序章
序章白清山と呼ばれる山に、寺院がある。
長い長い階段を上り詰めた場所にあるその寺院の名を『柊寺』(ヒイラギデラ)と、麓の人々は呼んでいた。
柊寺には、和尚と子供が住んでいた。
和尚の名を雲黙、子供の名を針と言う。
針は、馬借の頭の娘であるが、大陸を渡り歩くその稼業に着いていくことはできなかった。
針は、馬の扱いに慣れだしたのは、月影の乱の中盤だったかもしれない。
和尚が寝込んだ次期があり、町まで薬を買いに馬を走らせたのが始まりだった。
白清山の麓には、医者がいない。
馬で走って、何丁か先にある『幹薬』という薬屋まで行くのが、村の日常だった、が、置き薬を持ってくる筈の商人は、冬の雪に阻まれてやってくる気配がなく『幹薬』の薬の在庫は底尽きそうだった。
西の国に位置するコノ場所は、大陸でも有名な砦の1つでもある。
白清山麓の村まで来るためには、山越えをしなければならない。
道筋としては、円石の城下を抜け山道を歩き遠野の城下へと抜け、やっと白清山が見えてくるといった所だろうか。
真冬に、危険を犯して山越えする輩は、余程のアホか任務を仰せつかった忍者くらいなものであろう。
月影の乱が始まって、何度目かの冬。
西白清山にも戦色が広まり、人々は毎日を怯えて過ごしていた頃。
白清山『柊寺』から、針は薬を輸送をするために、円石城下へと向かう途中だった。
針の年はその時確か12歳だったような気がした。