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日常エッセイ

英『会話』のすすめ

作者: 上条ソフィ
掲載日:2026/05/17

 英語を何年も勉強しているのに、英会話ができない。


 そんな悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。


 人は何かが上手くいかないと、原因を探る生き物です。それ自体は良いことで、そうやって改善を重ねることで人は技術を発展させていったのでしょう。

 ですが、これが行き過ぎると、自分が頑張ってもどうにもできないのなら、周りのせいに違いないとも思ってしまいます。


「義務教育であんなに英語を勉強したのに英会話ができないなんて、日本の学校教育は間違っている」と学校教育のせいにすることから始まり、そこからさらに進むと、「海外では〜(教育現場がうんちゃらとか、環境がうんちゃらとか)」という話が始まったり。

 以前どこかで聞いて、「マジで?」と思ったのは、「日本人は舌が短いから英語の発音に向いていない」というもの。舌の長さは……あんまり関係ないんじゃないかな? と思ったものです。


 発音は脇に置いておくとして、「会話」だけにフォーカスするとしたら、教育現場や環境に要因を求める前に、一歩引いて考えてみてください。

 そもそも、会話って難易度がだいぶ高いスキルですよ。


 会話には、以下のものが含まれます。


 相手の話を聞く。

 それを理解する。

 それに反応する。

 自分の考えを頭で考える。

 それを言語化する。

 相手に伝える。

 相手の反応を見る。


 これの繰り返しです。


 つまり、リスニング(listening)、アンダスタンディング(understanding)、リスポンディング(responding)、シンキング(thinking)、スピーキング(speaking)のスキルを総動員するのが、会話です。さらに場合によっては話しながら読み書きすら求められることもあります。


「たかが会話」などと言えるのは、ある程度成長した人間だからこそです。

 赤ちゃんは、もちろんこれらをすべて一気にできるわけではありません。初めは意味のない(ように大人には聞こえる)ことを口にします。そしてだんだんと、相手の反応を見るようになります。

 相手と同じ反応をしたり( ミラーリング)、人によって言うことを変えてみたり、相手の行動を変えようとして、いろいろ言ってみたり(「お腹すいたー!」、「オムツ変えてー!」など)しながら言葉を覚えつつ、徐々に周りの人と会話ができるようになるのです。


 英語などの第二ヶ国語を学ぶことは、その言語で赤ちゃんになるようなもの。赤ちゃんに大人のような会話ができないように、言語を学び始めの人にとって会話なんて、難易度マックスなのです。


 それに、母国語だって会話は十分に難しいです。「体は大人だぜ!」な年頃まで成長したからといって、いつもきちんと会話ができるわけではありません。

 こんな経験をしたことはないでしょうか。


 週末、あるいは年末年始や夏休み。

 誰とも会話することなく家に引きこもり、家族とは最低限の会話のみ。あるいは一人暮らしの人なら、独り言のみ。

 そして、いざ休み明けに学校や職場に着くと、やべ、言葉が全然出てこないわ、と焦ること。

「おはようございます」はかろうじていつもの癖で言えても、その後が続かない。

 お口がオフモードになってしばらく経つと、リブートするには時間がかかります。休暇が長ければ長いほど、スリープ状態が長いわけですから、当然と言えば当然です。

 母国語だって人と会話するにはウォームアップが必要なのだから、とっさに英語で話しかけられたら反応できないのは普通のことです。


 知らない人に街角でいきなり英語で話しかけられたら、びっくりもします。道なんて聞かれても、こっちが知りたいわ、と思う。


 それに、例えば海外で迷子になり、自分から話しかけなければいけないシチュエーションになったとしても、知らない人と話すのは緊張するものです。

 声が震えたり、噛んだり、声が大きくなったり、小さくなったり。これは人間としての至極普通の反応であり、落ち込む必要はありません。


 母国語でだって、普段話さないような人と話そうと思ったら緊張します。

 ガタイのいいお兄さんだったり、強面のお姉さんだったり。普段子どもと接しない人は子どもとどう話したらいいか分からないでしょうし、ご老人と話す機会が少ない人は、ご老人とどう接していいか分からないはずです。

 サザエさんのような時代だったら、幼児から老人まで満遍なく話すことが必須だったでしょうが、現代では、その気になれば一言も話さず一日を終えることもできてしまうものです。

 会話なんて、いる? とも思うもの。


 でも! せっかく勉強したんだから、英語で会話ができるようになりたい! という方。

 そもそも、英語のゴールが英会話だなんて、誰が決めたのでしょう? 

