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第一話 馴れ初め

本編とは全く違う、文章の書き方とかほぼ無視した感じでお送りします。

かなりフザけた内容なので、軽いノリが大丈夫な方だけお読みください←

 星の月十日、晴れ。


 いつもと変わりなく、丘の上の城へ入った僕は、いつもと変わりなく、ひたすら追われていた。


「中庭の方だ! 急げ!」


 間抜けな奴らめ。これだけの人数で徒党を組んでも、僕という人間一人捕らえることができないなんて。

 あいつらは、ティル・ナ・ノーグ天馬騎士団。

 城塞都市ティル・ナ・ノーグの領主であり、僕が今居るこのブランネージュ城の城主でもある、ノイシュ公爵お抱えの騎士団だ。

 王国内じゃ、“アーガトラム王国最強の常備軍”なんて言われているらしいが、僕に言わせればそんなものはただの××××(情操教育に相応しくない言語が使用されたため、一部の表現が削除されました)だ。

 だってそうだろう?

 いくら他国との小競り合いがうまくても、自陣に入り込んだたった一人の敵すら駆逐できないようじゃ、烏合の衆だと罵られても、反論の余地なんてないじゃないか。


『――おい』


 間抜け面を並べて城内を走り回る有象無象を見下ろしながら、僕はにやりとほくそ笑んでいた。


『――おい!』


 しばらくは、色めき立ったあいつらの顔を拝みながら、休憩といくか。


『聞いとんのか、コラ!』


 ――うるさいなあ。


『うるさいことあるか、ボケ!』


 両耳を手で覆った僕が振り返ると、そこにはいつもと変わりなく眉間に皺を刻んで僕を睨む、相棒の姿があった。

 こいつはスクイド。“完全無欠の大怪盗”と名高い僕に、いつも何かと世話を焼こうとする、おせっかいの精霊だ。

 こいつとの関係を一言で表すとするなら、最も相応しい言葉は、そう――“親分と子分”だ。


『誰がお前の子分や! “契約”する勇気も持ち合わせとらんお前に、子分呼ばわりされる筋合いなんぞ無いわ!』


 何を馬鹿な。

 僕がこいつと契約を交わさなかったのは、魔法使いになるためのリスクを背負ってまで、魔法の力が欲しいと考えなかっただけのことだ。

 妖精や精霊の力を操る術――つまり“魔法”を手に入れるためには、彼らの差し出した理不尽な条件を一方的に受け入れなければならないというルールがある。それは、どれもこれもまともな人間として生きることを辞めなくてはならないようなものばかりで、当然のことながら、その理不尽な条件を受け入れてまで魔法使いになることを選ぶ奴なんて、そうそう居るものではない。

 要するに僕は、多数派の意見に乗っかっただけにすぎないのだ。

 意図して奇跡を呼ぶことのできる魔法の力というものに、決して魅力を感じないわけではないが、今の僕に魔法を習得する必要性はない。何故ならば、そんな怪しげな力なんかに頼らなくても、僕という人間なら、完璧に“怪盗”をやり抜けるからだ。

 その証拠に、僕はこれまで何度かこの城に盗みに入っているが、一度もヘマをやらかしたことがない。


『――おい、待て待て待て。どっから突っ込んだらええんや、今の! 都合のええことだけ何もかも全部忘れよって……』


 それは何より、僕という存在が、怪盗の申し子とでも言うべき類稀な才能を持って生まれてきたからに他ならない。


『簡単な脳味噌に生まれてきたおかげで、お前は幸せやのぉ……』


 うるさい奴だ。

 よく喋る精霊に、ロクなのはいない。


『黙れ! 俺の他に精霊なんか見た事ないやろが!』


 ここまでのやり取りで既に伝わっていると思うが、こいつは僕が心の中で呟いた言葉を、一言一句漏らさず聞きとる力を持っている。

 逆に僕も、こいつの発する“音無き声”を聞き取ることができるので、声に出して話さなくても、こうして心の中だけでやりとりを交わすことができるのである。

 精霊というものは、会話やジェスチャー以外の何らかの方法でコミュニケーションをはかる生き物のようで、人がその“音無き声”を理解しようとすることは、どうやらとても難しいらしい。

 しかしながら、僕がスクイドの奴とやりとりするとき、一体どこをどうしているのかと尋ねられても、よくわからないとしか言いようがない。

 多くの人間がするのと同じように、僕が心の中で何かを“思う”と、それをスクイドが拾ってくれる。

 スクイドの声は、普通の人間の声と変わらない感覚で聞き取れる。

 僕にとってはたったそれだけのことなので、特別なことをやっているという認識はどこにもないのだ。

 そんな力のことを疑問に思う場面も多かったので、よく“不思議なものを視ることがある”と話をしていた海竜亭の店員に、僕のその力のことをどう思うか尋ねてみたことがあったのだが――


