう。自転車組と徒歩電車組に分かれ、私の場合は近所だったのであの人と一緒に自転車で向かうことになった。
あの人の自転車は流行りのロードレーサーで、乗っている姿もかっこよかった。
私はというと、最近娘が小学校に上がったということもあり、自転車の後ろカゴを取ってはいたが何処からどうみてもママチャリだった。
若い人たちは、みんなロードレーサーを使っているのに私は単に乗れればいいというわけでもなかったので、それしか選べなかった。
正門の辺りで待ってくれているあの人は、どこかコミカルに怒っている風だが、時計を人差し指で叩くフリをして早く行こうと私に知らせてくる。
本当に早く行きたいのか、それとも照れてそんな表情を使っているのか、実際にはわからなかったが何だかワクワクした。
早速自転車置き場から持ってきたママチャリに乗り、2人で出張先へ向かった。そんなに離れた場所ではなく、2kmくらい先の大きな道路を越えた所だった。
「ここかぁ。」
私は子どもが小さい事を理由に近所の職場で働いていたので、どこも見慣れた光景である。
思っていたよりも30分早く到着したため、時間を持て余してしまった。
あの人はキョロキョロしながら、
「なんか暇だなー。カラオケでも行きたいなー。」
とボソッと呟いた。
あの人と2人でカラオケ!
突然の彼の発言に胸がドキンとした。
子どもも居るし、私の方が4歳も年上だし、いいのであろうか。
許容範囲内なのだろうか。
2人で過ごすなんてことができるのなら、いっそキスとか‥‥‥。
なんて考えていたら、
「ちょっと散歩でもしましょっか!」
と、また明るい調子で話しかけてきた。
そして汗も出てくるこんなに暑い午後に出張先で2人で涼めばいいものの、近所の公園を歩くことにした。
どんな会話だったのかも覚えていない。
会話があったのかすら覚えていない。
あのドキドキした雰囲気。
ちょっとだけいい感じのベンチにでも腰をかけて時間を持て余しているならキスでもしちゃいそうなくらいの雰囲気だったことは確かだった。
あっという間に15分くらいすぎてしまい、研修に向かうことにした。2人で早く出たのに、2人だけ遅れてくるというのも、なんだか2人の関係を怪しまれそうだったので、お互い気を遣って早めに向かった。
その日のドキドキは、誰にも見つかる事なく私の胸の中にしまうことにした。
もっと一緒に居たいという気持ちを抑えて、次に2人で過ごす夢を見ながら悶々とする夜を迎えるのであった。