 英語のドラマを観る、小説を読む、ネットで調べ物をする、英語でブログを書いてみる。これらだって、立派な英語の使い道だし、ふわふわとした『英会話』なんてものを追いかけているより、よっぽど実用的です。


 英語を学ぶ目的が英会話でいいのか、しっかり考えてみた方がいいと私は思います。でないと、途中で挫折して、残るのは挫折感と無駄に費やした費用と時間、なんてことになりかねません。


 そもそも、『英会話』のゴールなんて、ふわっとしたものです。

 会話のテストであれば、ある程度は試験官が採点してくれるでしょうが、リアルな会話なんて、話題がどこに転がっていくか分からないわけだし、評価などしようがありません。

 話すトピックにもよるでしょうし、個人の興味や関心も違いますし、性格によって、話好きな人と口下手な人では、普段の会話量がそもそも違うので、比べようがありません。


 あまりここを突き詰めていくと、「そもそも私、陰キャだし。人と話してもつまらないし。てか、相手だって私なんかと話しても……」なんていう、答えの出ない自分探しの沼に入り込む危険があります。


 それに、会話は相手がいてこそ成り立つもの。話しやすい人なら会話は弾むかもしれませんが、話しにくい人とはどう頑張っても限界があるものです。

「俺、校長先生でも社長でも、何だったら首相でも大統領でも、多分ふつーに話せるっす。え? 緊張? しないっすねー! なんつーか、ノリで」なんて人は、おそらく一握りです。


 世代間もある気が致します。私は、今時の学生さんがハキハキと自分の意見を言っているのを聞くと、ジェネレーションギャップを感じます。学校とは先生の話をおとなしく聞く場所である、という教育を受けた世代としては、「なんて堂々としているんだ……!」と関心します。こちらの相槌としては、「なるほど」一択です。何というか、口を挟む隙がなくて。



 英会話というふんわりとしたものだけを追い求めることはあまり積極的におすすめはしませんが、英語を使った会話なら、どんどんしたらいいと私は思います。


 英語だと思うから肩肘が張るのです。結局、何語で話そうと、ほとんどの場合はただの日常会話であることに変わりはありません。


 では、どうやって?


 対人コミュニケーションの自己啓発本などに必ず書いてあるのは「相手の話を聞け」というものです。


 いいですか? あなたは「会話」をしているつもりだろうけど、ほとんどの場合はあなたが一方的に話しているだけです。「ああ、今日は友だちといっぱい話せて楽しかったな」とあなたが思ったら、それは相手が聞き役に回ってくれたと思った方がいい。あなた、話し過ぎなんですよ。多分お友だちは、「今日あの子めっちゃ話してて聞き疲れたわ……」と思ってるはずですよ。


 といったことが、もう少しオブラートに包まれて書いてあるものです。


 ビジネスから恋愛から交友関係から、基本はアクティブリスニングなんだそうです。何をもってアクティブというかは人それぞれですが、とにかく積極的に聞け、ということなのでしょう。


 これを英語でやればいいのです。

 どうせネイティブと話したって、語彙力が圧倒的に違うのです。あちらに気持ちよく話してもらって、うんうんと相槌を打つだけでも、会話は成立します。それで、「こいつ、いっつも話聞いてくれるいい奴」と思ってもらえたら、他の集まりにも呼んでくれるかもしれないし、困っている時に助けてくれるかもしれません。


 聞き役に回る側としても、ネイティブと会話ができて、なおかつ自分の知らないことを教えてもらえるかもしれない、いいチャンス。ウィンウィンです。


 でも、英語で一気にがーって話されると、固まっちゃうんだよね、という方。ご安心ください。ある程度英語を聞き慣れてくると、会話の内容はまったくわからないけど、「あ、ここは相槌を打つタイミングだな」というのが分かってくるものです。


 そこですかさず、

 Wow!

 Nice!

 Yeah.

 Good.

 Uh-huh.

 I see.

 OK.

 くらいのバリエーションをローテーションして相槌を打っていけば、会話は転がっていきます。


 それから、おうむ返しも有効なテクです。相手の言ったことの最後三つ(もしくは重要なところ)をそのまま繰り返して、ちょっと質問っぽくすればいいのです。


 例えば、こんな会話。

 マークとあなたの会話としましょう。


 マーク:Look! I’ve got a new iPhone! (見て! 新しいiPhone買った!)


 あなた:A new iPhone? (新しいiPhone?)


 *ここでは、マークの話の最後三文字(a new iPhone)をおうむ返しする。


 マーク:Yes! I finally got it last Saturday. You see, my phone was acting weird for a long time and I wanted a new one, but I didn’t have money, so I saved up my lunch money and finally, this!


 うーん、早くて何言ってるかまったくわからんな。まあここはとりあえず褒めておくか。


 あなた:Oh, nice!(いいね!)