『普通の人には聴こえない声が聴こえてくる? あんた何言ってんの……大丈夫? ていうか超気持ち悪いんだけど』

『知ってるか? そういうの、“幻聴”って言うんだぜ。一番いい相談相手を教えてやるよ。グラッツィア施療院の院長先生だ』


 ――あの女め。ちょっと見た目が可愛いからって、何を言っても許されると思うなよ。僕が本気を出したら、お前なんか一発で×××××(またも情操教育に相応しくない言語が使用されたため、一部の表現が削除されました)だ。

 海竜亭のカウンターでいつも酒を呑んでる、あのヘラヘラした髭面の男も許せない――僕の事を(はな)から馬鹿にしてるような態度だし、ちょっと背が高いからっていつも僕のことを上から見下ろすような目遣いをするし、第一お前には話し掛けてすらいないだろうが。

 いつもいつも違う女を連れ歩いてる上に、行く先々でまた他の女に次々と声を掛けたり食事に誘ったりしてああいう輩がはびこってるからいつまでたっても××(一部の表現が削除されました)は蔓延するわ僕の給料は上がらないわ貯金は増えないわ店長のハゲは進行するわ(長いので割愛されました)


『それを本気で口にしたら、明日にはエクエスの海へ撒き餌としてバラまかれるぞ、お前……』


 それから、いつもこいつの姿が見えている僕にはよく分からないのだが、こいつはどうやら、普通の人間には視えないらしい。任意で実体を現すことも出来るようだが、出逢ったばかりの頃は、それが理解できていなかったせいで、随分と恥をかかされたことがあった。


『え? え? どうしたの? 君のとなり、誰もいないよ? 誰と話してたの? ねえねえ!』

『アタランテ、妙な奴と関わるな。世の中にはいろんな人間がいるんだよ』


 アタランテめ……毎度のことながら××(削除されました)みたいな女だが、不必要に近寄って来られたおかげで何も言い返せなかったじゃないか。

 それから、あいつだ。いい歳のオッサンのくせに、馬鹿な小娘に付き纏っているあのハズとかいう男も、毎度毎度顔を合わせる度、珍獣を見るような目付きで僕を見やがって。お前もいつか、×××(削除)を××して××××てやるから覚えておけ。


『思うだけなら、自由や。せやけど、それを表に出すなよ。口に出したらお前、気付く頃には三枚に下ろされとるぞ』


 とにかく、他人の心を読んだり、壁の向こうを透視したり、遠くにあるものをさも近くにあるもののように観察したり――そういった姑息なスパイか覗きくらいにしか向かない魔法ばかりを使いこなせる精霊。それが僕の相棒のスクイドなのだ。


『お前に変態扱いされたらお終いやわ。もうちょっとマシな説明なかったんか……』


 髪と同じ、オレンジ色の短い眉を目いっぱい寄せて、相変わらずスクイドは不機嫌そうにこちらを睨んでいる。

 思えば僕は、こいつの笑っているところを一度も見た事が無い。

 もしかして精霊というのは、笑うことのできない生き物なのだろうか――


『そんなわけあるか。お前と四六時中一緒におるせいで、笑えるような事が一つもないだけや』


 こいつはいつもそうやって強がるが、それでも僕の子分をやめる気配がないことを思うと、僕に何かしらの魅力を感じているに違いない。

 精霊には性別の概念というものが存在しないらしいのだが、明らかに見た目が男のスクイドに好かれたところで誰も得しない。まあ嫌われているよりマシだとは思うが。たとえ救いのない変態的な趣味の精霊ではあっても、僕の手足となって動いてくれる分には、何の支障も無いからだ。


『そういう本音は、後から日記にでもしたためて発散しとけや……』

「いてててて! 痛い痛い! 何をするんだ、やめろ!」


 日がな一日一緒に過ごす存在というのは、天涯孤独の身の上の僕にとってみれば、今のところスクイド以外にいないので、時々自分が本当に声を出して話しているのか、心の声だけを発して話しているのか、分からなくなることがある。

 スクイドに力いっぱい耳を引っ張られた僕は、その日初めてまともに“声”を発していた。

 台詞の初めの方の声がひっくり返っていたような気がするが、今そんなことはどうでもいい。


『それよりお前、今からどうするつもりなんや』

「何がだよ」

『何がってお前! この絶望的な状況をどう切り抜けんのかって聞いとるんやないか!』


 こいつの言ってることがよくわからない。

 今の状況のどこが絶望的だと言えるのか。

 今はただ、追われる先で見つけた樹によじ登って、飛び出す機会を窺っている段階にすぎない。

 樹に登ってからかなり長い時間が過ぎていることは確かだし、その間にどんどん、眼下を埋め尽くす騎士の数が増えてきていることは確かだが――


「よし、スクイド。お前、今すぐ実体化して下に降りて、騎士たちの注意を引き付けろ。僕はその間に城門へ向かおうと思う」

『それ、要するに“俺を囮にして逃げる”っちゅうことやな?』

「何が気に入らないんだ……じゃあこうしよう。空を飛ぶ魔法を使って、とりあえず街の外に逃げるんだ」

『そんな都合のええもん、あるか!』

「じゃあ、時間を巻き戻すマジックアイテムを使って、これまでのいきさつをみんな無かったことに――」

『お前を下へ放り投げんのが一番早い。ほんなら魔法に頼らんでも、一発で何とかなるぞ。お前の人生も一緒にどうにかなると思うけどな』

「待て待て待て! それだけはやめろ!」


 僕の胸倉を掴んだスクイドの目がいつも以上に本気だったので、気が付くと僕は、不覚にも大声をあげながら手足をばたつかせてしまっていた。

 それと同時に、手足に絡まった梢の一部が、ガサガサとやかましい音を立てて落ちていくのが見え、僕は一瞬、眼下の騎士たちに気付かれるのではないかと肝を冷やしていた。

 しかし、騒然とする中庭で、この僅かな異常に気付くものは居ないようだ。

 スクイドの奴め――自分の声が周りに聞こえないからって、僕を焚き付けるような真似をしやがって。

 お前なんかそのうち、××××の中に××してやるからな。覚えてろ。


『聞こえとるわ! 誰を××るって!? 俺が本気出したらなあ! お前なんぞ、一瞬でケシズミにすることも出来んねやぞ!』

「無理だな。何故ならお前は、僕のことが好きだからだ。僕はそうは思っていないが」

『くそっ……こいつに自分のアホさ加減を自覚させるには、どうしたらええんや…………』

「あの……すみません」


 その時。

 樹の側に突き出していたベランダに、人の気配が生まれるのを感じ取った僕は、胸の真ん中が潰れそうになるくらいに縮み上がるのを感じていた。

 驚いた拍子に変態のスクイドと正面から抱き合う格好になってしまったことが悔やまれるが、今がそんな些事を気にしていられる状況でないことくらいは分かっている。

 油の切れた歯車のようにぎこちなく首を向けると、そこには見慣れない人影が佇んでいた。


「あなた方は、さっきから何を話しておられるのですか? うるさくて眠れないのですが」


 こいつ、今なんて言った……?

 瞳の行く先だけをこちらへ向けたスクイドが、そう言っているような気がした。


「お前、こいつの姿が視えるのか?」


 ゆったりとしたローブをまとったその人影は、僕の単刀直入な問いかけにも、目立った反応を見せることなく、さも当たり前のように頷いていた。


「視えますよ。正確に言うとお二人とも姿は見えないのですが、そこに居ることは分かりますし、声もちゃんと聴こえます」


 こいつの言っていることもよく分からない。

 姿が見えないのに、居ることは分かるって、どういう意味だ――?

 面食らった僕は、しばし無言で逡巡する。


『おい、ジョニー』


 しかし、ようやく僕に飛びつく格好をあらためた相棒が、僕の袖を強く引いて邪魔立てしてきたおかげで、答えは見つからなかった。

 こいつはいつも、僕の邪魔ばかりしやがって。

 お前なんてそのうち――


『ジョナサン!』

「何だよ、うるさいな」

『ヤバいぞ……こいつ魔法使いや』

「なにっ!?」

『しかも、相当上級の精霊と契約しとる。こいつの契約精霊と比べたら、俺の存在なんぞカス以下や』

「お前がカスというかクズなのは知ってる」

『冗談言うとる場合か!』

「冗談だと思ってるのか……」


 刹那、後頭部に鈍い痛みが走る。

 スクイドが僕の頭を思い切り殴ったのだ。

 本当ならここで何らかの報復を考えるところだが、殴られたはずみで、僕の仕事着の一部のシルクハットが落下していくのが見え、不覚にもそちらに気をとられてしまった。


「居たぞ! あそこだ!」


 さすがにあそこまで目立つものを落としてしまったのでは、いくら無能な騎士団の連中であろうと、気付かぬはずがない。

 泥棒が何故目立つ格好をしているのかって?