 *話の終わりっぽいところですかさず褒める。


 マーク:Right? There is this cool feature. Tap this app.


 なんかようわからんが、指差してるとこ触ってみるか。


 あなた:Tap this?(これタップするの?)


 *明らかに「はい、ここ注目!」と見せられたスマホ画面をあなたも指差してみる。そして、tap thisをおうむ返しする。


 マーク:Yes! Look, it has.….


 なんて具合に会話は進みます。


 マークは新しい電話を自慢できてよし、あなたはiPhoneのことを知れてよし(知りたいかどうかは別問題ですが。好奇心って大事です)。


 分からなくても大丈夫。リスニングの授業でもないし、ノートに聞こえた英単語をすべて書き出せ、などと言われることもないし、後でテストされるわけでもない。



 それに、もし、ですが。例えばリアルな会話で、会話の後に質問されると仮定してみましょう。

 こんな質問項目があったとします。


 彼は何について話していたでしょうか? 以下の選択肢から答えなさい。

 a. 彼はタコが好きだ。

 b. 彼はタコが好きではない。

 c. 彼はイカが好きだ。

 d. 彼はイカが嫌いだ。


 この場合の合格基準のアンサーは、「なんか海鮮のことについて話してたっぽい」です。


 ここがレストランで、ウェイトレスのあなたが客のアレルギーについて聞いているならともかく、今後、この人とお付き合いする中で、イカやタコの話がどれだけ出るでしょうか? 

 おそらく忘れてしまっても問題はないはずです。必要になったらまた聞けばいいのですから。


 でも……こんなの会話じゃない。もっと私は自分のことを話したいの! ハートフルで、ソウルフルな会話がしたいんだ! という方。

 ちょっと考えてみてください。


 アメリカでバスや電車に乗ると、知らない人同士が会話を始めるものです。その内容は多岐に渡り、自分の病歴やら離婚歴やら家族の問題や、使ってる糖尿病の薬やら、こんな知らない人にここまで話す? くらい話します。

 ぶっちゃけ、そんな話をされても反応に困りますし、会話に混じらなかったとしても、周りでうっかりその話を聞いてしまったら、人様のプライベートに割り入ってしまったような、なんともソワソワする気持ちになるものです。


 聞いてはいけないことを耳にしてしまった。いえ、盗み聞きしてるわけではないんですよ? ただ、あなたの声が大きいから……

 ともなるものです。


 そういえば以前、アメリカのバスに乗っていた時。なにかのきっかけで会話を始めたお相手が「自分は刑務所を出たばかりで、これからは心を入れ替えて人に親切にしようと思う」という話をし始めました。当時ほぼ社会経験がなかった私は、どう応対するのが正解なのかわからずに、困ってしまったことがあります。

 真偽のほどは定かではありません。嘘をつける、というのも知らない人と話すメリットでもあるのでしょう。

 が、こういうことは結構身近にあるものなのか? と混乱した覚えがあります。


 そんなことしなくていいのです。初対面の時から、ありのままのすべてを晒し出す必要なんてまったくありません。親しくなったら、相手だってあなたのことを聞いてくれるはずです。


 なので、英語を使った会話は、ラジオを聞き流す感じで参加すればいいと思います。ちょっとクスッと笑っちゃったり、「いやそれなくね?」と突っ込んでみたり、「ええ! 知らなかった!」と驚いてみたり。それくらいでちょうどいいのです。

「話聞いてなかった?」と言われるかもしれませんが(私はよく言われます)。


 それでもいいのです。先週友だちと、同僚と、家族とした会話を、すべて覚えていますか? 

 会話なんて、消えてなくなるもの。楽しかったという印象が残っていれば、それで充分なのです。不快なことだったら、なおのこと忘れた方がいいです。

「あの人にこんなこと言われてて、私、こうやって言い返してやったのよ。そしたらあの人! こんなこと言ってきて! きぃぃぃ!」となるのは、精神的によろしくないです。そういうのは忘れましょう。


「7-38-55 rule」というものがあります。アメリカの大学教授が主張しているもので、会話とは、「7%が言葉、38%が声のトーン、55%がボディーランゲージと顔の表情」なのだそうです。対面のコミュニケーションに限っていうのなら、言葉なんてウェイトは一割にも満たないのです。


 ですので、まずは相槌から。勉強以外で、ゆるっと英『会話』のすすめです。


中学校で学ぶ英単語プラスアルファを詰め込んだ、『A to Zで綴る瑛子の日々』を連載しています。英会話学校で講師を務める中年の日常と、英語のコツを織り交ぜたフィクションです。


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