 馬鹿を言うな、僕は泥棒じゃない。“怪盗”だ。怪盗のコスチュームと言えば、ひらひらしたマントにタキシード、頭にはシルクハットと相場が決まっているじゃないか。


「お前のせいで気付かれただろうが!」


 反射的に責任の所在を全てスクイドになすりつけた僕は、“梯子を持ってこい”などと叫びながら樹の周りに群がり出した騎士たちをちらちらと気にしながら、次なる潜伏場所を吟味し始めた。

 とは言え、もはや中庭に逃げ場はひとつもない。

 こうなれば、この寝惚けた様子の魔法使いを突き飛ばして、ベランダへ上がるしかないか――

 魔法使いは相も変わらず、ベランダの淵に手をかけたまま、虚ろな目付きでこちらを見つめている。

 表情の読めないところが何とも不気味な気がしたが、追っ手たちがすぐ側の足元まで迫ってきているこの状況で、もう四の五の言っていられる余裕なんてなさそうだ。


「スクイド! ベランダへ行くぞ!」

『ちょ――! お前、俺の話聞いてなかったんか! そっちには――!』


 闇夜を駆ける黒猫のように颯爽と――跳び上がった姿を思い浮かべながら踏み切ったはずだったのだが、ばきばきと音を撒き散らした上枝が、身に余る僕の体重をあっさりと投げ出そうとするのがわかった。

 それでもどうにか目標地点にしがみつけたのは、何より僕の生まれ持った脅威的な運動神経と、不屈の精神のなせる業だったのだろう。

 けれど、猿も木から落ちるとはまさにこのことだ――バランスを崩した勢いで、しこたまベランダの手すりに顎をぶつけた僕は、僅かの間意識を失ってしまったのである。


『ジョナサン! 起きろ! ホンマに捕まってまうぞ!』


 続けざま、真っ黒に塗り込められた世界の中で、ほんの一瞬だけ、どこかから転げ落ちるような感覚があった。

 頭の奥の奥で響いた相棒の声に揺り起こされた僕は、すぐさま意識を取り戻していた。


「き、君は――」


 ぱっと目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がっていたのは、見飽きてさえいる相棒のしかめっ面でも、敵のひしめく中庭の景色でも何でもなく――ベランダの端に佇んでいた、あの魔法使いの顔だったのである。


「あの」


 長い睫毛のかかったアメジストの瞳が、息の掛かるほど間近なところから、僕をじっと見上げている。

 途端、まるで時が歩みを止めてしまったかのように、辺りの喧騒がぴたりと止んだ気がしていた。


退()いていただけませんか?」


 そこに至るまでに、何がどうなったのかは、覚えていないのでよく分からない。

 ベランダの床に両手両膝をつく格好で目を覚ました僕は、いつの間にか、魔法使いを正面から押し倒してしまっていたのだ。

 樹の陰が落ちていたこともあり、さっきまではよく見えていなかったのだが、間近で見る魔法使いの姿は、僕がこれまで街で見かけて来たどんな女性も比較にならないほど、美しかった。


『――え』


 美しいという以外に、相応しい言葉なんてどこにも見つからない。

 いや、本当のところを言えば、言葉なんて単純なもので飾ることすらはばかられるほどだと言ってもいい。


『ちょ……ちょっと待て、ジョナサン! よく見ろ、こいつは……』


 言われなくとも、穴が開くほど見ているじゃないか。馬鹿な奴め。

 眠たそうにとろりと座った、切れ長の瞳。

 すっきり通った鼻筋と、控えめな薄い唇。

 雪のように白い肌と、細い首筋。

 彼女を形作る何もかもが、兎にも角にも美しかった。


「麗しの姫君。貴女こそ、白雪(ブランネージュ)の名を冠するに相応しい――」


 過ぎゆく時間も忘れ、僕がその可憐な姿に目を奪われていたときのこと。


「貴様、何をしている! フォルトゥナートから離れろ!」


 ベランダから部屋へと続く扉が、吹き飛びそうなほどの勢いで開け放たれた。

 月の光を受けて、はらはらと何かが宙を舞っている。

 目をこらしてみると、どうやらそれは無造作に切り飛ばされた髪の一部のようだと分かった。

 見慣れた緑色を宿しているところを思うと、どうやらそれは僕の髪の毛らしい。

 扉が開くのとほぼ同時に聞こえた鋭い音は、怒鳴り込んできたあの銀髪男の剣が、空を薙ぎ払う音だったようである。

 気が付くと僕の体は、いつの間にか魔法使い――フォルトゥナートという名前のようだ――の側から、随分離れたところに転がっていた。

 埃だらけになった僕のマントの裾を握り締めているところから察するに、僕を引っ張ったのはスクイドの奴らしい。お前も、たまには役立つことがあるんだな。今くらいは認めてやってもいい。


『この期に及んで何をヌケヌケと……後から絶対シバいたるからな!』


 それにしてもあの銀髪男、いきなり斬り付けてくるとは、騎士道の風上にも置けない奴だ。

 お前が力に訴えるなら、僕にも考えがある。

 相棒の遠吠えを優雅に無視した僕は、腰のレイピアを抜き放ち、銀髪男に向かってゆっくりとそれを突きつけた。


「ふっ――男の嫉妬ほど醜いものはないな! 僕に剣を向けるとはいい度胸だ! 倍返しにしてやるから、覚悟しておけ!」


 実を言うと、この剣を抜いたのは今が初めてだったりする。

 店に置かれていた武器の中で、一番かっこいい造りのものを見繕ってきたつもりだったんだが――レイピアってこんなに重かったっけ? 何だか既に、腕が上がらなくなってきている。


「大丈夫かフォルト。何もされなかったか?」

「ジーク……何かされるって、どういうこと? さっきから、何が起きているのかよくわからないんだけど」

「説明は後だ。先にあの変質者を始末する」


 震える切っ先の向こうに居たジークとかいう銀髪男は、僕に一瞥もくれないまま、フォルトゥナートを助け起こしていた。

 寄り添う二人の様子が何だか異様なほど絵になる気がして、苛付いた僕は思わず地団太を踏んでいた。


「誰が変質者だ! 僕は完全無欠の大怪盗ジョニー様だぞ!」

『自分で言うか、普通――しかも、ご丁寧に名前まで』

「お前以外に誰が居ると言うんだ。大人しく武器を捨てて投降しろ。これ以上抵抗しないと約束すれば、手荒な真似はしない」

「いきなり斬り付けてきておいて何を言うか! 麗しの姫は僕がいただくぞ!」

「姫? どこにいるんだ、それは」

「もしかして、ノイシュ様に恋人が出来たの? それは知らなかったな」

「いや、そんな話は俺も聞いていないが……」

「うるさい! とにかくお前ら、それ以上くっつくな!」


 それから先のことは、ムシャクシャしたからやっただけだ。後悔はしていない。

 ――いや、今思えば、少しくらいは後悔したかも。

 勢いに任せてレイピアを振りかざした途端、大人げなく感情を剥き出しにしたジークが、目にも止まらぬスピードでこちらへ走り込んでくるのが見えた。


『アホかお前! 下がれ!』


 どよめきを切り裂くように、鼓膜を揺るがす鋭い金属音が響き渡る。

 月明かりの下、僕の束縛を逃れたレイピアが、場違いなほど軽快に輪舞を踊っていた。


「え、えーと――」


 それ以外のことは、何も見えなかったのでよく分からない。

 今分かるのは、後方に尻餅をついた僕が、すっかり丸腰の状態にされてしまっているということと――ジークの突き出した切っ先が、僕の鼻先数セルトのところでぴたりと静止しているということだ。


「武器を振り回す相手に、手加減するつもりはない」


 先に斬り付けてきたのはお前の方じゃないか。

 けれど、その言葉が形を成すことは無かった。

 心底思う――人間という生き物が、心の中の言葉で会話する生き物でなくてよかった。

 そうでなくては、僕は今頃生きてはいなかっただろう。


「子供の茶番に付き合う時間などない。もう一度だけ言う。死にたくなければ抵抗するな。次は無いと思え」


 わりと整った顔立ちをしていると思っていた男の形相が、怒りに塗り固められ、酷く歪んでいる。

 要するに、“死ぬほど怒ってるっぽい”ということだ。

 こうなったら、残された策はたったひとつしかない。

 出来ればこの手段だけは使いたくなかったが、状況が状況だけにやむを得ない。

 僅かに後退(あとずさ)った僕は、油断無く身を屈めると、意を決して言い放っていた。


「すみませんでした」

最初と言う事で、(ロイド以外)自分のキャラばっかり使って書いてみました。

こんなノリでも弄っていいよ!という方は是非声を掛けてやっていただけるとありがたいです><;

ジョニーの口があまりに悪いので、許可をいただいた方でないと弄らない方向で……←どんな小心者


佐藤つかささん、ロイドを弄ってすみませんでした(渾身の土下座)

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